第九話 酒だ酒だ!
食堂……
「飲み屋だなこりゃ」
真っ昼間、いや、まだ午前中だというのに、そこら中でごきげんな感じでやっている人が多い。
適当に空いている席に座ってメニューを見る。
「ぬおっ! エールが有るのか!」
「ゲイツも好きなのか? アレは苦くて好きじゃない……」
「おおい、エールと、お茶くれ!
つまみは適当におすすめで!」
我慢できん!
俺は大声で注文する。
周りの奴らがクスクスと笑っているが、知ったこっちゃない、俺はエールが飲みたいんだ!
「はいよ元気のいい兄さん、こっちのきれいなおねーさんも」
直ぐにエールが持ってこられた。持ってきたのは猫耳の女の子だ。
「フォクシの民か……」
もふもふしてそうで可愛らしい。愛嬌もいいし、機転が利く。
と、今はそんなことはどうでもいい。
「じゃあロカ、乾杯!!」
「あ、ああ」
少し引いているロカを尻目にマグに注がれたエールを飲み込む。
「!?」
予想していなかった。エールがキンキンに冷えていた。
あまりの旨さに一気に煽って飲み干してしまった。
「……かーーーーーーっ!! 旨ぇえ!!」
「お、にいさん良い飲みっぷりだね、おかわりかい?」
「ああ、よろしく頼むわ!」
「はいよ! とりあえずお通しの砂這いの煮玉子だよ」
何やら小さな白い物が山盛りに乗っている。
口に入れてみると、なかなか濃厚な味のドロリとしたものが口に広がる。
そしてサラッと無くなっていく。悪くない。
「砂這いはたくさんの卵を生む、それを塩ゆですると栄養もたっぷりだ」
ロカも美味しそうに食べている。
直ぐにエールと一緒にいくつか料理も運ばれてくる。
砂跳びのピリ辛炒め、干し魚と野菜のスープ、パン。
砂跳びの肉は想像よりも歯ごたえがあって旨い、ピリッとした辛さと濃いめの味付けが酒とよく合う。
「こんなことならちゃんと肉も回収すればよかった……」
「まぁ、あそこの食材と比べるとあれだけど、砂跳びでも肉はごちそうの部類だよ」
そして、パンが有るってことは小麦が有るのか。
買って帰ろう。
今回は農場用の農作物の買付も大きな目的だ。
気がつけばエールが空だ。
「ほいよにーさん、おかわりで良いんだろ?」
「おお、気が利くな! ほれ、チップだ」
「ええ!! こんなに!? いいのかい?
……にーさんだったらこれで2階に行ったっていいぜ?」
「ダメだ! ゲイツは勇者だ! そういうことはしないぞ!」
「あらあら、きれいなねーさん怒らせちゃったよ!
(いつもこの店居るから、いつでも声かけて)」
耳元で小声で話されるとゾクッとしてしまう。
可愛らしい見た目とは裏腹に、やり手だな。
なるほど、ここはそういうことも兼ねているのか……
「こら、なにをしているか!? ゲイツから離れる!」
ロカが真っ赤になって怒っているのでこれくらいにしておこう。
「ところでロカの好きな食べ物は何だ?」
「ロカか? ロカはやはりゴウゴウの肉を豪快に焼いた奴が最高だな!」
「ゴウゴウなら良いところの有るよ! 銀貨1枚はお得だと思うよー!」
「上手いな、よし、一つもらおう!」
「まいどありぃ!!」
「良いのか!? ロカは嬉しいぞ!」
さっきのことをすっかり忘れて満面の笑みだ。
もちろん、ゴウゴウの肉がテーブルに付いたらもっと笑顔になっている。
こういう単純なところが可愛いなロカは。
俺もついついエールを飲みすぎていい気分になってきた。
皿とジョッキがばんばん交換されていく……
俺もロカも大食いだからな、本来は……普段は節制しているが、ちょっと浮かれて緩みすぎた……
カーンカーンカーンカーン
鐘の音が聞こえる。
「4つ鐘だな、もうすぐ店に行かないとな」
「ああ、鐘で時間を知らせているのか」
「時間はあれでもわかるけどな」
「なるほど、時計も有るのか……あー、地図も買わないとなぁ……
なんかめんどくさくなってきた」
「ダメなガルラと同じくなっている、やはり酒は悪い文化!」
「まだまだ酔ってないぜ……」
「先に宿を取ろう、そうすれば好きなだけ飲める!」
「おお、ロカ、ナイスアイデア!」
「宿の紹介するよ!? 外出て左、3軒先の赤い屋根の建物がこの街ではおすすめだ!」
「よっしゃ、会計してくれ、ロカ、行くぞー」
支払いは銀貨3枚で足りたので、お釣りはフォクシの子にあげた。
最期にまた「絶対呼んでね」って耳打ちされてしまった。
モテル男は辛いぜ……
ロカは満腹なので機嫌がいい……
まぁ、俺も男だ。
そういう感情が無いわけでもない……
商売的なものだろうが、差別もしない。うんうん。
「また来るぜ!」
「はーいおにーさんまたねー!」
わざわざ店の外まで送ってくれた。
いやー、気分がいい。
砂漠の熱く乾いた風が、壁に囲われた街の中では少し涼しく感じる。
酔った顔を心地よい風が撫でていく。
言われた宿で部屋を取り、前金で銀貨1枚を置いて買取店へと向かう。
「銀貨は大きくて使いづらいな……」
「宿の人もちょっと嫌そうだったね」
「しかし、ちょっと嫌な予感がするんだよな……」
「うん、ロカもわかるぞそれ」
露店で干した果物とお茶を買って食べ歩き飲み歩きしているうちに酔は覚めた。
露店でも銀貨は嫌な顔された。
少し多めに払って銅貨90枚で良いって言ったら笑顔になってくれた。
「さっきの店はジャッキだったな」
「そうだ、ゲイツ、ジャッキはガルラの言葉、皆はフッコ族と呼ぶ。
ジャッキの中にはガルラ以外にそう言われると怒るのも居る。
ガルラは何度言っても直さないから諦められたが、ゲイツはフッコと呼んだほうが良い」
「それはもっと早く教えるべきだぞ」
「すまない、ロカはゲイツがジャッキだと忘れていた。勇者だからな」
「俺も気をつける」
とりあえずこの世界にいる種族は全て見れた。
魔法を使うピープの民、フォクシの民、ガルラ族、それにフッコ族。
「4種族か……」
「いちおう竜人もいるが、人里には降りてこない」
「ん? 初耳だぞ?」
「言っていないから、世界の中心の大いなる神の山、遥かな高き都市に竜人は住んでいる。
竜人以外は近づくことも出来ない。強大な力を持つ圧倒的な人々だ」
「……ちゃんとこの世界の本を買って学ぶことにするよ……」
大事なことをちゃんと教えてくれロカよ……
そして5つ鐘丁度に、お店に到着する。
俺の悪い予感は、大抵当たってしまう。
「旦那、こんな金持ち歩くのは危険だぜ?」




