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第一話 砂漠の生物

「アチいぃ……」


 吸い込む息も熱い、足元の砂は太陽によって容赦なく熱せられて足元から熱気を拭き上げてくる。

 右も左も砂砂砂……

 時折吹く熱風で舞い上がるカラカラに乾いた砂も鬱陶しいことこの上ない。

 余った布を重ねて頭への直射日光だけは防いでいるが、水を計算的に使うことなんて不可能だった。

 干し肉をかじりながらちびちびと水分は取らないと、あっという間に動けなくなる。


「蜃気楼じゃねぇよな……」


 小高い砂丘に上って歩く先に見える緑の地帯。

 さっきから近づいているのかいないのかよく感覚がわからない。

 砂以外何もなさすぎる。


「とにかく、歩くしかねぇ」


 この世界が全て砂漠でもない限り、歩き続けていればどっかにはつくだろ。

 砂地を走る修行なんてくさるほどやっている。

 なんてことはない、あの地獄の日々に比べれば、背後から俺を本気で斬ろうと追ってくるクソジジイも、死ぬ寸前まできっちり調整してぶん殴ってくるババアもいない。

 そう思えば随分と気持ちは楽になる。


「ん?」


 素早く地面に伏せる。

 なにか気配を感じた。

 焼けた砂は熱いが、こんな遮蔽物もない砂地で未知の敵に先に発見されるのは美味くない。

 息を潜めて大地から伝わる感覚に集中する。

 砂地では難易度が高いが、慣れれば周囲数キロレベルで結構わかるもんだ。

 特に、何かから逃げて走っていたりすればな……


「こっちか……」


 その場所が見える砂丘に移動し、指で輪を作るようにしてその方向を見る。


「……人が……おっと、なかなか魔物がいるじゃねーか」


 どうやらマントを羽織った人間を、巨大なミミズみたいな化け物が追っている。

 なかなかいい走りだが、追いつかれるのも時間の問題だ。

 砂に潜って出てくる位置がだんだんと近くなっていく。

 

「情報も得たいし、恩を売っておきますか……」


 俺は立ち上がり、そいつらの方に、本気で走る。

 砂地で大事なことは蹴り足の爆発力、後方に大量の砂を吹っ飛ばしながら爆走する。

 近づいていくと、ミミズ野郎のデカさが際立つ、太さだけでも大木を束ねたほど、長さたるや城の塔ぐらいはありそうだ。

 そして、追われていた人間はとうとう疲れ果てて倒れ込んでしまった。

 そこに、ミミズがまさに飛び込もうとしている。


「ちょっと待てやーー!!」


 ミミズの開いた口、周囲にたくさんの牙がうぞうぞと動いて気味が悪い。

 しかし、俺は砂を蹴って、躊躇なく飛び込んできたミミズの口の中に跳ね上がり、そのまま剣を内部から突き刺して、ミミズの中を走っていく、グチョグチョして気持ち悪いが、そんなことは関係ない……とにかく、横腹を切り裂きながら行けるとこまで走り続けた。

 始めこそ剣に一瞬の弾力を感じたが、俺の剣がそんな物を気にすることはない、口脇から斬って入って、一文字に横腹を切り開いて進み、始めこそ暴れたが、直ぐに動かなくなってしまった。

 狭くなってきた場所で切り開いた横腹から外に出てみると、見事にミミズの開きが出来上がっていた。


「ネバネバしてんなぁ……少し苦い……足しにはなりそうだな……」


 体についた粘液は、まずいが水分にはなりそうだ。

 すでに空っぽの水筒に出来る限り集めておく。

 容赦のない日差しで粘液は直ぐにパリパリに乾燥してしまっていく。

 ビクビクと動いてたミミズの死体も端の方から乾燥が始まってきている。


「まぁ、食えるだろ」


 ミミズは修行というなの誘拐、危険地帯への放置で何度も食べている。

 マシな食材だ。

 外皮は弾力が強すぎて硬すぎるが、内側の肉を削ぐように剥いで紐で吊るしておく。

 これで歩いていれば干し肉になる。

 そのままでもいいし、炙っても良い。

 このサイズならそれなりの量が確保できた。

 美味くはねぇ……

 

「そうか、調味料がねぇんだな……」


 干し肉の表面についていたスパイスが少しだけ、コレが俺の調味料の全て……


「ま、いいか、これで飢えと乾きは少しマシになった」


 外皮を利用して簡単なソリを作って素材を回収しておく。

 筋肉の筋は強い紐代わりに使えたし、牙や革は色々使えそうだ。

 この世界も前の世界と同じように魔核があってくれて助かった。

 

 魔物の心臓、魔核。

 転生する前の世界ではそんな物は無かったが、どうやらこの世界も魔法なんかが存在する世界みたいだな……


「さて、あとはこいつをどうするか……」


 気絶したのかピクリとも動かねぇ……


「おーい、起きろよ……ってまじか……」


 フードを外すと、女だった。

 しかも、人間じゃねぇ、亜人か、見たことがないタイプだが、どちらかと言うと魔人っぽいな。

 人間と大きく異なるのは、額に角が生えている。

 耳から首にかけてはトカゲみたいに鱗で硬い。

 体つきは痩せている、痩せ過ぎだろ、それであれだけ走れるのは凄いことだが、いくらなんでも細い。栄養状態はかなり悪そうだ。

 ボロボロの布みたいなものが巻かれているだけの粗末な服、ズボンもズタ袋に紐を通したみたいな状態だ。脚はこの砂漠を走り続けたのか硬くなっている。

 そして、荷物も何もねぇ、追われてる途中で落としたのか……


「どっちにしろ、放っておけば死ぬな。

 やれやれ、見捨ててしなれても夢見がわりぃ……

 それに、女性には優しくしないとな」


 亜人の美的感覚はよくわからんが、きれいな顔してると思うし、もう少し鍛えればいい体になりそうだ。

 とりあえず、ソリを作ってそこに寝かして森を目指す。

 日も少し傾いてきた、出来る限りこのタイミングで森へ近づいておきたい。

 

「砂漠の夜は……冷えるかもしれねぇからな……」


 昼間は灼熱の砂漠だが、夜は驚くほど冷える場合がある。

 この場所がどんな気候変動するか知らないが、今の状態で凍えるような寒さになるのはやべぇ……


「おいしょっと! さーて、行くかね」


 ミミズのおかげで丈夫な革と紐、飯に水分まで手に入った。

 ちょっと余計な荷物も増えたが、旅は道連れ世は情けとか言うんだっけか?

 俺はとりあえず砂漠を再び歩き始めた。


 

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