第十九話 本格始動
森から中への道は整備していない。
流石にそんな痕跡が有れば怪しまれるから……
しかし、大型車両で帰ってきたわけだから整備しないわけにいかない。
「随分と蛇行して来たな」
「痕跡も隠しながら来ました。
周囲にも人の気配は無いので、今のうちならいけます」
「どういうことなのだ?」
「なるほど、森でしたか……」
「ま、とりあえず、通れる道と入った後に隠せるようにしておくか」
俺は剣を抜いて森に向かって構える。
「あの、何を?」
「【土竜返し】」
大地を踏み込み地盤ごと大木を掘り返す。
「な、なんという……」
「ゲイツは勇者なのだぞ?」
「いや、いくらなんでもこんな……勝てるわけないじゃない……」
「ポポ、あの地面を作る魔法頼めるか?」
「あ、ええ、そうですね」
ポポが魔法を発動すると掘り返されボコボコになった地面がある程度平らに変化していく。
本格的に踏み固めるのはまたやるとして、急ごしらえの道としては充分だ。
「とりあえず、中に入ってくれ、外っかわのは適当に組んで隠すから……
【剛力】ふんぬっと……」
カンタとタンタを森の中に入れたら、倒れている木を持ち上げて外側から道が見えないようにする。
ロカ以外は口を開けて間抜けな顔になっていたが、まぁいい。
そんな作業をしながら森の奥へと進んでいく、流石に途中何度かポポに休憩が必要になったが、昼過ぎから始めて翌日の夕方には拠点に戻ることが出来た。
「おお、お前ら久しぶりだなぁ……皆元気そうだなって……なんか増えてない?」
「卵が孵ったのだ! ここは餌も豊富だし成長が早いのだ!」
家畜が増えていた。
「コレは……凄い……コレほど巨大で、状態がいいとは……
しかし、なぜ船から分離して……動かせるなんて……」
ポポはプラントに興味津々だ。
「なぁ、ポポ、実は俺、これに関する知識を持っているんだが、聴いてもらえるか?」
「ぜ、是非!!」
俺は俺の中の知識をポポに伝える。
あまり細かな話は出来ないが、それでもポポには青天の霹靂だったようで、持ち込んだ機械を使ってプラントを夢中になって調べていた。
俺達は持ち込んだ資材を使って拠点の拡張を薦めていく。
ポポの話では、数年以内にはたぶん外部からの接触が来る可能性が高いので、それまでに、守れる状態にしたほうが良いとのことだ。
「……ゲイツ様、提案があります」
「おう、どうしたポポ?」
「正直、私だけでどうにか出来る事案ではありません。
マーチ様に連絡をとってよろしいですか?」
「ああ、いいぞ」
「……いいんですか?」
「ああ、俺はポポもマーチも信頼している。任せるぜ」
「ありがとうございます!」
結局、マーチの力で信頼できる人が拠点に入ってくることになった。
俺は最初の面接だけする。
数名、いわゆるスパイもいて弾いたが、皆真面目に働いてくれるいい村人となってくれた。
「ゲイツ様!! とうとう出来ました!!」
そんなある日、ポポが血相を変えて俺を呼びに来た。
「プロテクトが解けたのか?」
「はい! ゲイツ様! 早く登録を!!」
「ああ、直ぐ行く」
プラントには様々な器械が取り付けられ、すっかり研究室みたいになっている。
「ゲイツ様、プラントに手を添えてください」
「ああ」
「生体パターン、認証、再設定、リマスター……成功……どうですかゲイツ様!?」
「やったなポポ、ちゃんとマスターとして登録されたぞ!」
「よっっしゃ!!」「ついにやりましたなポポ様!」
周囲の研究者たちも抱き合って喜んでいる。
「てか、俺が登録してよかったのか?」
「当たり前です、ゲイツ様以外に誰が居るんですか!」
「マーチとか……」
「マーチ様ではこれを守れません。ゲイツ様が一番適役なんです」
ポポがプラントから取り出したリングを渡してくる。
手首にはめる。これがプラントのマスターキーになる。
これによってプラントの全てが俺の意のままになる。
オーバーテクノロジーだろうが、俺が理解していることなら何でも出来る。
まさかまたこれをつける日が来るとはな……
「……とりあえずは水の増産と土壌改善の促進……別に世界を手に入れたいわけでもないしな」
「……だからゲイツ様じゃなければダメなんですよ」
ポポがこんなに笑顔なのを始めて見た。
「とにかく、今晩は……祭だ!!」
「「「「「おーーーー!!!」」」」」
「おめでとうございますゲイツ殿」
祭りが大盛りあがりしている中、いつの間にか俺の隣にはマーチが来ていた。
「うおっ! 来てたのかよ、びっくりした!」
「さすがに、この事実を前にしたら飛んできますよ」
ひらひらと見せる紙には、ゲイツ様が船を掌握と書かれていた。
「これでゲイツ様は各地の王と同じ立場になられた……これからどうしますか?」
「……いや、どうもしない。気の合う仲間と毎日楽しく暮らして、落ち着いたらこの世界を旅してみたいな!」
「ゲイツ様は、何者なのですか?」
マーチが真剣な目で俺のことを見つめている。
こういう目をしたやつにおちゃらけるわけにはいかないな。
「俺は、違う世界から来た。
さらに、その世界に生まれる前の世界も覚えている。
この船、プラントについての知識は前の前の世界の知識だ」
「……謎の知識を持つ人間が生まれることは、有ると聞きますが……
なんというか、本当に破天荒、常識からは外れているお方だ!」
「さらにいえば、前の世界では世界の危機を救ってるんだがなー……」
「何の話だ!! 勇者の話はロカも興味があるぞ!」
「ゲイツ殿の過去の話か?」
「マーチ様、もういらしたんですか?」
俺は、こいつらなら全てを話していいなと、今までの冒険の話なんかを話した。
誰一人疑うこと無く、俺の話を大いに楽しんでくれた。
俺らが、本当のパーティになった。そんな気持ちがした。
結局、全員が浴びるほど飲んで、まともに話せるようになったのは翌日の昼過ぎだった。
「しかし、真面目な話、これからが大変でしょうね」
「マーチ様、どうしますか?」
「この森で過ごす、じゃだめか?」
「ガルラ王との絶え間ない戦いになるでしょうね……ゲイツ様はガルラ王を討つつもりは無いでしょうから」
「ガルラ王を倒すのかゲイツは!? なんというだいそれた事を、しかし、ゲイツなら……
いや、10本剣やら親衛隊が軍となって攻めてきたら、いくらゲイツでも……」
「いや、戦いたくないね。前にも言ったが、面倒くさいのはゴメンだ」
「降りかかる火の粉は払うが、火付けはしない……
であれば、砂漠は出るべきかもしれません」
マーチが地図を指し示す。
俺が買ったものより遥かに高精度な地図が薄い器械に映し出されている。
タブレットが残っているんだな……
「砂漠の地はガルラの民のテリトリー、少なくともガルラ王はそう考えるでしょう。
砂漠の南、大陸の東部分は暗黒地帯、機械王のテリトリー。
北西はフッコらが済む土地、ただ王はいません。寒く厳しい土地……
西は巨大な湿地地帯、多くのピーブ族が住んでいます。王女が納める地です。
その下、南東はこの大地最大の国、皇帝が納める帝国。
排他主義でフッコ至上主義で、フッコ族以外は全て奴隷です……
古代兵器も有する強大な軍事力もあります。
中央部が山岳地帯、フォクシの民の聖地ですね。獣王が納める自然信仰のある国です。
最期、南東の平原をジャッキの王が中心となって多数の種族が暮らす王国。
これがこの大地の概要です」
今後のことを決める会議は、長くなりそうだった。
次は夜8時に PM8:00投稿です




