第三十一話 狂人
とりあえず気配を消して状況を観察する。
「くそ! 荷物を守れ、食料を持ってかれるぞ!」
「ああ! バイツが捕まった!!」
「糞がー!! 人肉ぐるいどもぉぉ!!」
どうやら商隊のようなものが襲われている。
そして、襲っている側は、はっきり言って異常だ……
倒した人間を、その場で解体して喰らいながら襲い続けている。
『マーチ……ホームから北東2キロほどのとこで、話には聞いていた食人族に襲われている商隊を発見した。どうするべきだと思う?』
『ゲイツ様次第ですが、食人族は基本的に見つけたら全て殺すべきです。
一人残せば仲間を呼んで執念深く襲い続けます。
不幸にも、奴らは食料に事欠かないので、数は多いです』
『元はフッコ族なんだろ?』
『一緒にされたくないですね……しかし、このあたりにいるのは珍しいですね……』
『わかった。俺たちの安全のためにも……狩っておく』
『後武運を……熱い風呂を用意しておきます』
『ああ……』
正直、人殺しは、好きじゃねぇ。
だが、ニタニタと笑いながら生きた人間をぶつ切りにして喰う奴らは、もっと嫌いだ。
念の為、マントと顔を覆うフードで姿は見せないようにする……
「ふぅ……【閃光斬り】」
一直線に食人族の群れに突撃する。
剣刃の通り道にいた食人族の首が落ちていく。
戦闘にもしない。突然のことに呆然としている食人族の首を落としていく。
食人族は趣味が悪く、人の頭蓋などの骨を身に着けたりしている。
武器は禍々しい鎌や鉈、粗末な物だ。
数は多いが、個人の技量も低い……
薄暗くなってきている中、奴らには黒い影が走ると仲間が死んでいく姿しか見えないだろう。
体の一部を失いながらも助けられそうなものには治療キッドを使用する。
「……ただの偽善だから、気にするな」
全ての食人族を殺し、まだ意識のあったピープの民に治療を開始し、それだけ告げて縮地でホームへと帰宅した。
周囲に食人族はいないことは確認してあるが、尾行されないとも限らないので、少し迂回してから帰る。
隠形も仕込まれているから、これで着いてこられたら、かなりのレベルになる。
そんな相手がいるなら、俺が本気になっても危ないって話になってくる。
できれば御免被りたい。
「帰った」
「お帰りなさいませ、先に風呂になさいますか?」
「ああ、悪いなマーチ、何も言わずに」
「いえ、何かあるんだろうなとは思っていたので」
「さすがは商人、よく見ているな」
「野盗のたぐいだと思いましたが、食人族ですか……川沿いを上がってきたか……」
「気持ち悪い奴らだな、あれは……」
「話が通じるわけでもなく、人を襲って食料を奪って、人を喰う……
厄災みたいな奴らですよ……魔物と変わらない、むしろ数と知恵がある分もっと酷いです」
「戦いはお粗末なもんだったが、強い奴らもいるのか?」
「ええ、幾度の狩りを成功させた奴らは装備も良いですし、狡猾になっていきます」
「なんだって人肉食うなんて狂った状態になってるんだか……」
「あまり気分のいい話ではないのですが……女性を攫って、子を産ませ、そしてその集団で生活した子が成長する、そうすると何の疑問も持たずに人肉食族になっていく……と……」
「救いがたいな……」
「始まりは魔物の恐怖に、壊れた人々の集まりだったそうですが……
数が増え、力によってそのような族に……かなりの数がいるそうです……」
「国的な組織は動かないのか?」
「とにかく命が軽く、自爆も辞さないので、正直見ないことにしている状態ですね」
「異常な環境だと、一定数は狂っていく奴らは出るんだな……」
前の世界でもそういった集団はいた。
魔王や破壊神を崇拝してとんでもない非道を平気で行う奴ら……
共通しているのは、過酷な状況から皆で逃避していた……
「見つけたら……殲滅していくしかないな……」
「そう思います……彼らの存在で、義手や義足の技術が向上していった面があるんですから、皮肉なものです」
この世界の義手・義足の技術はオーバーテクノロジーだ。
墜落した宇宙船から工作機械が生きていたり、すでにストックされていた義手・義足を研究していろいろな街で売られている。
魔物にやられたり、不衛生な環境でだめになった場合に、この世界の人間は結構簡単に義手・義足へと移行させる。
物によっては以前より強い力、素早く動けたりと不便なく生活することが出来る。
夕食時に義手の話なるとロカが口を開く。
「10本刀にも炎腕のゲーロンという義手の戦士がいる。
燃え盛る剣を使えるのは義手だからこそだ」
「あら、確かガルラ族は義手や義足に否定的では?」
「それらを黙らせる強さがあるのだ」
「腕があることを誇るのも、腕がないことを誇るのもおかしなことですね」
「まぁ、そうだな。どっちでもいい、生活が楽になるなら義手だろうがなんだろうが、救われる人間がいれば周りは受け入れればいい、ただそれだけだ。
ただ……」
「ただ?」
「義手に気を流すのは、大変そうだな」
「それなら装具を義手にしてみるとか……」
「なるほど、それは……まぁ、いざって時は考えるけど、出来る限り有るものは失わないように戦うことを考えるべきだな」
「頑張るのだ!」
数日キャンプにて解体をすすめ、全ての解体が終わったので俺たちは進むことにする。
気まぐれで助けた商隊は、なんとかまとまって近くの街へ向かって移動しているところまでは追ったが、旅の無事を祈るぐらいしか出来ない。
「さて、本格的に寒冷地になってきたな……」
大地は凍りついて、植物の姿は消え失せる。
極寒の地に入ることになる。




