第4話
一瞬のことだった。メイが炎に包まれた。
ガルートがすぐに炎の中に飛び込んだ。
そして、火だるまになったメイを抱えて飛び出してくる。
そんな……!
そんなことって……!
俺の、俺のせいでメイが!
「メイ!」
俺は慌ててドラゴンのほうに駆け寄った。
ガルートが脱いだ胴着で火を消そうと必死になっている。
俺はその間、スカーレットドラゴンの気を引いていた。俺には攻撃してこない。
「ガルート! メイは大丈夫なのか!?」
「生きてる! それより援護する」
ガルートは戦闘に復帰した。
スカーレットドラゴンは俺がいるせいで戦いにくそうにしていた。そのわずかな隙をガルートは突いたのだった。
「食らえ!」
飛びかかったガルートの拳がドラゴンの首深くめりこんだ。端から見ているだけで分かった。必殺の一撃だ。
バランスを崩してたおれこむ竜にさらなるガルートの追撃。
今度は腹のあたりにまたしても必殺の一撃が食い込んだ。
ドラゴンの悲鳴が響き渡る。
やがてそれも聴こえなくなった。
ガルートの体全体が青白く光る。
レベルアップだ。
しかも何度も。
それよりもメイが心配だ。
俺はメイのもとに向かった。
「メイ! 大丈夫か!?」
彼女は息をしていたが、全身に火傷を負っていた。身に付けていた白いローブには魔力が込められていて、炎や吹雪のダメージを軽減する効果がある。そのおかげで命までは落とさなかったようだ。それでも意識はなかった。
ガルートが近づいてくる。
レベルアップ回復のおかげで傷ひとつない。
「メイ……俺のせいで……」
ガルートは自分を責めていた。
だが、俺にはガルートを責められるわけもなかった。
とはいえ、腹立たしかった。
傷を負ったのはメイでガルートはぴんぴんしている。
こいつが悪いわけではないのだが、なんとも憤りを感じてしまう。
自分が悪いのは分かっているのに。
しかも、ガルートはスカーレットドラゴンを退けた。俺のせいでドラゴンが戦いにくかったということもあるのだろうが、レベル約30の差をスキルで埋めてしまったことになる。なんてやつだ。
とにかくメイには治療が必要だ。
宿屋には魔法のベッドがあるので、休めば軽い傷などは直ってしまうが今回の火傷はどうだろうか。彼女の美しい容姿に傷痕が残ってしまったらと考えると罪悪感と怒りが半端ではなかった。
しかし、俺は今や魔王に従属している。自由はない。彼女をとりあえずガルートに任せるしかない。
「俺がもたもたしていたせいで、メイをこんな目に遇わせてしまった。俺の責任だ」
すると、ガルートも。
「いや、彼女は俺の身代わりになってこんなことに……。俺のせいで……!」
ここでどちらの責任だと言い合ってもあまり意味はない。
近くにパルメーナがいるはずだ。
俺はここに長居できない。
「ガルート、お前は彼女を宿屋に連れていってくれないか?」
「ディル、お前はどうするんだ?」
「俺は今日ここでパーティーを一旦抜ける」
「は? どういうことだ? 今回のことに責任を感じているんだったらそれは俺が」
「いや、それとは別だ。そんなことよりメイを早く連れていってくれ。完全に抜けるわけじゃないんだ。じゃあな」
「ディル!」
ガルートの呼び掛けに応じず、俺は彼を残して去った。
ガルートたちと別れた俺がしばらくそのあたりをうろついていると。
「あの格闘家、強いではないか」
突如、パルメーナが姿を現した。
「しかし、スカーレットドラゴンを倒すとはな。その上、あの様子ではまたレベルが20ほど上がったようだ。なかなかやっかいな奴だ」
俺が黙っていると。
「なんだ、落ち込んでいるのか? あの女のことか?」
「はい」
「生きてはいるのだろう? 傷もそこまでの深手ではなさそうだったが」
「俺がガルートにスカーレットドラゴンをけしかけるようなことをしていなければ!」
「そんなことで自分を責めていては、これから魔王軍の兵士としては戦えぬぞ? お前のせいではない。あの女が自分で身を挺してあの男を守ったことがいけないのだから」
パルメーナ、やっぱり根はいいやつだな。
魔王の娘とは思えない。
「それで俺はどうすればよいのですか? 魔王軍の兵士として何をすれば?」
「お前にはとあるダンジョンを仕切ってもらいたい」
「それってダンジョンのボスをやれと?」
「そのとおり。そこに訪れる冒険者のレベルは30前後。お前ならなんとかなるだろう。モンスタージェネレータが生み出すモンスターのレベルもだいたいそれくらいになっている」
俺がダンジョンのボスか。レベル30くらいの冒険者が相手なら経験値稼ぎにはいいかもしれない……ってそれは俺が人を殺すということか。
魔王に従属したということは人を殺すのは当たり前か。
俺は勇者だ。いくらメイに好かれたいという不純な動機でこれまでやってきたとはいえ、腐っても勇者だ。
その俺が人殺しになるなんて。
憎いガルートすら自分では殺せないのに。
考えなしに魔王の部下になったのが間違いだったのかもしれない。
しかし、今さらやっぱり魔王軍を抜けたいなど認められるはずもない。
どうする!?