四話 電車
学校についてからが本番かなぁ。
ぐふっ、ガーちゃんの愛は激しすぎるよ。私もうお嫁に行けないよ。ガーちゃんに責任を取ってもらわないとダメだよね? うん、赤ちゃんの名前何が良いかな~。
「ケロケロで責任なんぞ取れるか! さっさと剣を運んで乗り込むよ」
ぐへ~。気持ち悪いよ~。足が生まれたてのベヒーモスだよ~。ガーちゃんのどえす~。
「集積場って感じだね。分かってたけど実際に見るとすごい荷物なんだね。山になってるよ」
「がっはっは、まぁ最初はみんな度肝を抜かれるからなぁ。これがこの辺りの生命線って事だな」
「すごいねー。コンテナが沢山……」
う~、ポチ丸が重いよ~。なんで箱に入れないといけないの? 背負えば楽なのに~。
「凶器を背負って歩けるか! 村と違ってそういうの、うるさいんだから我慢だよ」
「お嬢、こっちの台車に乗せてくれ。つーか自力で運ぶな」
おおう、ミノさん気が利くね。ガーちゃんも見習わないと立派なお供になれないゾ?
「……ミノさん、あのコンテナ思いっきり押したら落ちるよね。縄ってある?」
「やめろよ? ここで殺人事件とかマジでやめろよ?」
「はっ、死ななければ殺人事件じゃないよ」
やさぐれガーちゃんか~。なにかあったのかな。でっかい倉庫だからなにか見つけたのかなぁ。
それにしてもここ広ーい! 天井がすっごく高いの! まぁ骨組みが見えてるけどそんなこと、どうでもよくなる広さだね!
ここでかくれんぼしたら絶対見つからない自信がある!
「遭難するからやめてくれ。昔、子供が入り込んで事故がちょくちょくあってな、今はかなり厳重なんだよ」
へ~。ここだとミノさんも小さく見えるもんね。巨人のお家ってこんな感じなのかな。
「倉庫が繋がっているから、かなり大きく感じるだけで実際に使うとこだけだとそうでもないんだよ。一区画移動すれば駅のホームに行けるからな」
「区画で分けてるんだ? いくつくらいあるの?」
ガーちゃんこういうの好きだよね。ここも人が沢山いて騒がしいんだ。見物の人じゃなくてお仕事の人だけどね。さっきからチラチラ見られてるけど誰も声とか掛けてこないの。ミノさん効果?
さっきから気になってるんだけど、私達と同じように電車に荷物を乗せるんじゃないかな~って、おっきい荷物が床をコロコロしながら運ばれていくの。コロコロー。楽しそう。床がコロコロ回っているから荷物だけが流れていくの。乗りたいな~。
「荷物専用レーンだから駄目だぞ? お嬢みたいに荷物が少ないと自分で運ばないと駄目でな、ある程度の量がないと使わせてもらえないんだが便利なんだよなこれ」
ミノさんが横目で流れていく荷物を見てる。ミノさんの横目って分かり難いよね。獲物を狙う目?
「ころだっけ」
「コロコロするから?」
「多分違う。けど別に良いや」
おぉ、ガーちゃんの機嫌が良い。倉庫のなまおろしとかガーちゃん好きだから。
「……なまおろし?」
「多分棚卸しの事だよ。リノばあ様の倉庫とか僕がやったし。……勉強の一環で」
「半月ぐらいかかったんだよね。ガーちゃんと遊べなくて寂しかったんだから」
「あれはそんなにやりたいものではない」
ガーちゃんがなんか白い! 燃え尽きた灰のようだよ!
「大変だな……それで『調合』覚えたのか」
「……そのとき既に持ってたよ。リノばあ様とババアが手を組んだんだよ。別件で」
おばばって何か頼むと必ず叶えてくれるけどへんてこな試練が交換条件なんだよね。私は経験ないけどガーちゃんは常連みたい。きっと立派なお供になるために頑張ってるんだね。さすがガーちゃん! 愛してる~!
「……あれは『鍛冶』だった気がする。関係無い事に、こきつかわれたよ」
「ガー公……お前生き急ぎすぎじゃねぇか? その年でもう三つの技能持ちってよ」
「あれ? ミノさん知らないの? ガーちゃんは十個以上技能持ってるよ?」
うふふ~、ガーちゃんって私の為に頑張ってるんだから~。もう抱き締めてすりすりしてクンクンしてそれから……
「アホマリの為じゃ無い! どうしても欲しい技能があって、それを目指してたら、いつの間に増えてたってだけで実際は素人レベルだよ。別にすごくないよ? 本職には全然敵わないし」
「……まさかガー公……お前……『クライマー』を目指しているのか?……あれは伝説上のものだろう」
クライマー? 何それ。なんか文句言うお仕事?
「それはクレーマーな? ミノさん……僕は別に夢を追い求めてる訳じゃないよ。確証はある。手応えもある。天使学校で僕は必ず手に入れて見せる! 『クライマー』伝説のおっぱいを極めし者の称号を!」
ガーちゃん!? 何言ってるの! 私のだけで満足しなさい!
「ちっパイはもう十分だ。必要なのは多種多様なパイなんだよ! 多くの女性がいる天使学校ならサンプルがてんこ盛りだー!」
「ガーちゃんのばかー! 浮気者ー!」
「黙れ、ちっパイ! おっぱいには優しさが詰まってるんだよ! 夢と希望もな! ロマンを追い求めて旅する男には癒しが必要なんだよ!」
「はっ! ガーちゃんまさかお母さんのおっぱいも?」
「調査済みだコンニャロー! 大変だったんだぞ! おばさん舌舐めずりして超怖かったんだからな!」
「ガーちゃんの浮気者ー! はっ! まさかおばばにも?」
「やるかボケェ! 垂れた乳はおっぱいに非ず! 見せつけられた僕の苦しみをお前に理解できるかー! 血の涙が出たんだぞ!」
このあとも魂の叫びを続けるガーちゃんと私で言い争いしてたら倉庫の人に怒られた。でもガーちゃんは何故か男の人に応援されてた。解せぬ。
女性の職員さんも顔を赤らめてガーちゃんに近付いてきたので威嚇しておいた。シャーって。ガーちゃんの馬鹿。浮気者。乳狂い。私だって無いわけじゃないんだから。……小さいだけで。
「……かなり時間を食ったな。そろそろ電車に乗らないと」
ミノさん、今までの騒ぎを無かったことにしてる。大人の対応って奴だね。ミノさんもおっぱいが好きなのかな。牛だし。
「ふっ、この世界は同士に満ちている! みんなの思いを無駄にはしない! 僕はきっとなってみせるよ! 全ての男の夢『クライマー』に!」
あー、ガーちゃんがコンテナの上で演説してる。観客多いな~。ポチ丸~出番ですよ~。拍手なんてしてる肉塊をミンチにしよう。そうしよう。
「お嬢ー! 剣を箱から出すなー! みんな逃げろ! マジでヤバイぞ!」
このあとめっちゃ怒られた。……解せぬ。
「マリーが『天使』を目指すように僕が『クライマー』を目指すだけでなんでそんなに怒るのさ」
ふんっ。浮気者なガーちゃんは知りません! なんだか知らない内に電車に乗ってて二人掛けの座席に並んで座ってるけど、私は許しませんからね!
怒られた記憶は少しだけ覚えてるけど、ミノさんが手を振ってたような? 電車の中は半分くらい席が埋まってるみたい。あんだけの人がホームにも居たのに乗るのはやっぱりこのくらいなんだ。
「マリーは知らないか。なら他の人に『クライマー』の力を使うとするかな。学校で適当に見繕えばいいし。女の子なら沢山居そうだし」
「だめー! ガーちゃんは私のなの! 浮気なんて許しません!」
ガーちゃんの腕をロック! 離さないもん! 股に挟んで離さないもん! 関節も極めて……あがが! 返された! 股に挟めないよ。
「だってマリーは『クライマー』を否定するんでしょ? よく知らないのに」
ガーちゃんが優しげな目で私の顔を覗き込む。うっ、可愛い! でも今は怒ってるんですからね! しれっと私の腕を極めてるけど。
「どうせおっぱいを登る為の技能なんでしょ! 私だって好きで小さい訳じゃないもん! ガーちゃんの馬鹿!」
胸なんて飾りだもん! 脂肪の塊なんだよ!
「おっぱいを登る技能って……それおかしいって。『クライマー』って確かに誤解されてるけど本当はもっと違う物なんだよ? 伝説ではおっぱいが強調されてるだけで」
「ふんだ! ガーちゃんなんて不潔です!」
「あのね? マリー……」
あっ、電車が動き出した。ふんだ、ガーちゃんなんて知らないもん。肩に頭を乗せてやるんだもん。ふて寝してやるもん。
「……まっ、いっか」
ふんだ。ガーちゃんなんて……
「寝ちゃったか」
くんかくんかスンスンスンスン!
「そい!」
あががが! 腕! 腕の関節が!
「……マリー普通は逆なんだよ? 僕がマリーの匂いを嗅ぐのが普通なんだからね?」
へ~。ガーちゃんが私の……私をくんかくんかするの?
…………へあ!? マジで!?
「くんくん。マリーは甘い匂いがするね」
「ほきゃあ!」
うおぅ! 体が火照る! 熱い! 熱いから! ガーちゃん離れてー! あっ、腕が! 逃げられない!? はわわ! だめー! 汗がぶわって!
「マリー……逃がさないよ?」
はうっ! ガーちゃんのささやきが耳に…………ぷしゅ~。
「んっ、落ちたね。さて僕も寝るかな」
こうして私達は電車に乗って天使学校のある大都市へと向かうのでした。私このときの記憶って全く残って無いんだよね。疲れて寝てたのかな? 気付いたらもう着いてたし。
ガーちゃんの技能 既出のみ。
「調合」
わりとプロに近い。
「治療」
被験者募集中。
「鍛冶」
ガーちゃんクローとかお仕置きグッズでメキメキと腕が上がってます。
マリーの技能
「???」
天使を目指せるスペックはある。あるんだけど性格がね?
クライマーや天使については、お話が進むと明らかになります。なので今はそんなんあったなー、くらいで問題ないっす。おっぱいは登らないからね?