プロローグ 救世の戦い
筋肉ゴリゴリ小説を書いてみたくなりました。
よろしくおねがいします!
「今だあぁ! アルベルト!!」
俺の戦斧が魔導核を守る強固な殻を砕いた。
勇者アルベルトが持つ聖剣ライトブライトを魔導核に突き立てる。
「ぐわあああぁぁぁ!! 許さん!! 許さんぞ!! 勇者共!!
魔神様……せめてもの贄に小奴らを……」
砕け散った魔導核に貯められた膨大な魔力が渦を巻いて空間に穴を開ける。
直感が警鐘を鳴らす。
これは、やばい……
「アルベルト! 絶対防壁でみんなを守れ!!」
「どういうことだゲイツ!?」
「うるせぇ早くしろ!!」
勇者のスキル絶対防壁、俺以外の仲間たちを光の壁が包み込む。
「皆!! 歯ぁ食いしばれよぉ!!」
「ゲイツ! 何する気だゲイツ!!」
俺は愛用の斧に闘気を満たす。
「獣王風牙掌!(手加減バージョン)」
「ゲイツぅぅぅぅぅぅ!!」
暴風がアルベルトたちを次元の隙間から元の世界へと吹き飛ばしていく。
「己、忌々しい!! 貴様だけでもぉぉ!! 次元の彼方へ消え失せろぉ!!」
邪悪なる魔導王ゴーデグリスは怒りと怨嗟の雄叫びを上げて弾けて消えた。
次の瞬間その場に開きかけていた時空の裂け目が激しく開き、最後の戦いの場、時空の裂け目全てを飲み込んでいく。
「あーあ……帰ったら旨い酒と、飯が待ってたのによぉ……」
約束、破っちまって、アイツら怒るかな……
共にこの場まで戦ってきた仲間たちの顔が思い起こされる。
勇者アルベルト、堅物で真面目人間、根っこからの良いやつだ。
融通がきかないこともあっていけ好かないが、いつも一本筋は通っている。
努力家だし、まさに勇者だった。
あいつを失うことは世界の損失だ……
魔術師ラーフェン、いつも冷静で戦術だとか戦略だとか細かいことを気にしていた。
自分の魔法一つで戦場なんかひっくり返せるのに、出来る限り味方に被害が出ないように一生懸命準備をしている、優しいやつだ。
エルフのウッディアン、弓と精霊魔法の達人。
始めは人間が嫌いだなんて生意気なことを言っていたが、結局はアルベルトにぞっこんだ。
「そ、そんなんじゃないから!」
って、長い耳を真っ赤にするのが面白くてからかいすぎて嫌われちまったがな……
聖女クラレスト、回復と補助でパーティを支え続けてくれた。
自分を犠牲にしてもパーティを守ろうとするラーフェンとよくぶつかっていたけど、いつの間にか仲良くなって、帰ったら式をあげるって言ってたな。
その約束も……破っちまうな。
レンジャー玄庵。おっさんで酒好きで一番馬があった……
仕事の時は冷徹とも言えるほどのリアリストで、パーティの危機を何度も救ってくれた。
孫を見るのを楽しみにしていたからな、助けられて本当に良かった。
思い返してみれば、とっさに身体が動いたが、これで良かったんだなと思える。
クソジジイとクソババアに凱旋の話を持ち帰れねぇのと、村のガキどもに土産を持って帰れねぇのだけは申し訳がねぇな……
剣聖のクソジジイと拳聖のクソババァに拾われた俺は、修行という名の虐待と、じじいとばばあの最強理論の実験台で青春全てを失った。
もともと俺は転生者というものだった。
突然赤子にされて森に転移され、二人に拾われた。
なんの因果か、二人の虐待に耐え抜いて、気がつけば勇者と旅をしていた。
この世界を滅ぼし、邪神復活の苗床にしようとしていた魔導王ゴーデグリス。
奴が率いる魔族と魔物たちの連合軍とこの世界に住む人間、亜人の連合軍の戦いは数千年続いていた。
数限りないほどの衝突と戦いは、ゴーデグリスの思惑通りこの世界に大きな力を生み出していた。
唯一、やつの予想外の出来事は、俺たち転生者をこの世界に引き込んでしまったことだ。
俺たちは全員前世の記憶と特殊な能力を持っていた。
普通の人間とはかけ離れた圧倒的な力によって、徐々に人間たちは魔導王の軍勢を押し返し、ついには魔導王に対峙した。
すでに力は満ちており、あとは俺たちを生贄にこの世界に魔神という絶対存在を呼ぼうとしたゴーデグリスをアルベルトは見事に討ち取った。
5日間にも及ぶ激闘は、死闘と言うしか無い。
俺ももう斧を握る手に力が入らねぇ……
身体が時空の裂け目に吸い込まれていく。
なんだか妙にゆっくりと感じるもんだ……
これが走馬灯ってやつだな……
時空の裂け目ってどこにつながっているのかねぇ……
酒がうまい所が良いねぇ……
「馬鹿弟子!! 何気を抜いてやがんだ!
どんなときでも出来ることをやってから死ね!」
「はぁ、情けないよ……そんな腑抜けに育てたつもりはないわい……」
じじいとばばあの小言が聞こえてくる。
好き勝手言いやがって……
同時にあの地獄の日々が思い返されて身震いする。
「あー! やってやろうじゃねぇか!
次元の隙間だか裂け目だかしらねぇが、俺はしぶてーんだよ!」
最期の技で本当に出涸らし程度の力しか残ってねぇが、俺は出来ることをする。
「身体を頑丈にすれば、大抵のことはなんとかなるんだよ!
剛身体!!」
獣王の鎧、獣王の斧、獣王の盾に秘められてた力に自分の力を振り絞り、全てを防御に注ぎ込む。
力が入らねぇ……
「ここで根性見せろぉ! ゲイツ!!」
俺の気合に反応して装備たちが輝きを放つ。
穴が俺を完全に飲み込み、時空の裂け目が閉じて完全な闇に包み込まれる。
どっちが上か下かもわからない、気合を抜けば身体が引きちぎられるかもしれない、渦のような力の奔流が自分の体を飲み込もうとしている。
(糞が!! ここで死んだら、ジジイとババアに地獄でしごかれる!
まだやれるだろ!! 全部絞り出せ!!)
武器を持つ手に最後の力を注ぎ込む。
「根性見せろやぁ!!」
たぶん、命を削って力を注ぎ込む、獣王の斧が光り輝く。
「次元を断つ!! 獣王断空斬ぁぁん!!」
斧の斬撃が輝きを放ち、力の奔流に亀裂を生じる。
俺はその隙間に身体をねじ込んでいく、膨大な力が鎧や斧、盾を蝕んでいくが、最期の気力で無理やりその隙間に斧と盾をねじ込んで身体を引きずり込む……
「抜けろおおおおぉぉぉぉ!!」
空間の境界と鎧が触れ合いバチバチと火花をちらしながら、俺はその隙間を通過することに成功する。
「う、おおおおおぉぉぉ!?」
突然天地が定まり、真っ逆さまに落下している。
迫る大地は砂地、俺はとっさに身体を捻りこみ、回転するように着地する。
落下のダメージは無いが、ぼろぼろになった戦斧が近くに突き刺さったほうが肝を冷やした。
「どこだここ……」
気がつけば普通に呼吸も出来ている。
「うわ……これは酷いな……」
鎧も斧も盾もボロボロだ……
「生きているか?」
力を込めるが、反応がかなり鈍い。
俺の命を何度と無く助けてくれた獣王の装備一式、このままでは完全に死んでしまう、魔装具として終わってしまうので、全てを纏めて力を込める。
ボロボロだった装備はグニャリと形を変えて混ざり合い、掌の大きさ程度の塊になる。
「またゆっくり育ててやるからな」
とりあえず、ショートソードと胸当て、サンダルくらいになるくらいは生きていたので、新たに作り直して身につける。
すでに死んでしまった部分は灰になって風に流されていく。
成長する武具、魔装具。
伝説の鉱石や魔物の素材を吸収しまくって育て上げた獣王装備は、今、新たに産声を上げた。
これから俺の相棒になってくれるその姿は、頼りないが、なんとも言えない愛着がわく。
その他の道具も確認するが、服もボロボロな部分を切り取ると半袖半ズボン、なんとも格好がつかない。アイテムボックスは破壊され、いざという時の小型のアイテムボックスはなんとか無事だった。
中身は最小限のサバイバル用品、壊れて中のものが出せなくなる前に全てを取り出して布で包んで背負う。アイテムボックスは、中身を出したとたん機能しなくなった……危なかった。
火打ち石、布が数枚、ロープ、小型のナイフが2本、獣の膀胱を利用した水筒一つ、干し肉が5切れ。
これが今の俺の全てだ。
「さて、ここはどこだ……?」
改めて周囲を見渡すと、そらは抜けるような青空と、激しく照りつける太陽。
周囲には、赤茶けた砂しかない……
生物の気配も植物も一つも見当たらない。
落下中に多少周囲を見れたおかげで、進む方向は定まっている。
「まずはあの森っぽいところを目指すか……」
太陽の方向に、小さな森が見えた。
とにかく、まずはそこを目指すことにした。