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第四十話 鶴翼の陣

 ホーシツの街へと移動していく帝国兵、その背後には帝国兵の動きを察した愚連隊、それに着いてきた食人族と魔物、その背後に巨大竜が続いている。


「残念ながら、全員は救えない……街を守ることで手一杯だ。

 鶴翼の陣で横につける。気に食わないが、帝国兵は助けてやる。

 食人、と魔物に好きなだけ弾を食らわせてやれ」


 戦闘員が配置した前線用のトレーラーを布陣させ、その上部から遠距離攻撃を仕掛ける。

 非戦闘員を載せたトレーラーや司令室・生活、加工生産トレーラーはステルスモードで離れた位置で待機中だ。

 鶴翼の陣、V字型に配置したトレーラーの上部に設置した巨大砲塔から敵に対して容赦のない砲撃を行う遠距離殲滅用の布陣だ。

 集団戦闘であれば、前線が敵を受け止めて、動きを止めた後方に銃弾の雨を降らせる。

 射線のクロスファイアポイントに置かれた敵は、悪夢を見ることになる。

 前方から銃弾の雨、背後からは魔物に追われ、厄介な食人族は殲滅される。

 突然現れた俺たちに驚きながらも、帝国兵たちは街からの銃弾が届かない場所で迂回して現場を離れていく。

 街の防壁はこちらを味方か敵か悩んでいる様子だったが……


「ホーシツの住民及び衛兵に告げる。

 我々は移動商隊であなた達とは敵対するつもりはない、現在は目の前に迫った危機と戦うためにこちらへの攻撃は避けて欲しい。

 ついでに、手土産にあのでかいのを仕留めて行くので、我々を受け入れて欲しい」


 スピーカーからのアナウンスを流して対応する。

 ホーシツの街はすでに門を閉ざして防壁の上部から俺たちの戦いを観察している。

 邪魔が入ることは無さそうだ。


「よし、雑魚と人食いは蹴散らして……あの群れと……デカブツだな」


「ロカたちの部隊は後方の群れに攻撃を集中させるのだ」


「ジルバ隊も同じだ」


「うちの隊は……逃げられたやつで安全に保護できるやつを保護してやってくれ。

 さて、いくぞ!」


「はいゲイツ師匠!」


「おまかせください!」


 逃げ惑う人を軽く飛び越えて、巨大な首長竜へと駆ける。

 海岸線沿いに生息する肉食の……恐竜?

 以前戦ったキラーングよりも巨大だ。動きは遅いが、その長い首による叩きつけや、重量を利用した体当たりなどは強力だ。

 小さな個体はトレーラーからの射撃でバタバタと倒れていくが、巨大種、というか長命種と呼ばれる奴は体表にわずかに傷が付く程度でしか無い。

 

「ティラノよりでけぇな!」


「地面が揺れてるのだ……」


「まずは、止める!! 【中伝 岩盤返し】!」


 長命種の走る先に巨大なクレーターを作る。えぐり取った背後の群れに降り注ぎ、何体かを押しつぶす。

 流石に巨大な穴が目の前に出来たことで長命種も急ブレーキをかけるが、質量が大きすぎるので地面をえぐりながらその窪みに落ちていく。

 底に到達すると、凄まじい衝撃が周囲に伝わる。


「さて、この中なら街に被害は行かねぇから思いっきり戦えるな」


「……ここから街の被害を心配するって……何をするつもりだったんですがか師匠……」


「ジルバ、そんなこと心配する暇はないのだ!」


 ボスを心配したのか数体の首長竜が穴へと飛び込んでくる。

 トレーラーからの銃弾で止められない、それぞれがそれなりに成長して戦える個体だ。


「でかいのは俺がやるから、まわりの相手しておけ、巻き込まれるなよ!」


「わかったのだ!」


「承知!」


 ようやく立ち上がった長命種、こかされたことなんて無いだろうが、小さな頭部では対して頭にも来ていないのか、キョロキョロと回りを見渡している。


「【かかってこいよ(挑発)!】 お前の相手は俺だ!」


 次の瞬間、巨大な頭部をハンマーのように俺に向かってしならせる。


「しゃあ!! こいや!! 【金剛身】!!」


 ズガン!! とすさまじい衝撃が剣に響く……いいねぇ、重いねぇ!

 ここ最近受けていない重い攻撃に剣を握る手がしびれる。


「いいねぇ!! 痺れるねぇ、ほらよ、返すぜ!! 

【流し打ち】!」


 衝撃を絡め取り、自らの力を乗せて、打ち下ろしてきた頭を剣の腹で叩きつける。


 ゴアン……!


 凄まじい音共に、長命種は一歩ふらついたように足を動かす。

 それだけでも地面がぐらりと揺れる。


「重いなぁ……あんまり時間をかけると、地震で街に被害が起きそうだ……」


 何度か剣を打ち付けているのだが、鱗の強度が想像以上に高い。

 さらには鱗の下には分厚い脂肪と柔軟性のある筋肉、打撃も効果的ではない。

 小さな傷をつけていても埒が明かない。

 ロカやジルバは着実に一体一体を倒している。


「弟子の成長とは……嬉しいもんだな……よし、師匠らしいとこを見せてやるか!」


 鞭のような敵の猛攻、その一撃一撃が都市の防壁も紙のように粉砕する威力を持っている。

 最初の一撃で学習したのか、勢いを殺さずに左右に振り払うように止めること無く首を振り払ってくる。


「いいねいいね! どんどん重く早くなっていく!」


 受け方を損なえば、吹き飛ばされる。

 俺は気を練って大地と足を繋げていく、自分自身の中心に巨大な柱が通るイメージだ。

 一歩、一歩と前に出ると、攻めているはずの長命種がほんの少しづつ、後方へ下がっていく。

 そして、振り下ろしていた頭が動きを停めて、俺を引いて観察する。


「引いたな……()()()()()()()()()()()


 今まで攻撃を受け続け、大地に溜め込んだエネルギーと気を融合させる。


「【至伝 地斬空烈】」


 低く構えた剣を、そのエネルギーととも大地を蹴り、剣に乗せて振り上げる。

 一瞬怯んだが首を振り下ろし迎撃し、俺を叩き落とそうとする動きを見せるが……


「遅ぇよ」


 すでに俺は敵の背に着地している。

 ドーン、と頭部が地面に落ちる。

 首が支えを失い大地に伏せ、大量の血液がドクドクと窪みに排出されていく。

 すでにロカもジルバも自分の仕事を終え、俺の一撃を食い入るように見ていた。


「まぁまぁだな」


「もうロカは驚かないで、追っていくだけなのだ」


「先輩には負けません!」


 商会と街からの喝采に迎えられ、俺達は帰還する。

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