第6話
「共鳴だって!?」
「はい!」
モンスタージェネレータの輝きが増していく。眩しくて目を閉じる。その間にも体の力が吸われるような感覚はひどくなる。やがて瞼ごしに光が弱っていくのが分かり、俺はゆっくりと目を開く。すると、手の中のモンスタージェネレータが少し大きくなったように感じた。
「これは?」
「ジェネレータが変化したようです!」
エスリーがそう答える。
「ジェネレータが変化? そんなことよく起こることなのか?」
「いえ、こんなことこれまで見たことがありません」
彼女はひどく驚いた様子だ。
それにしても疲れた。
体が重い。
「変化したってどう変わったんだ?」
「分かりません。ただ、ジェネレータから溢れる力が増しています」
「じゃあ試しにモンスターを生み出させてみるか」
そう思って俺は指先でジェネレータを軽くつついてみた。
すると、ジェネレータからどす黒い泥のようなものが滝のように溢れだした。
それは地面に落ちると巨大な塊になって、5メートルくらいの高さのドーム状に盛り上がった。
そこから腕のようなものが突き出た。
続いて足も。共に赤い鱗に覆われていた。
そして、塊が弾けた。
現れたのは体長5メートルくらいの小型の赤いドラゴンだ。
「ドラゴン!? さっきと違うぞ!?」
「ミニレッドドラゴン!? そんな! どうして!? ディル様、もう一度! もう一度お願いします!」
慌てふためくエスリー。
彼女に促されて、それから俺は2回ジェネレータからモンスターを出現させた。
結果は同じでともにミニレッドドラゴンがジェネレータから現れたのだ。
「ジェネレータが変化したことで現れるモンスターも変化したってことか」
「そう信じるしかありませんね」
「ミニレッドドラゴンってレベルでいうとどれくらいなんだ?」
「レベル50くらいでしょうか」
「つまりジェネレータが進化したと」
「はい、信じられませんが、おそらくディル様がこのジェネレータを進化させたのだと思います」
「俺が……?」
自分でそんなことをやってのけたという実感はまるでなかったが、とりあえずこれで冒険者たちを追い払えそうだと思うと気は楽になった。
とりあえず最上階へ行こうと俺は考えた。下から塔を登っていくより、空を飛んでいくほうがずっと楽だ。
俺とエスリーはミニレッドドラゴンの背に乗って、最上階へと向かった。
30階の高さにもかかわらず、あっという間に到着した。
俺たちは窓から内部へと入った。
中はだだっ広い空間になっている。
「最上階に来ましたけど、どうされるおつもりなのですか?」
「この最上階の最奥部から、ミニレッドドラゴンを大量に送り込めば効率よく冒険者たちを放り出せる」
「なるほど、ディル様、賢いですね」
「ところでちょっと聞きたいんだが、モンスタージェネレータというのは魔王様しか作らないの?」
「はい、魔王様以外は作ることは許されていません。ですから魔王様はお一人でジェネレータを作られていて、大変お忙しいのです。それで具体的な作戦指揮はパルメーナ様が行っています」
魔王はジェネレータ作りのために忙しく、魔王軍は実質娘のパルメーナが仕切っているわけか。
「なんで、ジェネレータを作ることが許されていないんだ? みんなで手分けして作った方がいいような気もするんだが」
「詳しいことは分かりませんが、ジェネレータから出てくるモンスターは、ジェネレータを作った方を真の主と認識するそうですから、それが理由なのだと思っています」
「もし魔王様になにかあったらジェネレータはどうなる?」
「消えてしまうそうです」
モンスタージェネレータを作ることこそ魔王の役目ということか。そう考えると思ったより地味だな。
「ディル様?」
「なんだ?」
「ディル様はこれまで勇者をされていらっしゃると聞きました。ですが、モンスタージェネレータを進化させてしまうなんて凄いことをしてしまったり……。何者なんですか?」
「何者なのかと聞かれても、勇者のくせに仲間の格闘家への妬みから魔族側に寝返ったクズとしか言えないよ」
「クズなんかじゃありません! 憎むべき勇者だったのにこちら側に来てくださった立派な方です! わたくしはディル様を尊敬申し上げます!」
どういうわけか必死で俺をフォローしてくれるエスリー。
健気で可愛らしく見えてくる。
いやしかし、どこをどう考えても自分のやってることが立派とは思えないよ。勇者適性E……。こんな性格じゃそりゃ根本的に向いてないよな。それにひきかえ、どうも魔族連中には気に入られるのだからやはり魔王のほうが向いているのだろうか。魔王適性Sは伊達じゃないってか?
「とりあえず奥に進もう」
「はい」
しかし、パルメーナが考えていることもよく分からない。俺にここをもう一度取り戻させて守らせる理由があるんだろうか。
ここの最奥部には古びた木製の鍵があった。
今、それは俺が持っている。
これは隠された宝の鍵らしいのだが。
どこにも鍵穴が見当たらなかったのだ。
「それはなんですか?」
「ここを以前攻略したときに手に入れた鍵なんだ。だけど、何の鍵なのか分からなくてな。この鍵を手に入れた宝箱の中に、『この鍵はこの塔に隠された宝の鍵である』って書いてあったんだけど最後まで分からなくてね」
「その鍵、かなり強い独特の匂いがします。この匂いは確か……」
とエスリーが鼻をひくひくさせている。
「匂い? なんも匂わないけどな」
俺は鼻を近づけて嗅いでみたがやはり匂いなんてしなかった。
「これは魔族にしか分からない匂いです。これは魔界にしか生えない竜鱗の木でできています。その木の匂いです。竜鱗の木はとてもとても硬いんですよ」
「竜鱗の木? 魔族なら誰でも判別がつくと?」
「はい、おそらく」
ということは匂いでパルメーナもこの鍵を俺が持っていることを気づいていたのか。可能性はある。だとすると、俺にここを守らせるのは……?
「どうされたんですか?」
「鍵を持った俺をここに留まらせることになにか意味があるんだろうか」
「ん?」
考えすぎかな。
そんなことをしているうちに、最奥部の部屋に到着した。
そこは宝箱一つ以外は何もない小部屋であった。
そして、唯一ある宝箱の中にこの鍵が入っていたのだ。
だがこの塔のどこにも鍵穴は存在しなかった。
まあ、この宝箱自体には鍵穴があったが、塔で見つけた他の鍵で開けることができたわけだし、この鍵が箱の中に入っていたのだから、結局この鍵には出番はなかったのだ。
箱の中をもう一度よく調べてみるものの何もない。ただ、『この鍵はこの塔に隠された宝の鍵である』という文字が刻まれているだけだ。
俺は宝箱を閉めてしばし考えていた。
その時、ふと閃いた。
ひょっとして、この鍵の使い方は……!