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第8話

 傷ついていたはずのドラゴンは何事もなかったかのように立ち上がる。それを見て青い騎士は叫ぶ。


「いったいどうなってやがる!? こんなミニレッドドラゴンは見たことがない!」


 ドラゴンが飛びかかった。

 騎士は押し倒される。


「ぐぬぬぬ! おのれ!」


 しばらく両者は揉み合っていたが、突然騎士の姿が消えた。

 気配も全く感じられない。

 

「ディル様」  


「エスリー」


「あいつの気配は感じるか?」


「いえ、おそらく脱出魔法で塔の外に逃げたのでしょう」


「そうか、しかしこのドラゴン、死にかけていたのになぜこんな回復をしたんだ?」


「わたくしにもそれはわかりません」


 だが、とりあえず巻物は奪われずに済んだ。

  

「あの冒険者、とても強かったですね」


「ただの冒険者とは思えない。何者かは分からないが」


 なんにせよ危機は去ったらしい。

 そのことを喜ばないといけない。

 少し落ち着いたところで俺は次の手を打った。冒険者たちを追い払うためミニレッドドラゴンを塔の中に放ったのだ。


「さて、これでそのうち冒険者たちはいなくなるだろう。さっきみたいなイレギュラーな強さのやつがいなければ、だが。それにしても暇だな」


「そうですね」


 俺としては巻物の謎も気になるが、それよりメイのことが心配だった。火傷が完全に癒えていればいいが。


「エスリー、少しここから離れたいんだが、いいかな?」


「どこに行かれるのですか?」


「それはだな、友達のところだ」


「お友達……それはひょっとして人間の?」


「そうだけど」


「それはダメです! ディル様は魔族やモンスター以外にお友達がいてはいけないんです!」


 エスリーは突然、興奮ぎみに言ってくる。


「なんでダメなんだ!? いいじゃないか、そういうパイプがあれば人間側の情報も入ってくるし」


「いえ、ダメです! 元人間のディル様は絶対人間とは縁を切るべきです!」


「ちょっと待て、俺はまだ人間だ。そしてこれからも人間だ。魔族側に与してはいるが」


「まだ人間ならなおさらです! これはディル様のために申し上げているのです! 魔王様に従うと決めた以上は、周囲に裏切りを疑わせる言動は慎んでいただかないと!」


 彼女の言うことももっともではある。

 ならば、仕方がない。


「俺がこうして今から人間に会うと宣言してる以上、裏切る気なんてさらさらないことが分かるだろ? 裏切る気ならこそこそ会ってるよ」 

 

 そう。俺は裏切る気はない。

 魔族側がちゃんとガルートを殺してくれるなら。


「なるほど、確かに筋は通っていますね。ですが……」


 まだ納得はいかないようだ。

 なら、仕方がない。

 この監視役のエスリーには信用されておかないと困る。


「なら、エスリー、お前もついてくるか? 帰ってくるまでモンスタージェネレータはさっきの強くなったドラゴンに守らせる。それでどうかな?」


「分かりました。でも、あまり長い時間ここを離れるわけにはいきませんよ。パルメーナ様から預かっている大事なダンジョンなのですから」


「分かってる」


 こうして俺とエスリーはメイたちのところへ向かうこととなった。

 おそらく今頃二人はまだレゲナ村だろう。 

 そこまでドラゴンの背に乗って行くことにした。ドラゴンの翼なら数時間で着く距離だ。


 そして、数時間後。

 レゲナ村から少し離れたところでドラゴンから降りて、徒歩で向かう俺たち。


「ディル様」


「なんだ?」


「お友達とはどういうお友達なんです?」


「一緒に魔王討伐の旅をしていた」


「え!? そんな人のところに会いにいくんですか!?」


「様子を確認したいだけだ。傷の具合がどうなったか少し心配なんだ」


「なんにせよ魔王様討伐の旅をしているような憎き人間のところに行かれるのでしたら、わたくしがついてきて正解でした」


 村に着くと、宿屋はまだ健在だったので、そこに泊まっているであろうメイたちの部屋を訪れようと思ったが、問題がひとつあった。


「エスリー、お前、ついてきたはいいが、俺と人間の友達が会うところをどうやって見張るつもりなんだ?」


 エスリーをガルートと会わせたら、ガルートは彼女が魔族だと気付きかねない。


「それならお任せを」


 そう言うとエスリーは何やら呪文を唱え始めた。

 すると一瞬にしてエスリーの姿がかき消えたのだった。

 気配も全くしなくなった。


「エスリー!? どこに行った?」


「ここにいますよ」


 声だけは聞こえた。

 

「魔力で体を覆うことで姿はもちろん匂いや気配を完全に消しました。これなら大丈夫でしょう」


 さすが魔族。器用なものだ。


「じゃあ、行くか」



 トントン。

 俺はメイたちが泊まっているであろう部屋の扉をノックした。


「どうぞ」


 聞きなれた男の声だ。


「俺だ、ディルだ」


「ディル!?」


 戸が開き、ガルートが出迎えてくれる。


「戻ってきたのか!?」


「ああ、とりあえずメイの様子が気がかりだったんでな」


「とにかく入れ」 


「ああ。それでメイの様子はどうだ?」


 そう言いながら部屋に入り、戸をゆっくりと閉める。エスリーがちゃんと部屋の中に入るためだ。


「見てのとおり、今休んでる」


 3つあるベッドのうちの一つにメイが横たわっていた。深く眠っているらしい。


「傷の具合はどうだ?」


「小さな火傷はほとんど治ったみたいだ。ただ」


「ただ?」


「この顔の火傷のあとは少し残るかもしれない……」


 そう言って彼女の顔を指差した。

 確かに顔の右側にひどい火傷を負っていた。

 完全に俺のせいだ。

 いや、もとを正せばこいつが、ガルートが悪いんだ。こいつがいなければ。

 だが、なんにせよメイの顔の傷は何とかしなければいけない。


「分かった」


 俺は立ち去ろうとした。


「結局、行ってしまうのか?」


「ああ。彼女の顔の傷がきれいになおせる方法を俺なりに探ってみるよ」


「なぜ、突然1人で行動したがるんだ? その方法だって一緒に探せばいいじゃないか」


 俺は腸が煮えくりかえる想いだった。

 お前が! お前がいるからだ!

 と叫びたかった。

 だが、そういうわけにもいかない。


「とにかく俺はいったんパーティーを抜けさせてもらう。もう決めたんだ。理由は聞くな」


「そうか。分かった。ただ」


「ただ?」


 ガルートが突如として鋭い視線を向けてくる。


「お前を行かせる前に、この部屋にいる魔族をなんとかしないと」

 


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