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第9話

 ガルート、エスリーの気配に気づいたのか!


「この部屋に魔族? そんなバカな」

 

「いや、いる。正確には、ディル、お前と一緒に入ってきた。うまく気配を消しているが、俺の目はごまかせない」


 これはまずい。

 どうする?

 エスリーのことは知らぬ存ぜぬで通して見捨てることもできるが。

 鬱陶しい監視役、この場で消えてもらうのもありか。

 だが、それではパルメーナの信頼を失う可能性がある。

 それでは、永遠にガルートに勝てない。

 どんな方法を取ってでもガルートに勝つ。

 たとえそれが魔王の力を借りるという方法であっても。

 ならば、ここをしのぐにはどうする?

 俺は一か八かの賭けに出ることにした。

 

「ガルート、すまん」


 俺は頭を下げた。


「どうしたんだ、ディル? 急に」


「お前を騙すつもりはなかったが、言いそびれてしまって、つい嘘をついてしまった。確かにここには魔族がいる。俺が連れてきた」


「なに!? お前が? どういうことなんだ? 説明してくれ」


「エスリー、もういいぞ。姿を見せても」


 俺がそう言うとしばらくの間の後、エスリーが俺の背後に姿を現した。


「ディル様……?」


 ガルートの目の前に姿をさらさせて、どうするんだという困惑の表情のエスリー。


「実は、この子、エスリーは魔王軍にいたが、大きな失敗をしたために処刑されることになった。そこで逃げ出したはいいが、今も命を狙われているらしいんだ。そうだな、エスリー」


 そう言って俺は彼女に目配せする。


「は、はい」


「昨日の夜、追っ手に襲われそうになっているところを俺が助けたんだ。それで彼女をなんとか守ってやることにした。俺がパーティーをいきなり抜けると言ったのも、彼女を守ろうと思ったからなんだ。だが、お前に反対されると思って言いそびれたんだ」


 しばし、沈黙がおとずれた。

 ガルートは俺とエスリーを何度か交互に見た後。


「そうだったのか。魔族と言えど助けるのは、ディルらしい」


「そういうわけなんだ。俺がパーティーを一旦抜けるのも納得してくれたか?」


 ガルートはかっと目を見開いた。


「そんなわけないだろ! ディル、お前、騙されているんじゃないのか!? そこの魔族、見た目はか弱い女の子だが、実際は強力な魔力を秘めている可能性が高い。油断ならない」


「彼女は大丈夫だ」


「何を根拠にそんなことが言える!?」


 ガルートがいつになく怒りをあらわにしている。

 こいつは魔族を激しく憎んでいる。

 家族を魔王軍に殺されたという過去があるからだ。


「そうなるから、お前には言いたくなかったんだ」


「言わなかった理由は分かった。だが、その魔族のためにお前が1人抜けるというのは理解不能だ。お前は勇者なんだぞ。魔王討伐の旅をする責任がある。おそらくそこの魔族が旅をさせまいとしているんだ」


「いったん抜けるだけでまた戻ってくる。この子の居場所を確保できたらだ」


「そんな場所はどこにもない。魔族は1人残らず赦してはいけない」


 ガルートは構えた。


「まさかエスリーを殺す気なのか?」


「お前は騙されているだけだ。目を覚まさせてやる」


 俺はエスリーをかばうようにガルートの前に立ち塞がった。


「エスリーはやらせない!」


「そこをどけ!」


「どくつもりはない!」


「力ずくでどかせたくはない!」


 俺とガルートは睨みあった。


「ケンカはやめて!」


「「メイ!」」


 俺とガルートの声が重なった。

 どうやらメイは気がついたらしい。

 

「どうしたの? どうしてケンカしているのか話して。そこの女の子は誰?」


 俺たちは事情を説明する。

 すると、メイはしばし考えてから口を開いた。


「私はエスリーを私たちのパーティーに入れてあげたらどうかと思うわ。魔族といえど魔族から追われているなら守ってあげるべきよ」


 さすが、メイだ。

 魔族に対してすら弱者には思いやりを見せる。

 俺は彼女のこういうところに惚れている。

 ただ、今回、彼女の提案は俺にとっては困るものだ。

 ここは。


「メイ、ガルートとエスリーを一緒にいさせるのは無理だ! 俺がエスリーと二人で行動する!」


 俺は強引にエスリーの手を引っ張って部屋を出た。


「待て!」


 ガルートの声が聞こえたが、無視だ。

 メイもエスリーを殺すのには反対な以上、ガルートもしつこく追ってはこないだろう。  

 実際、その後、ガルートは追ってこなかった。


 なんとか窮地を脱した。

 レゲナ村から出た俺たちはドラゴンのいるところに向かっていた。


「ディル様」


「なんだ?」


「あそこでわたくしのことを見捨てることもできたのではないですか?」


「まあな」


「どうして?」


 エスリーを死なせればパルメーナの信頼を失うと考え必死だっただけだが、今回のことをうまく利用しない手はない。エスリーには信頼されないといろいろやりにくくなる。


「死なせるわけにはいかないだろ。お前は俺の相談役だしな」


 そう言って笑顔でかっこよく決めた。

 

「ディル様、ありがとうございます!」


 これでエスリーの信頼は勝ち得ただろう。   

 人間の友達とケンカ別れしてまで、エスリーを守ったのだから。


 

 俺たちは炎の塔の最上階に戻った。

 

 留守中、特に問題は起きていないらしい。


 そこで暇なので、巻物の謎解きを考えることにした。


 羊皮紙の巻物にはただ、


『神の涙を捧げよ』


 と書いてあるだけだ。


 神とはなんだ?

 この巻物を手に入れるために使った鍵は魔界にしか存在しない木でできていた。

 ならば、この謎を考えたのは魔界の住人である魔族。

 つまり、この神というのは魔族にとっての神を意味するのではないか。


「なあ、エスリー?」


「はい、なんでしょう、ご主人様?」


「ご主人様?」


 呼び方が前ぶれなく変わったので少し焦る。


「はい、わたくしはディル様に命を救われましたから、ディル様はわたくしのご主人様です」


 思った以上に信頼されたらしい。

 それは置いておいて。


「聞きたいんだが、魔族にとって神とは誰だ?」


「そうですね、魔族にとって神は竜です」


「竜か、なるほど」


 それなら早速試してみるか。

 俺はモンスタージェネレータを守らせているドラゴンの目を巻物で軽く擦ってみた。

 巻物はドラゴンの涙で濡れた。 

 俺はじっと巻物を見つめた。


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