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第十五話 砂這いの巣

 砂漠に穴が空いている。

 近くに近寄ると砂が乾いた粘液で固められて洞窟みたいな穴を作っている。


「これが砂這いの巣か……」


「たぶん商隊が大型の動物を連れていたんだろう、大量の食料を手にした砂這いは穴を作って中で産卵する」


「あまり深くないけど、滑ったりくっついて動きにくかったり、砂這い以外は動きにくい……そしてまた餌になる」


「卵から高級な酒が造れるから卵狙いは多いが、失敗も多い」


「油流して火を付けるか?」


「それでもいい、ただ卵は諦める事になる」


「旨いのかその酒?」


「王様や貴族が飲むもので一般人が飲めることなんて殆どない、が、悪い大人たちは、他の酒が水に感じると言っていた……酒は悪い文化!」


「……飲まなきゃ、わからないか……よっしゃ、行くか」


「……やはり行くのだな……」


「ロカは気がすすまないのだ……」


 ジルバは短剣、ロカは細剣を抜いて構える。

 予定と違い狭い場所での立ち回り、事故が起こらないように俺が前衛を務める。


「しかし、砂をここまで堅く出来る唾液ってすごいな……

 コレ自体に価値があるんじゃないか?」


「生きている砂這いしか作れないし、砂這いは操作もできない、残念ながら利用は無理だ」


「この洞窟も砂這いがいなくなれば食料ためたりに使えるほど頑丈で数十年も壊れないと言われている。表面のネバネバは砂をかければ取れていくのだ」


 今も砂を撒きながら進んでいる。

 照明は腰ベルトにつけて正面を照らしながら進む。


「いたぞ……」


「うえぇぇ……みっちりいるぅ……」


「飲み込まれないように気をつけてくださいね先輩!」


 俺たち3人が横に並べば洞窟はほぼ埋まってしまう。

 砂這いは壁だろうが天井だろうが関係なくカサカサと接近してくる。

 3人が壁のようになって、突破を防いで戦う必要が有る。


「多いし、暗いし、気持ち悪いし……」


「ちょこまかと……!」


 砂這いは頭が小さい、身体部分の硬い甲羅と頭の隙間が狭く、狙ってそこを切り落とせないと、硬い甲羅に阻まれてしまう。

 基本的な攻撃は甲羅による打撃と鋭い辺縁を使った斬撃だ。

 数で押しつぶして来てかじられたり、粘液をかけてきたりもする。

 そんなに強くはないが、頑丈なのと数が多いし、動きが不愉快、いや、不規則で厄介では有る。

 狭い室内でそんなに訓練していないからか、二人も苦戦している。


「ジルバ、上」


「はっ!? いつの間に、てりゃあ!」


「ロカ、足元抜かれるぞ」


「くっ、この……」


 細剣は斬るより突くほうが得意だからな……コツを掴めばもうちょっとやれるだろうけどな……

 特訓だな……。


「な、なんだか背筋が寒くなったのだ!」


 ジルバも頑張って戦っているが、もう少し刃渡りが大きいほうが有利に戦えそうだな……

 対人戦闘のほうが得意だと丸わかりの戦闘、特訓だな……


「せ、先輩、私もそんな気が……」


「ふむ、次から次へと湧いてきて、しつこいな……」


 いい加減背後に積み上げている死体が帰り道を邪魔しそうだ……


「突っ込むぞ」


 洞窟の幅と作りも大体把握した。

 俺は剣に力を込めて一気に敵中を走り抜ける。


【刃飛ばし・繋・千刃嵐】


 俺が通過した天井や壁にいた砂這いの首がゴロゴロと落下して、遅れて身体もぼとぼとと落ちていく。

 光が当たって位置を確かめ、そこに刃を飛ばしていく。

 目当ての卵まで、一気に歩を進める。

 通路上のエリアを抜けると、やや広めのドーム状の空間、そこら中に砂這いがうごめいていて、ところどこに卵鞘と言われる殻に包まれた白い塚のようなものが有る。


「あの中が卵か……」


「うわわ、でかいのが居る!」


「来るぞ、背中あわせて戦え!」


 光を散乱させ部屋を照らす。同時に四方八方から砂這いが飛び込んできた。

 守るべきもののために最期の特攻だ。

 明らかにでかい奴らがメスなんだろう……

 必死に卵塚を守っている。


「まぁ、今回は運が悪かったと諦めてくれ」


 飛びかかってくる敵の首を刎ね続ける。

 ジルバとロカも必死に戦っている。

 時々とどめを刺しきれずに放置する事が目立つようになってきたので、かたをつけるとしよう。

 課題が見えたら、特訓で改善してもらうのが俺式だ。


「ジルバ、短剣使うなら確実に急所を狙って確実に斬れ。

 ロカは突くなら急所を一撃で、速さで斬る感覚を自分の物にしろ。

 今回はここまで……【中伝・乱れ斬り】!」


 周囲に斬撃の刃を無数に作り出し、四方八方へと走らせる。

 その空間にいるすべての個体を絶命させる死神の刃が一瞬で敵の首を刈り取る。

 初伝に続き中伝、特に身体への負担を感じることもなかった。

 

「……ありがたく、頂くぜ……」


 手を合わせ、砂漠で必死に生きている先輩方の冥福を祈る。


「ほら、集中力切らせたバツだ、全ての遺体を外まで運べ!」


「「はい!」」


 二人に遺体を処理させて、俺は卵鞘に手をかける。

 発泡スチロールのような殻の内側には、年代物のウイスキーのような輝きの卵がぎっしりと入っている。とにかくぎっしりと、小さいが数が凄い……

 緩衝材代わりに周囲から卵鞘ごと切り出して持ち出していく。

 小さな個体もいた。羽化直後から戦士になるんだな……


「なぁ、この卵、孵ったりしないのか?」


「出来る限り早く処理したほうが良い。内部の液体だけでいいから水筒に移すことをおすすめする」


 運んでた殻からうじゃうじゃと砂這いが出てきてはゾッとしない。

 助言に従って卵から内部の液体を水筒に集めていく。

 一つ一つからほんの少ししか取れないが、とにかく無心で絞っていく。

 香ばしい香りがすでにしている……指についた汁を少しなめると、複雑な味わい……

 確かに上手いことやればいい酒になるかも知れない。


 それからしばらくすると、洞窟内はすっかり綺麗になった。

 外にはうず高く積まれた砂這いの死体の山。


「はい、剥ぎ取り」


「「はい!」」


 俺も手伝って甲羅を剥がして重ねて紐でくくりつける。


「大漁大漁」


 残りの死骸はそこら変に置いておけば、砂漠の生物が処理していくだろうが、あまり近くにまた魔物が集まってくれば村が困るだろう。

 脂をかけて火を放って燃やしておく。


「これで村から近いところに倉庫が出来ましたね」


「逆に良かったのだ! 砂這いは厄介者だからほかの魔物も近づきにくくなる」


 さっき燃やした灰を周囲にまいておくと、簡単な魔物避けになるそうで、アレ自体も商品になるそうだ。色々有るんだなぁと感心してしまう。


「知っててやってるのかと思ったぞ……」


 ロカにジト目で見られたが、麻袋に灰を集めて一緒に持ち帰った。


「さ、とりあえずクエストクリア。うまい飯が待ってるぞ!」


 砂這い退治クエスト、クリアだ!



 

基礎技→初伝→中伝→上伝→至伝→奥伝→皆伝→極伝→終伝


技のランク的な呼び方。


次の投稿は一時間後に

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