第7話
俺は宝箱の鍵穴に鍵を突っ込んだ。
すると、宝箱がまばゆい光を放つ。
「やっぱりこれか!」
「な、なんですか!?」
側にいたエスリーが驚く。
そして、宝箱を開けてみる。
すると。
「これが宝?」
先程までは何も入っていなかったそこには羊皮紙でできた巻物が入っていた。
「ディル様、すごい! 謎が解けたんですね!」
巻物を開けてみると。
「なんだこれは?」
そこにはこう書かれていた。
『神の涙を捧げよ』
「また謎解きか……。神の涙ってなにか分かるか?」
「いえ、分かりません」
その時、唐突に部屋の扉が開く。
「話は聞かせてもらったぞ」
そう言って現れたのは、青い甲冑に身を包んだ騎士だ。
謎解きに気を取られ、全く気配に気づかなかった。
なにか嫌な予感がする。
「その巻物がこの塔の隠された宝らしいな。よこせ。さもないと殺す」
解き放たれた殺気に俺は鳥肌が立った。
こいつ、おそらく俺より強い。
だが、おいそれとこれを渡す気はない。
俺はモンスタージェネレータを使うことにした。
ミニレッドドラゴンを2匹呼び出す。
「いけっ!」
俺の指示でドラゴンたちが青い騎士に襲いかかった。
だが。
騎士の目にも止まらないほど速いひと薙ぎで、ドラゴンたちはあっけなく倒れる。
レベル50のモンスターをこんな簡単に倒すとしたら、おそらくレベル80以上はある。レベル40そこそこの俺ではまるで勝ち目がない。
「ディル様、わたくしにお任せください」
そこでエスリーが前に出る。
「エスリー、そいつは強い。やめておけ!」
「いえ、お任せください」
「なんだ、今度はお嬢さんが相手をしてくれるのかい? やめておけ」
エスリーの右手が輝いた。
「はっ!」
右手から閃光が放たれる。
騎士はそれを剣で受け止めるが、じりじりと押され壁に背をぶつける。
「なんだ、お嬢さん。見かけによらず強いじゃないか」
そこで俺は剣に光を纏わせる。
やつが動けない今なら光の剣は有効なはずだ。
「たぁーっ!」
身動きのとれない騎士に俺の光の剣が迫る。
しかし。
青い騎士の力ずくの一撃がエスリーの放つ閃光を弾き返した。
「きゃっ!」
「エスリー!」
跳ね返された攻撃を受け、エスリーが後方に飛ばされる。
「お嬢さんの心配より自分の心配をしたらどうだ?」
振り返った俺の隙をついて騎士の剣が俺の喉元に突きつけられる。
「ほら、宝を差し出せ。そうすりゃ命は助かる」
苦労して手に入れた宝をこんなやつに渡すなんて! こんなやつに! くそったれ!
その時だった。
「ぐわあ!」
目の前の騎士が突然横に吹き飛んだ。
俺がジェネレータから出したドラゴンの片方が再び起き上がっている。どうやら騎士は尻尾でなぐりつけられたらしい。
「ドラゴン、まだ生きてやがったのか? ん?」
騎士はそこで異変に気づいたらしい。
そう、ミニレッドドラゴンが全身から黒いオーラを放っていた。
「くそ、邪魔するんじゃねえぜ!」
騎士はドラゴンに襲いかかる。
だが、鋭い斬撃を素早く身かわすと、ドラゴンは足で騎士を蹴りあげた。
背中から床に落下した騎士に間髪を入れず、竜は炎を吐き出した。
「ぐわあああああ!」
さらに尻尾を巻きつけて、何度も何度も騎士を壁に叩きつける。
敵は激しい攻撃を受けて、ぐったりしている。
それを見届けてから、俺はエスリーのところに向かった。
「エスリー、大丈夫か?」
「大丈夫です。ディル様は?」
「俺はなんともない。あいつが助けてくれた」
ミニレッドドラゴンを指差す。
「あれは?」
「どうした、エスリー?」
「ドラゴンの力が引き出されています」
「力が引き出される?」
どういうことだ?
「モンスターも人間や動物と同じく本来持っている力が普段は発揮できないようになっています。力を発揮したら体に負担がかかってしまうので。その力は自分の意思で解放することは通常できません。何かの拍子に解放されたのでしょう。そのきっかけが何かは分かりませんが」
「なんにしても、そのおかげで助かった」
突然、ドラゴンは倒れた。
「どうしたんだ?」
「おそらく限界を超えて力を解放して戦ったので体がもたなかったのでしょう」
「そうか」
俺は疲れはてたドラゴンの元に行き、頭を撫でてやった。すると、ドラゴンも頭を刷り寄せてくる。もう長くはなさそうだ。
「ディル様!」
「何してやがる? まだ勝負はついていないぞ」
首に冷たい剣の感触が走る。
騎士がまだ戦う力を残していたらしい。
しかし、どうも腑に落ちない。
隠された宝とはいえ、こんな巻物に大きな値打ちがある保証はどこにもない。
それなら塔のあちらこちらにまだ残っている他の財宝の方がはるかに価値がある可能性が高い。それを戦ってまで得たいとするのなら、それは……。
「お前は何者だ?」
やつは俺の問いに答えず、首にあてがった剣を滑らせる。血が首から垂れる。それは雫となってドラゴンの上に落ちた。
「早く渡せ」
巻物を渡そうとした時。
弱りきっていたはずのドラゴンが再び立ち上がった。
「なに!? もう戦う力なんて残っていないはずだ!」