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初恋パイルドライバー  作者: サーモン横山
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一話 旅立ち


 帰ってきたよー。これからもよろしくねー。



 幼い頃に見たあの光景が私を駆り立てる。



 ただ一人、剣を振るい魔物の群れに立ち向かう女騎士。まるで踊っているかのようにその動きは淀みなく血飛沫すら花びらのように見えた。


 白銀の鎧、羽飾りが付いた兜を被った魔物に比べたらあまりにも小さな騎士が水面に拡がる波紋のように群がる魔物を斬り倒していく。


 私は……この時を忘れない。村の教室で見せられた「天使」の戦いの映像を。そして私は決心した。私も「天使」になってあの女騎士のおねえさまに会いに行くんだと!




「ほ~、それと何が関係するの? 僕には全く、まったくもって関係無いよね?」


 あらあらガーちゃん。そんなイヤイヤな顔してどうしたの? まだ何も言ってないのに。


「その『あらあら仕方ないわね~』的な顔をすんな! 何で朝っぱらから僕を庭に連れ出したのさ」


「だって天使にお供は付き物だし」


 次の瞬間、ガーちゃんの小さなこぶしが私の脇腹に突き刺さっていた。ヒドイよ、ガーちゃん。


「げふっ、何するのよ、ガーちゃんはお供なんだから天使に手を上げちゃダメなんだよ?」


「ちっ、無駄に頑丈だな」


 なんか手を振ってるけど目が怒ってた。うん、いつものガーちゃんだね。


「で、誰が天使だって? それにお供だぁ? ろくに剣術訓練にも出てないくせに、なに寝言を言ってるの? まだ僕眠いから帰るね」


「ダメー! ガーちゃんは私のお供になってずっと支えるの! えーと、なんだっけ……えいよをさずかる? 的な! えへん!」


 次の瞬間、ガーちゃんのかかとが私の脳天に落ちてきた。


「がべっ!」


「ちっ、無駄に硬いな」


 ヒドイよ、ガーちゃん。舌かんだよ?


「あのね? ガーちゃんはお供にぽったりだと思うの」


 優しいし、何だかんだで言うこと聞いてくれるし、器用だし。それに……ちっちゃくて可愛いし。


「ぽったりって何だよ! ちゃんと勉強をしてから天使を目指すとか言えよ、このアホマリ!」


「アホマリじゃないもん。マリーだもん!」


「うっさい! なんで踵落としを食らってケロリとしてんだよ!」


「ケロリン?」


 河に住む妖精さんだっけ?


「ケロリンじゃねぇよ! それにケロリンは河じゃなくて川原に出る魔物だよ! なんで妖精になってんの!」


「ほえ~、やっぱりガーちゃんがいると便利だね~」


 次の瞬間、ガーちゃんは私の後ろに電光石火で回り込み首を抱き締めてきた。イヤン、ガーちゃんのえっち! このけだもの~。


「何処で覚えたの? それ」


 あれ? なんかガーちゃんの声が冷たい? それになんだか遠くに行っちゃうような感じがする。


「ほぇ、えーと……はぅ」


 そこまでで私の記憶は途切れていて気付いたら自分の部屋のベットに寝てた。あれ? ガーちゃんの匂いがする。


「ガーちゃん?」


 掛けられていた毛布をひっぺがしてベットから降りるけど、あれ? パジャマ? もしかすると全部夢だったの? 床をペタペタと歩いてリビングに向かう。お母さんならなにか分かるかも。


「おかーさーん。ガーちゃんどこ~」


「はぁ……開口一番はそれなのね。ガーちゃんならあなたの着替えをしてから家に帰ったわよ?」


 ほえ? 着替え?


「気を失っていたマリーをガーちゃんが担いで運んで来たのよ。お漏らししてたマリーをね」


「へ~、ガーちゃんが担いで……おもらし?」


 おもらし。おもらしってなんだっけ?


「まだ子供とはいえガーちゃんってしっかり者ね。絶対に逃がしちゃダメよ? あんなに良い男はそう居ないんだから」


「うん! ガーちゃんは私のお供なの!」


「……大丈夫かしら、我が娘ながら心配でたまらないわ」


 う? お母さんが椅子に座って頭を抱えてる。どうしたんだろ、またお父さんが浮気したのかな。あっ、お母さんがガバッと頭を上げた! 髪の毛がバサッて。


「……マリー、いい? これからしっかり勉強して取り合えずガーちゃんだけは死守しなさい。ガーちゃんさえ側に居ればなんとかなるわ」


 お母さんが本気モードで私の両肩をガシッと掴んでる。なんでだろう、すごく必死なお顔してる。椅子から飛び降りて床に膝立ちで……はっ! まさか……お母さんもガーちゃんを狙ってるの!?


「違うわよ、このスカタン娘が! お母さんの言うこと聞いてた? これからしっかり勉強するの! それでガーちゃんを離さない! それだけなら……分かるわよね?」


「うん! ガーちゃんをらちかんきん!」


 お父さんの本に書いてあった「好きにする本」に書いてあった奥の手だよ! 好きにするって……イヤン、ガーちゃん。えへへ~。


「よし、あいつは後でしばく! 本も焼く! じゃなくて! なんでそんなことには吸収が早いのよ……」


 あや? お母さん疲れてる?


「大丈夫よ、ええ、大丈夫。取り合えずマリーはお勉強頑張りなさい。天使を目指すことは止めないけど目指すなら絶対に必要だからね? 常識とか普通とか」


「……うん」


 お勉強ってつまんないから嫌いなんだけど~。


「お馬鹿な娘はガーちゃんに捨てられるわよ?」


「うっ! ……がんばる」


 う~。天使になるんだもん。ガーちゃんをお供に私は天使になってみせる! 

 

「はぁ……ガーちゃん年下なのに苦労するわね」


「お勉強~、まずは~素振り?」


「なんでそうなるのよ! 学校で剣術もきちんと教えてるから」


「お父さんが学校なんて行く必要ないって言ってたよ?」


「よし、あいつはしばく。あのね? お父さんは無視していいのよ? それに……学校に行けばガーちゃんと一緒にいれるでしょ?」


 学校かぁ、大体八歳からみんな行くからガーちゃんも居るのか~。うん、ガーちゃんとならがんばる!


「ついでにしっかり勉強してきなさい。字が読めないと天使になんてなれないからね」


「大丈夫! ガーちゃん()がんばるから!」


 次の瞬間、お母さんにほっぺを引っ張られていた。


「あなたが頑張るのよ! なんでガーちゃんに丸投げしてるのよ!」


「ふぇ、おひょうひゃんが出来る奴にやらせればいいって」


 ガハガハ笑いながら言ってたよ?


「……ガーちゃんが居ない時はどうするの?」


 はっ!


「マリー……天使のお供は便利な下僕じゃないのよ? 甘ったれた考えで天使になってもすぐに捨てられるからね」


「そこはきせいじじつで~」


 次の瞬間、お母さんのこぶしが私の頭を挟んでグリグリしてた。うん。いた~い!


「うぎゅー」


「はぁ……やたらと頑丈なとこはお父さんに似たわね」


 呆れたような声が聞こえるけどまだグリグリが止まらないよ~。


「いたい~」


「まだまだ余裕ね、あのねマリー……いえ、そうね」


 ふぇ? グリグリが終わった?


「マリー、貴女の思うように動いてみなさい。私はここに居るからどうしても辛くなったら帰ってきなさい」


「へ? どゆこと?」


「貴女の好きなようにして捨てらゲフンゲフン……納得するまで頑張るのよ」


 好きなように……マジで?


「うん! 分かったよお母さん! まずはお父さんが隠してる剣を出さないとね」


 私の身長と同じくらい大きいからすぐに見つかるんだよね。さて素振りを……百回? えーと三回ぐらいで大丈夫かな。


「はぁ……」


 お母さんのため息が聞こえるけど気にしてらんないよ。


「私、天使になるからね!」


「あーはい頑張ってー」


 お母さんの応援を受けて私は頑張るのであった。


 


 それから何年間も修行の日々を重ねて私は村を旅立つ。天使妖精学校に入学して本格的に天使を目指すために。


「天使妖精学校って……めっちゃファンタジー。妖精じゃなくて養成ね、この分だと筆記で落ちるか。みんなのお土産リストを忘れないでね」


 ふふふ、私のお供はガーちゃん! あれから説得の日々を重ねて口説き倒したのだった。


「マリー、ふざけてると捨てるよ」


「違うの~! 節目節目にこういう事するってお父さんが言ってたの~」


 ガーちゃんは大きくなってもガーちゃんだった。つまり……怒りっぽくて怒りんぼ。でも可愛さは変わらないの。


「おじさんの真似……それでマリーが重ねる、なんて言葉の使い方をしてたのか」


「うん! だって天使になる第一歩だもんね」


 あれから私の猛勉強が始まって天使になるには専門の学校に通う必要があるって分かったの! もうびっくり! だから入学出来る歳になったからお供を連れていざ出陣! なのよ!


「微妙に会話が噛み合ってないけどいつもの事か……たしかにお供枠で行くけど入学試験次第ではマリーだけがこの村に帰ってくることになるよ」


 ふふん! いつもの断定だね! 私には秘密兵器があるから絶対に入学出来るもん!


「賄賂とか袖の下は通用しないよ?」


「違うわ! 私の美貌が秘密兵器よ!」


 お母さんだって顔は自慢できるって胸を張っていたし。お父さんは……最近変な目で私を見てるけど。


「ちっ、マジか。あのおっさん節操が無さすぎだろ」


 ガーちゃんが苦々しい顔してる。またお腹壊したのかな?


「おばさんが居れば……いや、それでもやるか、あのおっさんなら」


「ガーちゃん、そろそろ馬車が来るよ?」


 ガーちゃんがぶつぶつと呟いてたけどこれもいつもの事だしね。十五歳になって大人っぽくなった私に照れてるのかな~。えへへ~。


「せめてDになってからそういう事は言おうか、このちっパイ」


「これからバインバインになるんだもん! お母さんぐらいになるんだもん! ガーちゃんの馬鹿ー!」


 すぐに揺れるくらい大きくなるんだもん。ユッサユッサするんだからね。


「はいはい、馬車が来るよー……は?」


「うわぁ~牛のおじさんだ~」


 道の向こうから来るのはミノタウルスの牽く馬車。今日も筋肉がすごーい。いつもはお馬さんなのにどうしたんだろ。


「え、なんで? いや、マジで? まさか……」


 あれ? ガーちゃんが珍しく慌ててる。顔色が青くなってる。あっ、おじさんが減速してる。体を持ち上げて二足歩行になって近付いて来た。いつ見てもおっきーい! それに鼻息あらーい! 蹄がガツガツいってるー!


「おう! ガー公! てめぇうちのかみさんに手ぇだしやがったな!」


 え? ガーちゃん?


「やべっバレてる!」


 ガーちゃん!


「ガーちゃん! なに浮気してるの!」


「だってすごいんだよ! 巨乳なんて生ぬるい表現になるんだよ? ミノタウルスのおっぱいって次元が違うんだよ!」


「だからって人のかみさんに手ぇ出すんじゃねぇ! 男の子、尊い……って昨日から元気が無いんだよ! ガー公、てめぇ何をした!」


 はわわわ! ガーちゃんが浮気! それも人妻に!


「失敬な! 僕は紳士的におっぱいを堪能したのみ! 何も疚しいことなど無い!」


 紳士的ってなに!? 堪能したのガーちゃん!?


「お、おう、そうなのか……ってなに開き直ってんだよ!」


「そこに! おっぱいが! 有る限り! 僕は決して諦めない!」


 ガーちゃんが巨体を見上げて一歩も引いてないよ。ガーちゃんカッコいい~! 言ってることは許せないけど。


「ぐっ! 何故だ! 何故奴はこんなにも自信に満ち溢れてやがる」


「下心が無いからだー!」


「下心しかねぇじゃねぇかー!」




「ほう、つまりなんだカウンセリングのついでに乳を揉んだのか?」


「否! 拝んだ弾みでダイブしただけだよ?」


「なお悪いわ!」


 私達はミノさんの牽く馬車に乗って電車の通っている街へと向かっています。ガーちゃんの馬鹿。


「サラさん悩んでたよ? 最近ご無沙汰だって」


「ちょっおま! そこまで話したのかよ」


「こういうのは本来夫婦両方に話をするものだからね」


「ほうほう、それで……なんで逃げ回ってたんだ?」


「いや~怒るかな~って。サラさん満足しちゃったし」


「ガー公!」


「オムネダイブで満足するくらい寂しいんだよ。ミノさんしっかりしてよ。隣に座って手を握るだけでもいいんだよ? 愛を確認できればそれで。……それとも愛はもう無いの?」


「馬鹿野郎! この胸に溢れてるに決まってらぁ!」


 うひゃあ! 揺れる! やめて~これ以上酔ったら……出る!


「ミノさん落ち着いて、マリーがヒロインから脱落するから」


「あ? そうか、わりぃな興奮しちまってよ。てかお嬢はまだヒロインなのか?」


「まぁ微妙だよね」


 うー。なんかひどい事を話してる? 馬車で寝てる私をもっといたわって欲しいな~。


「相変わらず思ってることが口から出るなお嬢」


「ミノさんは少し見習ったら? このままだとサラさん悪い男に騙されるかもよ」


「なに!? 誰だ! お嬢の親父か!」


 へ? お父さん?


「うん。危険。警告はしておいたけどミノさんがしっかりしないと……」


「だぁー! もう、分かったよ。……で、ど、どこまで聞いたんだ?」


「ん? 最近よそよそしいって事と……元気が無いって事ぐらいだよ? ババアに頼めばなんとかなると思うけど」


「いや、それは最後の手段だ。俺もあの人は苦手だからな」


「いつも変な条件出してくるからね、あのババア。じゃあリノばあ様に頼むしかないか~」


「うぐっ、やっぱりか? でもよ、リノばあだと……」


「うん、すぐに村中にバレるね」


「……だよなぁ、あの人お喋り大好きだからなぁ」


「……実験台になる覚悟があるなら僕にも出来るけど……経験がほとんど無いからお勧めは出来ないよ」


「はぁ? お前『治療』も覚えたのか?」


「勝手に生えた」


 へ~。って、え~!


「ガーちゃん! どういうことですか! 私になんで内緒にしてたんですか!」


「おっ人前だと大分ましだね。これからはいつもその口調を維持することになるから……」


「そんなことはどうでもいいの! なんで『治療』を使えるって言ってくれなかったの? 言ってくれたら私……もっと楽できたのに!」


「だからだボケ」


 うぅー、薬草集めに薬の調合とか死ぬほどめんどくさかったのに~!


「最終的に投げ出しておいて何を言うかこのアホマリ。あっ、お前に使う予定は無いからな。薬ならキチンと用意してあるから安心しろ。苦味ましましの特製だ」


「ガーちゃんのアホ~!」


 ひどいよ、私、苦味が嫌いなのにー!


「使ってないのか? 便利だろうに」


「リノばあ様とババアの教えだよ。どっちも覚えておけって。お陰で薬効そのままに苦味ましましの薬が作れるようになったからまぁ感謝?」


「……それ、甘くも出来るんじゃねぇのか?」


「出来るけどやらないよ? めんどくさいし」


「ガーちゃん! そこは頑張るとこだよ! 私の為に!」


「うっさい。ミノさんは……薬にしとく? 街なら材料も有ると思うし」


 ガーちゃんが冷たいよー。はっ! これがケンタッキー? あれ? せんたっきー?


「……倦怠期じゃねぇか?」


「おお! 多分それ!」


 ミノさんって結構博識なんだよね~。大柄な人ってアホが多いから。


「……ガー公、薬を頼む」


「はいはい、薬でなんとかなる問題で良かったね」


「済まねぇ、ガー公はこんなにも苦労してるっていうのに俺って奴は」


 あれ? ミノさんが男泣き?


「試験に受かればまだ続くんだけどね。まっ、平気だと思うよ?」


 ガーちゃんはすごくいい笑顔してるし。


 とまぁ、そんなこんなで私達の旅は始まったのです。…………うっ、ケロケロケロケロー。


「ぎゃーっ! マリおまっ、せめて外に吐けよ!」


「あぁ、お嬢はヒロインから脱落だな、こりゃ」


 はい。タイトルのバージョンアップとは書き直しの意味でございます。気に食わなくて書き直したのです。まぁ他にも意味を持たせるのも面白そうですが。そんな訳で読んで頂きありがとうございます。


 タイトルを! 変えました! デデン! いや、なんか素敵なフレーズが出てきたので。そんな訳でかなりの不定期更新ですがつらつらと書いていく所存にてございます。

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