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第三十七話 成長

「人が圧倒的に足りません」


 マーチが深刻な顔で相談が有ると言ってきた。

 内容は人手不足だ。

 新たにアンツたちを迎えたが、もちろんすぐには一線では働けない。

 教育や訓練から始めていく。

 それでも出来る範囲の仕事を真面目にこなしてくれるし、どうやら安定した生活にすごく感謝してくれている。アンツは晩酌に付き合ってくれるしな。


「もう、合法人さらいしましょう」


「何だその物騒な名前」


「アンツ達にやったことをこの地でやりまくるだけです。許可をください」


「教育とかは間に合うのか?」


「間に合わせます」


「わ、わかった。穏便にやっていくから下がってくれ」


 どうやらマーチに集まる仕事の量が半端ないことになっている。

 このマーチをここまで必死にさせるなら、限界を遥かに超えているんだろう。


 こうして、俺達の短期目的は、寒冷地帯に隠れ住む人々に探し出し交渉して、商隊に参加してもらうということになった。


 この交渉にはマーチとアンツが大活躍した。

 さg、交渉の方法は色々あるものだなぁ……

 安心安全で快適な寝床と何不自由ない食料、この地で暮らす人からしたら、何に変えても手に入れたい物を提供する事が、アンツ達の口から嘘偽りなく語られれば、多くの者は賛同してくれた。

 もちろん、こちらを襲い全てを手に入れようという浅慮の極みのような輩もいたが、物理言語でお引取りいただいた。


「移動都市になってきてるな」


「おお、ゲイツ様上手いこと言いますね。移動都市……いい響きです」


 ポポが食いついてきた。

 この俺のつぶやきが、後に移動都市、移動国家と呼ばれるきっかけになることをこの当時の俺は知らない。


 トレーラーも増えたため、キャンプ時もちょっとした村か街くらいになっている。

 天候が悪ければドーム状にも出来る。

 もちろん今はドームを展開しているために、この空間内はまるで家の中のように暖かい。


 子どもたちは笑顔で走り回っている。

 人々には笑顔が溢れている。


「悪くねぇな……」


 あれからいくつもの避難民の暮らしを見てきたが……正直にキツイものだった。

 人々の目は濁り、子どもたちが自分たちの存在が親から食を奪っていることにも気がついていた。

 笑っている子供なんて皆無だった。

 赤子をあやす女性も、申し訳ないという気持ちで溢れていた。


「偽善で結構……俺は、ガキと女は笑っているのが好きなんだ……」


 目の前の光景が、手の届く範囲を救った気になっている偽善の絵だとわかっている。

 それでも、俺は、俺の手の届く範囲は救えるだけ救って、笑っていて欲しいんだ。

 あの時だって、なにか考えた動いたわけじゃない。

 アイツラが幸せになってほしい、そう思ったら身体が動いた。

 俺は満足したし、後悔なんて一ミリもない。

 結果、今こんな面白いことに巻き込まれて充実している。

 俺は、これでいいんだ……


「師匠、なにニヤニヤしてるんですかー?」


「ゲイツ師匠が一人で静かに飲んでるなんて……」


「失礼な弟子たちだな」


「だっていつも大騒ぎの中心じゃないですか」


「お母様達から、子供への配慮をとマーチを通して言われてな」


「酒に呑まれる悪い姿を見せるなって事ですね」


「ぬぐっ……」


「師匠は軽く飲むって事を覚えたほうが良いのだ」


「ぐっ……言い返せねぇ……ん……? 何の気配だ?」


『ゲイツ様、すみません、結構な数の魔物がこっちに向かってきてます。すぐに司令室へお願いします』


『いや、このままロカとジルバと迎撃に出る。子どもたちに俺らの勇姿をでも流してやってくれ』


『わかりました』


「てことで、行くぞ弟子共」


「わかったのだ!」「ははっ!」


 魔物と戦う俺達の姿はモニターを通じて子供や仲間になった人々に娯楽として受け入れられている。憧れてくれたり、訓練に熱が入ったりもする。


 結局、寒冷地帯を抜けるのは予定よりも随分と時間がかかってしまった。

 途中人さらい共と一戦を交えたりしたが、弱いものを狙って狩るような輩の相手はロカとジルバに任せて十分だった。


 結構いろいろな魔物とも戦ったが、ティラノ以上の獲物には出会えなかった。

 ああ、キカイとも散発的に戦っているが、もうすでにロカ、ジルバの相手にもならなくなってきている。


 ロカとジルバは気の扱いも上達して、基本技のいくつかを会得した。

 二人共間違いなく天才だ。

 ポポは基本的な訓練に参加したが、直ぐに人事面の統括で忙しくなってしまった。

 人が急激に増えてマーチの片腕として実務側に回らざる負えなくなってきた。

 その代わり、自警団的な集団が出来たので、その訓練の様子を見てやるようになった。

 ロカとジルバも自分で学んだことを人に教えることでさらに深く学ぶことが出来るので、良いことだと思う。

 基本的には俺がてっぺんだが、実質的な仕切りは二人に任せている。

 得手不得手が有るので、でかい得物を使う奴らは俺が指導している。

 どうにもむさ苦しいが、気持ちのいいやつが多くて俺の熱も入ってしまう。

 

「ゲイツの兄貴! 見てください筋肉が喜んでます!」


「ああ、そうだろ、ちゃんと休めよ、いじめるだけじゃなくてきちんといたわってやるんだ!

 そうすれば筋肉は答えてくれる!」


「「「「押忍!!!」」」」


 寒冷地帯から湿地地帯へと環境が変わる頃には、俺達の商隊は200名を超える大所帯になっていた。


 





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