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第十話 誇り高き狼

 砂喰いの巣を壊滅させたのがやり過ぎだった……


「それに、素材が綺麗すぎるな。

 一太刀で絶命しているからほぼ全ての素材が完璧に使える。

 普通は矢とか銃とかで穴だらけのズタボロにしてようやく殺すものなんだがな……」


 魔石の位置もだいたい掴んだのでその前後を輪切りにして終わりにしている。


「結局、金貨3枚、銀貨78枚、銅貨80枚鉄銭は切り上げといた。

 旦那は今後も素晴らしい取引相手になりそうだからな……

 そして、たくさん買い物してくれるんだろ?」


「よくわかってるな! さ、メシ代宿代以外は使い切ってくぞ!」


「最高だぜ旦那!」


 この勢いで、前の世界ではさんざん財布係のラーフェンとクラレストに怒られたもんだ。

 宵越しの金なんて持ったって、明日は死んでるのかも知れないぜ? とかカッコつけると、それでも明日の食事も食べられなくなったら困るだろ! と怒鳴りつけられたもんだ……


「荷引きの家畜も俺らで手配する。

 旦那の素材は是非うちに卸してくれ、俺の名はマーチだ!」


「俺はゲイツ、こっちはロカ、これからも色々頼む」


 その商店の店主はフッコ族、俺と一緒の人間のマーチ。

 身長は170くらいか? 細身だが、鍛え上げられた、そして戦える身体をしている。

 髪を短く刈り込んでいて、開いてるんだが閉じてるんだがわからねぇ程の細めのせいで表情がよく読めない。商人としては大事なことだろう。

 多種族が入り乱れた交易の都市で一番大きな店を仕切っている。やり手。

 俺は……なんつうか人間を見る目は、オーラ的なものでわかる。

 悪人ではない、いや、かなりヤル奴だと思う。


 荷運びの動物にその動物に引かせる車、生活に必要な様々な物を大量に買い込んだ。


「ゲイツの旦那は……金の匂いしかしねぇなぁ……」


「それを客に言っちまうのか?」


「隠し事しちゃダメなタイプだろゲイツの旦那は」


「まぁそうだが……」


「……新しい街が出来そうだな。

 旦那……今後ともよろしく。

 他言はしねぇ、人頭が居るときも俺に言ってくれ、口が固いやつを用意する」


「長い付き合いになりそうだ……」


 力強く握手を交わす。

 結局金貨と銀貨の殆どを使ってしまった……が、これで必要なものは随分と揃った。


「旦那、ちょっと気を悪くしないでほしいんだが、奴隷についてどう考える?」


「ああ、奴隷もいるんだったな……

 いや、いろいろ有ると思うしな、他人は他人どうとも思わねぇ。

 俺が扱うなら、少なくとも人として扱う」


「旦那はそういうタイプだと思ってたよ。

 実はちょっと相談したいことがあって、今日の夜は開いてるかい?」


「ああ」


 夜はマーチから食事に招待された。

 ロカも一緒で構わないらしい。

 ついでにロカは奴隷に関しては、当たり前の存在なのでどうとも思わないそうだ。

 性奴隷はダメだ! と真っ赤になって怒っていた。


 宿に戻り、シャワーを浴びた。

 いや、シャワーがあるって素晴らしい、もちろん購入してある。

 これからは温かいシャワーが待っている。

 風呂だけでもあれだけ苦労したのに……

 この世界、ある面においては前の世界よりも科学技術が進んでいる。

 お金さえ有れば、かなり快適な生活を作り出せる。

 魔法文化が進んでいた前の世界でもかなり快適だったけど、方向性が異なるので魔力の補填なんかが苦手な俺でも継続的に良い生活が出来るのは素晴らしい。


「さて、行くか」


 購入した服に着替えて、指定された店に向かう。

 昼に食べた店よりも外観も綺麗なら入る客の雰囲気も良い。

 ロカは落ち着き無くキョロキョロしているが、俺の見立てた服はよく似合っていて、なかなかに綺麗だ。綺麗というと怒られるんだけどな……よく似合っている、は嬉しそうにするんだが……


 給仕に案内された個室に入るとマーチがすでに待っていた。


「ゲイツさん、今日はお招きに応じてくれてありがとうございます」


「いや、こちらこそお誘い感謝する」


「とりあえず、まずは食べましょう」


 席に座ると直ぐに食前酒と前菜が出される。

 一応王様とかとも飯を食ったことが有るが、遜色のない物が出される。

 厳しい環境の世界だが、有るところにはきちんと有るんだな……


「すごいぞゲイツ! 生の魚だぞ!」


 ロカも興奮している。


「おふたりとも遠慮なく、今日は私が全てごちそうします。

 きちんとこれからたくさんの利益をゲイツさんからもたらしてもらうので、先行投資ですから」


「そうか、では遠慮なく。ロカ、おかわりもしていいぞ」


「そうか! では、これを5皿くれ!」


「ははは、まだまだ先は長いですよ……」


 コース料理になっており、その全てが絶品と言っていい、この世界の食事への情熱が高いことに笑顔になってしまう。

 酒に関しても様々な酒がある。


「遺跡産の名品もお金さえ有れば飲めますが……私は埃っぽくて苦手なので、私のオススメをお出ししてます」


「遺跡……太古の建物や、空から落ちた城なんかだっけか?」


「ええ、危険なガーディアンがうろつくので命がけですが、得るものもその価値に見合うものもあります」


 この世界にはいたるところにそういった遺跡がある。

 そういった遺跡を発掘することを生業にしているものもいる。


「砂喰いをあんな倒し方が出来るゲイツ殿なら、遺跡探索も容易でしょうねぇ……」


「そうだな、落ち着いたらお宅に持ってくかも知れないな!」


「その時は、勉強しますよ!」


 ロカは何度目かわからないメイン料理のおかわりをしているが、俺は本題を切り出す。


「さて、話がるってことについて、聞こうか」


「はい、実はゲイツさんに、一人の奴隷を買ってほしいのです」


「奴隷……」


「フォクシ族、その中でも名族である風狼族……

 しかも、首長の縁がある、はっきり言ってしまえば権力争いに負けた王族ですね」


「なかなかいわくつきだが、なぜ俺なんだ?」


「その奴隷、奴隷でありながら主が仕えるに値しないなら決して屈せず、どんな拷問も意味がなく……まだ15にならぬ子供、そういった奴隷にするのもあまりにも不憫で……ついつい買っちゃったんですが、まぁ俺なんかには従ってくれないので、はっはっは!」


「へー、マーチはそういう面も有るんだな……」


「自分も元は奴隷上がり、いい主に恵まれたからです。

 出来れば彼女もいい主に恵まれてほしいんですよ。

 それに、器用で頭もいいですから、将来はそりゃあもう美人になることも間違いないですから」


「ファに!? ふぉんなのふぉれいなんれらめらぞふぇいふ!」


「飲み込んでから喋れ……」


「女の奴隷なんてダメだぞ!」


「つまり、俺以外の慰みものにしろと、ロカはそういうのか?」


「い、いや、何もそんなことは言っていないが……」


「まぁまぁ、一応まだ主と認められるかわかりませんからロカさんも、落ち着いてください」


 いや、マーチは確信して言っている。

 そして、その奴隷を俺が手に入れればさらに自分の利益になることも理解している。


「ふむ、とりあえず。あってみないとな」


「そ、そうだ! 

 まずは見てみないとな!」


「ありがとうございます。それでは、食後の散歩といたしましょうか」


 店を出ると警護なのかマーチの周囲にはガルラの兵士がつきそう。

 全員、かなりやる。

 大通りを抜け、少し暗い道の先に目的の場所があった。

 闘技場。

 人同士や、魔物との戦いが娯楽になり、ギャンブルとなっている。

 マーチと一緒に、闘技場へと入る。

 

 そして、その戦いの場で、出会うことになる。

 誇り高き狼と……


 


 


 

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