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第二十八話 ティラノ圧倒

 ドスドスと地面を揺らしながらティラノが近づいてくる。

 全長30mほど、身体に対して頭が小さい、よくいるタイプの竜だ。

 首が太く、しっぽも太い、その分長さは無いが、あれを振り回される範囲に馬車を入れないように立ち回るか……

 

「……あー……こいつ俺が見えてねぇなぁ、あんまり賢くはない竜か」


 俺が視野に入っていない、たぶんあのモップ後の匂いに引かれて、それしか見えてない動きをしている。


「まぁ、今までお前から見たらチンケな動物になにかされたことがなかったんだから、仕方ねぇな。

 弟子のためにも、最期に厄介なやつもいるってことを知ってから逝ってくれ」


 俺は剣を握る手に力を集中する。

 気を高め、武器に通していく……

 魔装具は装備者の気をよく通してくれる、剣に高密度の気を集める。


「初伝【飛刃】」


 振り払う剣から気の刃がティラノに飛ぶ。

 ギャリギャリとティラノの鱗のような外装とぶつかりあい、刃は抜けていく。

 少し遅れてどぱっと大量の鮮血が溢れ出る。

 まぁ、本人にとってはちょっと切った程度だろうが……


「ガアアアアァっ!」


 怒気を含む瞳で、ようやく俺の方を睨みつけ、その足を俺の手前で止める。


「よお、やっと目があったな!」


 すでに出血は止まっている。

 肩につけた傷はすでに肉が寄せ合って塞がっている。

 竜はなんといってもそのタフさが厄介だ。

 たぶん、これほどの傷を受けたことがないのか、ティラノも警戒して距離を詰めてこない。


「さて、始めようか」


 俺から仕掛けていく、次の瞬間、俺の突っ込んだ場所を巨大な尾が全てを薙ぎ払う勢いで払われた。


「結構早いな……これは整地に使えそうだなぁ」


 尾が遠た場所は綺麗に平らになっていた。

 俺はその尾に剣を突き立てて立っている。

 足に気を回して、どんな斜面でも普通に立てる。

 これは基本技、縮地はこの気を弾くように使う。

 ティラノは消えた俺の姿に満足したのか、再び進もうとする、俺に背中を見せているんだがな……


「中伝【大木切り】」


 急激に高めた気を刃に乗せてフルスイングして足元の尾に叩きつける。


 ズドーン……


 俺の刃で切り落とされた尾が地面に落ちて大地を揺らす。

 一寸空いて大量の血液が吹き出す。今度は半端ない量だ。


「ガアアアアグギャアアアアッッ!!」


 突然の事にティラノが大暴れする。

 周囲に血液が飛び散って、ちょっと地獄絵図になってきた。

 すぐに血を失ってフラフラとしはじめるティラノ……


「苦しめる趣味もない、終わりだ」


 一度剣を鞘に納めて、ティラノの頭に向かって飛ぶ。


「抜刀術中伝【月影】」


 居合の刃の通った場所にきらめく気が美しい月のように視える。

 この月が美しいほど技としての完成度と威力に反映する。

 悪くない感触だったので、それなりにきれいな月が見物してた人には見えたことだろう……


 ずるっと頭部がずれて大地に落ちる。

 それを合図に身体がぐらりと傾いて倒れていく……


「竜殺しの称号を手に入れた……なんつってな」


 とりあえず、血溜まりに降りるのは嫌だったので、地味に上伝の【空歩】を使ってポポ達のもとに飛び降りる。


「……もうゲイツ様のやることには驚かないつもりでしたが……」


「す、凄いのだ師匠!」


「ゲイツ師匠、最期の空を蹴ったのは一体……?」


 助けた商会の人達は信じられないものを見るように口をポカーンと開いて俺をボーッと見ている。

 思考停止してるな……


「まぁ、3ヶ月もすればお前らもあれくらい出来るようになってもらうさ」


 ただ前に立って戦って勝つだけなら、それくらいだろう。

 

「や、やるのだ!」


「頑張ります」


「ところでポポくん、ティラノって旨いのかい?」


「いやあ……食べたことはないですね、寿命で死んで傷んだ肉くらいしか手に入りませんから、もしくは銃撃でグズグズになったものとか……」


「おお、それじゃあこの世界で初めてティラノを味わう名誉を得るわけだな……」


「ははは、そうですね。ゲイツ様、流石に私一人では……」


「そうだなぁ、えーっと……そちらの代表者はどなたかな?」


「あ、ああ、わ、私です……と、す、すみません。この度は命を救って頂きありがとうございます」


 呆けていたおっさんが深々と頭を下げる。

 うん、お礼を言える人間に悪い人間はいない。俺の勘もそう告げている。


「おうよ、ちょっとこれから驚くだろうが、あんまり他言しないで欲しい」


「はい……まだ驚くのですか?」


「ポポ、良いだろう。皆を呼ぼう」


「わかりました」


 近づいてくるトレーラー群に、助けたおっさんはさらに驚くことになったが、ティラノほどのインパクトはなかった。


「はじめまして、こちらの商隊の交渉役をしているマーチです」


「ベイジンと言います。この度は……驚くことばかりで……

 なにはともあれ、ありがとうございます」


 とりあえず、今回の事とかの交渉はマーチに丸投げする。

 俺はロカとジルバに指導しながらティラノの解体を手伝っている。

 気による軽い初歩の身体能力の強化、気を持つものに込めるコツの入り口を教えて、実際に気を動かすとまた動けなくなるので、意識だけして気は動かさない、日々それを意識すると、実際に気を動かす時に驚くほどスムーズに行える。はず……


「アルベルトは本当の天才だったからここらへんの過程吹っ飛ばしてるからなぁ……」


 俺自身は死ぬか、やるか。みたいな方法でしか指導されていない。

 実際に何度か死んだからな……

 これでいいのか、甘いのか、よくわからないので、手探りで教えていく。

 ただ、教えていく過程で、ああ、これでいいな。とか、これじゃだめだと自分の力を深く理解していくのは、非常に自分のためになっている。


 そして、意識を取り戻したベイジンさんの商会と一緒に、ティラノとモップ牛の焼き肉宴会が始まるのだった。






 


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