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第17話

　パルメーナの放った突きが俺の肩を貫いた。

「なに！？」

　俺がガルートをかばったことに驚いた様子のパルメーナ。

「お、お前、どういうつもりだ！？」

　俺は肩の痛みに顔をしかめつつ、

「こいつはやっぱり俺が自分の手で倒したい。今はこいつを見逃してやってくれませんか？」

　とガルートの命乞いをした。

　何をやっているんだ俺は。

　だが、そうせずにはいられなかった。

　こいつにこんなに簡単に死なれてたまるか。

「お前、何を言ってるんだ！？　そこをどけ！　そんな勝手が許されると思っているのか！？」

　パルメーナは怒りの形相で俺を睨みつけてくる。

　当然といえば当然だ。だが。

「これだけは譲れません！　どうかここはお見逃しください！」

　俺は全力で食い下がった。

「いい加減にしろ！　ガルートごとお前も刺し貫くぞ！」

　俺とパルメーナの視線がぶつかり合う。

　だが、ここだけは退けない。

　いくら、相手が圧倒的強者であろうとも。

「ふん、無駄に決意が固いようだな」

　パルメーナが先に視線をそらすと、剣を納めた。

「ディル。今回はその決意に免じてお前の申し入れを聞いてやろう。その代わり、この代償は高くつくぞ」

　そして、ガルートに一瞥くれてやると、

「ガルートとやら。ディルのおかげで命拾いしたな」

　そう言って背を向けた。

　パルメーナは自身と俺に浮遊魔法をかけた。

　俺とパルメーナは重傷のガルートを残して立ち去った。

　空を飛んでいる間、パルメーナは無言だった。

　そのまま、炎の塔まで帰るのかと思っていたら、途中にあった洞窟の入り口に俺たちは降り立った。

　これからパルメーナにさぞかし怒られるのだろうと覚悟した。だが、彼女の様子がどうもおかしい。洞窟の壁に手をついて体を預けている。息が荒い。かなり辛そうだ。

「どうしたんですか、パルメーナ様？」

　俺が訊ねるとこちらに手のひらを見せて、

「なんでも、ない。大丈夫だ。少し、休めば、よくなる」

　と息も絶え絶えに答えた。

　全く大丈夫そうには見えない。

「あえて、心配を、かけないために言うが、これの、せいだ」　

　そう言いながらパルメーナは腰に提げた剣を指差した。

「これは、持ち主の能力を、限界を超えて、高める、魔剣。だが、その代わり、体への負担も、激しいのだ」

　なるほど、この武器のおかげでガルートをあそこまで圧倒できたのか。ガルートを助けてよかった。こんな剣でガルートが殺されるなど我慢できない。

「これを、使わせるとは、あの男、なかなかやるな」

　突然、態勢を崩して倒れかけるパルメーナを慌てて支える。

「大丈夫ですか？」

　パルメーナから返答がない。

　どうやら気絶したらしい。

　俺はパルメーナを地面に寝かせた。

　こうして無防備に眠っている姿を見ると、とても魔王軍の大幹部には見えないほどあどけない少女だ。

　なにやら寝言を言っているのが聞こえてきた。

「父上、おゆるしください、父上……」

　彼女の閉じた瞼から涙が頬をつたって流れた。

　しばらく経つと、パルメーナは意識を取り戻した。

「私は……気を失っていた……のか」

「はい」

　彼女は上体を起こす。

「どれくらい眠っていた？」

「小一時間といったくらいです」

「そうか。ところで肩の傷は大丈夫か？」

「はい、自分で回復魔法をかけたので」　

　彼女はクスリと笑う。

「少しヒヤッとしたぞ。いきなり私とガルートの間に飛び出してきたのだからな」　

「申し訳ありません」

「謝って済む問題ではない。この代償は高くつくと言ったはず」

　彼女の緋色の瞳は妖しく輝いている。

「代償として、俺はどうすればいいのでしょうか？」

「お前は父上にその命を捧げたな」

「はい」

「だが、今日この時より、私に従ってもらう。父上にではなく、私に忠誠を誓うのだ」

「……パルメーナ様に？」

　それって……。　

「私に忠誠を誓わねばあの男を殺す。お前は私に従うしかないだろう」

　確かに。ガルートの命を取られないためなら、パルメーナに従うしかないだろう。

　だが、魔王でなくパルメーナに従えとわざわざ言うということは恐らく彼女は。

「分かりました」

「では、お前にだけは話そう。これから話すことは他言無用だ。私は父上に反逆するつもりだ」

　やはりそうか。

「それはお父上を倒して、自ら魔王になるということですか？」

「そのとおりだ。それに際してお前にも協力してもらう。分かったな」

「……はい。分かりました」

　これは俺にとって間違いなく好都合な話だ。パルメーナに魔王を裏切らせてこちらの味方になるようにしたいと考えていた。それが向こうから魔王を裏切るから味方になれと言ってきた。

「エスリーはどうするのですか？」

「あれは長年私に仕えてきた。私についてくるだろう」

　エスリーはすでに俺の部下だ。

　パルメーナはそうとは知らず、エスリーが自分についてくると信じている。哀れなやつだ。

「そうですか。しかし、どうして魔王様に反逆しようとお考えになったのですか？」

　パルメーナは険しい表情をした。　

「それはお前が知らなくても良いことだ」

　まあ、動機など知らなくても、魔王とパルメーナの対立をうまく利用してダークシールドの秘技を盗み出せばいい。そのチャンスはきっとあるはずだ。

　こうして、俺は魔王の部下ではなく、パルメーナの部下となった。

　無論、俺の本当の狙いは自分が魔王となること、それによってガルートを自分の手で討ち果たすことだ。

　炎の塔に戻り、パルメーナは去った。

　俺はエスリーに早速話をした。

　エスリーはひどく驚いた様子だった。

「パルメーナ様が本当に魔王様に反逆するおつもりだとは驚きました」

「俺にはありがたい。ただ、はっきりしないのはパルメーナは魔王に反逆して何をしたいかだ。そのままおとなしくしていたら魔王の座が転がり込んでくるのに、一体どういうつもりなのか」

「確かにそれはよく分かりませんね。わたくしも考えが合わないというようなことしか聞いていませんし」

「そのうち魔王になれるのに、今の魔王にわざわざ反逆するということは何か時間に追われているのかもしれないな」

「なるほど！　さすがですね、ご主人様は」

「パルメーナはひょっとして……！」

　俺の中に１つの考えが浮かんだ。