第十八話 新しい仲間
「ああ、苦悶の表情のジルバちゃんはぁはぁ……」
「赤く腫れ上がったロカちゃんの太ももなめてぇえ……」
「兄貴の盛り上がった筋肉最高だぜ!」
「なんか日に日に客が増えてますね……」
「なんかジロジロ見られて気持ち悪いのだ……」
「俺も飲んでると変に触られるようになった……」
3人の頭には同じことが浮かんでいる。
早いとこ街を出よう、と。
「毎晩ゲイツが飲み屋で大騒ぎするからだ!」
「いーや、お前らだって楽しそうだったじゃねーか!」
「ジルバちゃんこれ美味しいから食べて」
「うむ、すまぬな。ありがたい」
「うへへへジルバちゃんと話したぞー!」「お前すげーな!」「俺も酒持ってこうかな……」
「ほらみろ、ジルバもああやってファンを増やしてんだぞ!」
「ゲイツ殿、私は何もしていない、あいつらが勝手に持ってくるだけだ」「ああ、あの冷ややかな視線が最高だー!」
「それに餌付けという点で言えば……先輩のほうが酷いぞ」
「ああ……あいつは……」
ロカは今も別のテーブルで大量の肉を前に満面の笑みで食っている。
こっちに肉あるよ、って誘えば「何だとー食べて良いのか! すまんな!」ってほいほいついていってしまう……あれだけ食って全く太らないのは凄いな……
「ほんとに仕方がないやつだ……」
「旦那! 15年ものの火酒が入ったぜ! どうする?」
「どうするってお前……あるだけ持ってこい! 俺のおごりだ全員ありがたく頂戴しろ!!」
「うぇーーい! 旦那最高!」「これだからたまんねーぜ!」
「……また明日も魔物狩りだな……」「ジルバちゃん、これ食べる?」「ああ、そこに置いとけ、気が向いたら食べてやる」「はーーーん、ありがとうございますー」
こんな感じで、毎晩大騒ぎしていれば、顔は売れてしまう。
そして、この街は居心地が良すぎる。
適当に魔物を狩っていればそれなりの金になって、それを夜にいろんな店で落としていく。
空いた時間は娯楽としての価値のある訓練を闘技場で披露する。
たまに対戦者も現れるようになって、俺達の訓練にも役立っている。
ゲイツバブルと呼ばれるディファイの街の好景気が訪れていた。
マーチがホクホク顔で教えてくれた。
そんな日々も、馬車の完成で終りを迎える。
「ようやく出来ましたね。これだけの品はなかなか無いですよ」
カンタとタンタに引かれる立派な馬車。
荷物の積載量もかなりのものだが、居住空間も快適に作られている。
小型の風力発電や太陽光発電を使うことでどこでも電気が使える。
「それと、この子をゲイツ様におまかせします」
「よろしくおねがいしますポポと言います」
マーチが一人のピープ族を紹介する。
小柄な身体をローブで包み、美しい石がはめ込まれた身長よりも長い杖を持っている。
大きな目に薄黄緑色の肌……年の頃は……読めねぇな。
「どういうことだ?」
「アフターケアですよ。
ポポはエンジニアとしてもコックとしても色々と得意で、私の片腕なのですが、これだけの馬車を管理するのには必要だろうと考えまして」
「本音は?」
「そりゃもうゲイツ様にきちんとつてを繋げて置かないと!
破天荒な方ですから、もっともっと当商会に利益をもたらしてほしいですからね!」
「ポポは魔法も使える。役に立つぞ」
「わかった。技師は必要だと思っていた。
よろしく頼む!」
ポポが仲間に加わった。
「ゲイツの旦那ー!! また来てくださいよー!」
「ジルバちゃーん! 愛してるよー!!」
「ロカー! また飯食いに来なよー!」
大型の車両は嫌でも目立ってしまって、なんだかパレードみたいになってしまった。
お世話になった街なので、二人には車の上でファンサービスをしてもらうことにした。
街に来た時は、なんというか少し辛気臭い街だなと思っていたが、随分と明るくなった気がする。
ま、どうせこれからもたくさん来ることになる。
マーチの掌の上で踊っている気もするが、俺は楽しければそれでいい!
「しかし、こっちに来てからしがらみはねーし、好き勝手しても誰も文句言わないから……
これ、最高じゃね?」
「……残念ながらあまり長い時間は続かない」
「そりゃどうしてだポポ?」
「ゲイツ様は人を引き寄せる。そして金を引き寄せる。
それを狙うものが近づいてくる。それに……森を支配している」
「……誰にも言ってねぇし、絶対に言わないように厳しくしてるんだが……」
「マーチ様の予想。最初取引した一部の作物が砂漠では絶対に取れない。
まとまった量があって時間経過を考えれば、アクワンの森しか無い、と……」
「思った以上に、癖もんんじゃねーかマーチ……」
「味方ならあれほど心強い人もいない。これからも仲良くして欲しい。
私をよこしたことが誠意の現れ」
「たしかにな、ポポはどう考えてもあの商会の重要人物だ……」
ポポの魔法は強力だ、そして何よりその豊富な知識と手先の器用さ、どれをとっても一流の人材なのは疑いようもない。
「そのうちアクワンが倒されたことは広まる。
そして、あそこには船がある。争いになる可能性は高い」
「船、プラントがあることもわかっているのか……」
「森が砂漠に出来るなら川沿いか、オアシス。
あの場所は水脈は通っていない、だとすれば、船がある。
力を欲するものからすれば、何よりも得たい物」
「俺はのんびり好き勝手に過ごしたいだけなんだが……」
「船を有力者に売って街で暮せばいい、たぶん消されるけど」
「……なんでだ?」
「船の対価を払える有力者はいない。殺したほうが楽」
「荒んでるなぁこの世界……」
「砂漠の地だけじゃない、この大地は人型には厳しすぎる。
ディファイの街も3度魔獣に滅ぼされている」
「まじか……」
「一部の魔物は単体で街よりもでかい。その通り道がたまたま街であれば滅びる」
「そんなのが居るのか……」
「砂這いだろうが、数千の群れならどうしようもない……」
「我々が住みやすい土地は、魔獣も住みやすく増えやすい。
砂漠は厳しいが、魔獣が少ない。この世界に安住の土地は……ない」
「……なんとか手の届くとこくらいは、穏やかに過ごしてぇなぁ……」
「マーチ様はゲイツ様がその道を示せると考えている。と思う。
そうでなければここまで肩入れしない」
「……ま、どうなるかはさいの目次第ってやつだ。
とりあえず、ポポは仲間ってやつだからな、予想通り、森へ向かってくれ」
「わかった。マスター」
久々の我が家へ凱旋だ。
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