第十二話 宴会
「鎖は良いのか?」
「あったほうが良いならつけるか?」
「……武器も持たせて、また襲うかも知れないぞ?」
「ああ、ご自由にどうぞ。その代わり、張り切って相手するぞ?」
「ひっ……わ、わかった。こ、これからよろしく頼むゲイツ殿……」
「私はロカなのだ! 先輩だからな、私の方が先にゲイツの仲間なんだからな!」
「……お前には負けてない……」
「仲良くしないと、お仕置きだぞ」
「「ひっ!」」
「な、仲良くするのだジルバ、よろしくなのだ!」
「あ、ああ、ロカ先輩。よろしく頼む」
「ははは、いい響きなのだ! ほ、ほら仲がいいのだ私達は!」
「先輩と仲良くします!」
「うん、良いことだ。さて、腹が減ったからちょっと飲みに行くか!
あそこの飯はうまかったが、昼の店気に入ったからな!」
「……ゲイツ……あのフォクシの店員目当てじゃないのだな?」
「あ、当たり前だろ、またゴウゴウの肉頼んで良いぞ!」
「本当か!? 楽しみなのだ!」
「ゴウゴウの肉だと……?」
「ジルバも好きなもの頼んでいいからな、懐は温かいからな!」
あのあとマーチからお小遣いまで頂いた。
闘技場に出る戦士の給金的なものらしく、大入りだったので銀貨5枚ももらってしまった。
買い物の残りもまだまだ豊富に残っている。
「あ! お兄さん来てくれたんだ!」
「出たなフォクシの娘!」
「ふんっ……」
「あれ? また可愛い子が増えてる……って……ジルバ……様?」
「うむ、これからはゲイツ殿の従者となった」
「良かった……このお兄さんは悪い人じゃないから絶対に大丈夫ですよ!」
「ロカ、フォクシって見た目と種族の関係はあるのか?」
「いや、フォクシの民は様々な種が生まれる。兄妹でもバラバラになることも有る。
ただ、ジルバみたいな風狼の姿は先祖返りと呼ばれて、総じて強かったりすごい力を持つからフォクシ族の中では特別視されるのだ」
「なるほどねぇ……まあいいや、ねーちゃん3人頼む!」
「あ、えーっと今凄い混んでて……」
「ああ! やっぱり旦那じゃないか!!」
突然店の奥から声をかけられる。
そちらを見ると、たぶん街に入る時にすれ違った衛兵だ。
「おら、おめーら席詰めろ! 今日は旦那の金で飲んでるようなもんだろ!」
「ういーっす! 旦那! それにねーさんたちもこちらへどうぞ!!」
「お、いいのか? わりぃな! ねーさん、一応俺らは別会計で、めっちゃ食うから」
「はーい、わかってまーす!」
やっぱりあの店員はやり手だな。俺の言いたいことを読み取ってくれた。
「旦那! それに銀狼のジルバねーさん、先程はお疲れさまでした!」
「あー、なんだお前ら見てたのかー?」
「ええ、さらに旦那のおかげで3ヶ月分の給与もゲットしましたぜ!」
「うぇーーー!!」
皆すでにめっちゃ出来上がっているが、騒がしいのは嫌いじゃねぇ。
「ハイよゲイツの旦那、酒が来ましたぜ、ネーサン方も」
「いや、ジルバはまだ酒はダメだろ?」
「ああ、そうだな。だが……」
ジルバは立ち上がると首に描かれた紋様に触れた。
紋様が薄く光って、ジルバの姿が歪んでいく……
そして、現れたのは、なんというかジルバが成長した姿、年齢離れしていた見た目が、なんというか、適正な年齢に成長して馴染んだような姿に変わった。
「あ……あ……」
周りの衛兵がつばを飲む。確かに、きれいな少女が美しい女性に急に変われば驚くのも仕方がない……
「コレがフォクシの魔法の一つだ」
「ジルバ、本当の年齢は?」
「18よ」
「ロカと同じなのか!!」
「は? ロカまだ未成年なのか?」
「ミセイネン? 15になれば大人だぞ、酒も飲むぞ」
「そ、そうなのか……」
「と、いうわけでゲイツ殿、私は大人として扱ってもらって結構だ」
「そっか、ま、魔法があるんだ、いろいろ有るだろ」
前の世界でも、いろんな魔法があったからな。
「かんぱーーーーい!!」
それからはまぁ、店全体を巻き込んだどんちゃん騒ぎになった。
ジルバは対立する種族の卑劣な罠にかかって捉えられたが、よく知られていなかったので油断を誘うために子供の姿に変えていて、相手の種族が慰みにでも来たら殺してやろうと考えていたらしい。
フォクシ族は幻術や自己強化、相手を弱体させる魔法の扱いに長けていて、とくにジルバみたいな風狼による幻術魔法は見破ることは難しいらしい。
「それにしても、ジルバは戦いで魔法使わなかったのか?」
「……真面目に言っているのか?
幻影魔法や感覚をずらす魔法、いろんな魔法が全部通用しなかったんだが?」
「あ、そうだったんだ、すまんな。鈍いもんで……」
「鈍いとかそういう問題では……」
「ゲイツは強いのだ!」
「それは……痛いほどわかっている」
太ももをさすっている。
「あれは痛いのだ……その薬はよく効くから明日にはマシになるのだ……」
「先輩も喰らったのか?」
「訓練という名の拷問を喰らっているのだ……」
「……先輩……」
「ジルバ……」
なんか二人でわかり合って仲良く酒を飲んでいる。
仲良くするんだぞ。
「旦那ぁ! こんな上玉二人も抱えて、隅に置けませんなぁあ!!」
「絵になるなぁ……綺麗だなぁふたりとも……」
「眼福眼福……」
「衛兵だって街を守ってるんだ、少しは美味しい目にも会えないのか?」
「いっやそれがないんですよ! 朝から晩まで、時々夜も立ちっぱなしなのに安月給で……」
「そのくせ運が悪いと危険だし……」
「俺らはガルラ族では弱虫と貶まれて王国を出たものがほとんどですから……」
「ああ、実力至上主義なんだっけ?」
「少し古臭いんスよ、ボウガンだとか武器だって両手剣以外だって使えるのに……」
「いーや、強きガルラの戦士は巨大な剣で敵を断つのだ!」
「ロカ、あっちのゴウゴウの肉無くなるぞ?」
「なに!? それは私の肉なのだー!」
「……ロカねーさんなんか古い考えでは虐げられそうなのに……」
「ああ、そうらしいぞ」
「なのに、ああいう考えなのか……」
「ま、人が少ない場所で言われ続けたんだろう。少しは丸くなったんだがな」
「その点、旦那は古き強きガルラの戦士と言ってもいいな!」
「ああ、旦那は気持ちのいい戦士だ!」
「お、何だ何だ……褒めても……好きなだけのめーーーー! 俺のおごりだーーー!!」
「ひゃっほーーー流石旦那!
ねーちゃん、店の酒全部持ってこーーーーい!!」
「おっしゃーーー! 今日は浴びるほど飲むぞーーー!!」
俺の記憶は、ここで途切れる……
 




