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第二話 ミシカのロカ

「悪い予感は、大抵当たるんだよなぁ……」


 夜の砂漠は冷え込んだ。

 凍えて死ぬような温度にはならないが、じっとしていれば容赦なく体温と体力を奪っていく。

 同行人はミミズの皮で荷物ごとグルグル巻にしてあるので少しマシだろう、いや、このミミズの皮、俺も身体に巻き付けてるんだが、保温性と保湿性が大変に高い。

 砂漠の中で生きるミミズの身体を熱と乾燥から守っているんだから当然かも知れないが、かなりいい素材だな。筋繊維も頑丈な紐代わりに使えるし、食事にも水にもなる。


「あのミミズは見かけたら積極的に狩ろう」


 肌寒い夜の砂漠、それでも昼の炎天下よりは遥かにマシだ。

 それに、最高のプレゼントも有る。


「前の世界もそうだったが、美しい夜空だな……」


 あまりにも澄み切った空気のせいで、空に瞬く光の洪水によって、漆黒の夜を淡く照らし出しているほどだ。

 一応夜目は効く方だが、この星あかりが有れば夜の砂漠でも歩くのは難しくないだろう。

 星空に浮かぶ光の配置は……前でも、その前の空とも異なっている。

 

「蒼い月も紅い月も無ければ、あの美しい白い月でもない、むしろ2個あるのは前の世界と同じか、色は前の前と同じ白か……」


 星空の中でも夜の砂漠を最も強く照らし出しているのは二つの月、月と言っていいのかわからないが、他の星々と異質な大きさの惑星が2つ空に浮かんでいる。俺にとっては、月だな。

 

 月明かりに照らされた砂漠は静かだ。

 荷物を引きずるズルズルという音と自分自身、同行者の呼吸の音しか存在しない。

 しかし、いつまで寝てるんだ……まぁ、長いこと走って逃げていたんだろうけど、いい加減目を覚まして自分で歩けと言いたい。


 亜人、人間以外の人形の生物を指す言葉だ。

 前の世界では獣人と言われる動物と人間の要素を混ぜたような種をはじめ、エルフ、ドワーフ、魔人など色々な亜人がいた。

 この女は見たことはない亜人種だな。

 背も高いし、外骨格的な作りも有る。魔物としたらオーガ種に近いのかもしれない。

 もちろん魔物のオーガに繊細な思考はないので、ミミズから逃げるなんてせずに無謀に挑んで死んでるだろう。


「安全な場所が出来れば、こいつも喰わせたいんだがなぁ……」


 装備にミミズの魔石を喰わせて強化したいが、数時間武具に戻せなくなるから安全な場所を確保してから行いたい。

 あのミミズは、それなりに危険な魔物なんだろうけど、仮にも世界最強の魔導王を倒したパーティにいた俺の敵じゃない。俺から見れば素材でしか無い……


「ただ、この世界では遥かに強いやつもいるかも知れねーからな……

 ザコ敵がジジイやババアレベルで群れを成してたら死ぬしかねぇ……」


 想像すると身震いした。

 結局、夜に出来る限り距離を稼いだおかげで、ようやく森が近づいたと認識できるほど移動できた。


「うおっ……壮観だな……」


 砂漠に朝日が登る瞬間、地平線が真っ赤に染まり空が明るくなっていく。

 これから過酷な炎天下が訪れるのはわかっているが、その一瞬の美しさには思わず心を奪われる。

 新しい世界に来たのも、悪くない、そう思える景色だ。


「う……うん……」


 強烈な朝日がちょうど差し込んだせいで、同行人が身じろぎをした。

 しかし、落ちないように結構ちゃんと巻きつけたせいで上手く動けない、だんだんと動きが激しくなり……


『ど、どうなってるんだ!?』

  

 完全に目が覚めたようだ。


『よお、言葉はわかるか? 落ち着いて話を聞くなら解いてやるぜ?』


『だ、誰だ貴様は!? 私をどうするつもりだ!?』


『落ち着かねぇならこのままここに置いてくが、どうする?』


 脅しみたいなもんだが、仕方ねぇ。

 ついでに相手の言語を理解しているわけではない、『本質理解』前の世界で身につけた技の一つ、言語に頼らず、気だか魔力だか、その人間が言いたいことを理解できるし、理解させるって便利な代物だ。上手く行けば動物にも効率的にこちらの意思を伝えられる。ただ、逆は難しい。


『……わかった……話は聞こう』


 大人しくなってくれたのでミミズの皮を縛る紐を外してやる。

 自分の体を確かめるように立ち上がり、こちらを向き直す。

 なかなかどうして、亜人種だが整った顔立ちで悪くない。

 気が強そうな瞳は嫌いじゃない。


「説明してくれるか?」


「ああ、どこまで覚えてる?」


「……」


 少し考え始めると、驚いたような表情になり、だんだんと混乱が表情にまんま出ている。


「ははは、腹芸は出来ないタイプだな。おまえさんは砂漠を変なミミズに追われてたんだよ。

 それを見つけたんで、ついでに助けてここまで引きずってきたってことだ」


「……そうだったのか、すまない、命を救ってもらったのに……」


 今度はわかりやすく落ち込んでいる。

 ころころと表情が変わって、可愛いとこ有るじゃないの。


「俺はゲイツ、あんたは?」


「私はミシカ村のロカ、誇り高き殻有(ガルラ)の民だ」


「ガルラ……種族名か、なぁ、俺みたいのは何ていうんだ?」


「……弱肌(ジャッキ)と呼ばれているが、ゲイツは違う!

 砂喰いを倒すものは勇者だ!」


「ああ、あのミミズ砂喰いって言うのか、あれはいいな、もっと狩りたい」


「砂喰いは普段は巣のそばにしかいない、私はハグレに襲われた……

 村の掟、砂喰いに追われたら村から離れる、2日走り続けた……」


「おお、それは凄いな! やるじゃねぇか!」


「ああ! ロカは村一番の戦士マバルの娘だ!」


 どうやら勇者に褒められるのは名誉らしく誇らしげな表情になる。

 なんというか、ころころと表情の変わる女も久しぶりだ、俺の周りに来る女はどうも育ちが良すぎて腹芸が過ぎる。こういう腹を割った話が出来るのは気持ちがいい。


「さて、今はたぶん村と方向が違うし、森に向かっているんだが?」


「森……? ダメだ、森は危険だ! 赤腕(アクワン)がいる!

 あの白い獣は我らの血で赤く染まる!」


「お、動物居るのか? んじゃ、まともな肉にありつけるな……」


「だめだ、勇者であっても赤腕には勝てない!

 森で奴らと戦えるものなど……悔しいがジャッキの飛び道具くらいだ……

 お前は我らガルラと同じく、その剣で戦うのだろ?」


「まぁ、とりあえず行こうぜ。後その荷物の肉は食っていいぞ、お前が()()()きた砂喰いの肉だ」


 すぐにロカは荷物を漁って砂喰いの干し肉に齧りつく。

 2日も走り続けて、いきなり干し肉はきつそうだが、関係ないみたいだな……


 段々と日も上がって熱くなってくる。

 今度はアクワンとやらが相手か、未知の生物との戦いは胸が踊るってもんよ!


「さぁて、アクワン退治と行くか!」





 

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