第16話
「そうだ、私がガルートとやらを倒す」
パルメーナの赤い瞳が強い輝きを放っている。表情から底知れぬ自信がうかがえた。
俺とパルメーナはエスリーを炎の塔に残しレゲナ村までやってきた。
だが、すでにガルートたちは出立したあとだった。
「数日前まではここに滞在していたので、そう遠くには行ってないと思うのですが」
「そうか。では索敵スキルで探そう。それほど広範囲でなければひっかかるはずだ」
「索敵スキル? パルメーナ様はそんなスキルをお持ちなのですか?」
「まあな」
すると、彼女は静かに目を閉じて、集中し始めた。
そして、はっと目を開く。
「見つけた。この付近でレベルが100を超えているのはガルートに違いない。こっちだ」
俺はパルメーナとともに空の彼方に飛んだ。
まもなく、パルメーナはガルートを視認したようだ。
「あそこにいる。あの平原のあたりに」
彼女は指を差すが、俺には全く分からなかった。
「メイもいるのですか?」
「少し離れたところにいるみたいだ。都合がいいな」
パルメーナは両手を向かい合わせるとその間に力をためはじめる。光輝く赤い球が作り出される。
「まさか、この距離から攻撃を!?」
俺が訊ねると、パルメーナは笑顔を浮かべる。
「ああ、先手必勝というだろ?」
彼女は頭上にできた赤い光球を放つ。
そして、それを追いかけるように俺たちは急降下した。
やがて、赤い球の行き先に、黒い動く点が視認できた。それが人影であることもすぐに分かった。そして、それがガルートであることも。
ガルートの背後をパルメーナが放った赤い光彈が襲う。
着弾する、直前。
ガルートは攻撃に気づいて飛び退いた。
地面にぶつかった紅の球は炎となって、広範囲に燃え広がり、ガルートを逃がさない。
炎にのまれたガルートに追い打ちをかけるように、パルメーナは手のひらから小さな黒い球を無数に打ち込む。
爆風で土煙が起こり、パルメーナは攻撃を中断する。
だが、土煙の中からガルートが飛び出してくると、パルメーナめがけて飛び蹴りを放った。すんでのところでかわす。
見たところガルートはほとんど無傷のようだ。
「やるではないか」
「お前は何者だ?」
パルメーナが嬉しそうに褒めると、ガルートが問い返す。
そこであいつはパルメーナとともに宙を浮いている俺に気づく。
「ディル!?」
俺を鋭く睨みつけるガルート。
そこでパルメーナが名乗りをあげる。
「私はパルメーナ。魔王軍副指令だ。お前を殺しにきた」
「魔王軍副指令だと!?」
魔王軍の大幹部が直々にやってきたことを知って、ガルートもさすがに驚きの色を隠せない。
「ディル、そんなやつと一緒にいるということは、お前魔族に与したのか!?」
俺を見るやつの目が怒りで燃え上がるのが分かった。
だが、俺は何も言わなかった。
「そんなことを気にしてる場合じゃないぞ、ガルートとやら。自分の心配をしたらどうだ?」
パルメーナは言いながらさらに赤い光の球を高速で投げつける。
ガルートはそれを素早く身かわす。
「魔王軍のナンバー2が来てくれたと言うのなら都合がいい。ここでけりをつけてやる!」
ガルートが猛獣のような勢いでパルメーナにとびかかる。
空中で数発のパンチを繰り出す。
パルメーナは目の前に障壁を作り防ぐ。
だが。
パリーンッ!
ガルートの拳が障壁を打ち貫く。
「なに!?」
ガルートの一撃がパルメーナに直撃した。
間違いない。必殺の一撃が炸裂したのだ。
「うわああ!」
パルメーナは地面に墜落し、激突する。
さらに地上を転がってようやく止まった。
パルメーナが俺にかけていた浮遊魔法が切れたのか、俺も地面に落下した。それほど高い位置を飛んでいなかったので、なんとか着地する。
まさかパルメーナがこれで敗れたということはないだろうな。
だが、そんな心配は無用だった。
パルメーナは何事もなかったかのようにすっと立ち上がった。
その表情は明らかに楽しんでいる。
「ハハハハハハ、強いなお前。人間にしておくのが惜しいほどだ。だが」
そこでぞっとするような恐ろしい目つきでガルートを凝視する。
「私に一撃を食らわせたこと、後悔することになるぞ」
そう言うと、パルメーナは腰に提げた剣を抜いた。なにやら刀身が黒光りした不気味な剣だ。
「私にこれを抜かせるとは」
一瞬でパルメーナの姿が消えたかと思うと、ガルートの目の前に移動していた。
そして、見るとガルートは腕を差し貫かれていた。
とっさに腕で防いだのだろう。
そうでなければ、急所を突かれて終わっているところだ。
だが、パルメーナの攻撃は始まったばかりだ。
目にも止まらない突きがガルートを襲う。
無数の突きが空気を切る音が鋭く俺の耳を震わせた。
腕は何度も貫かれ、血まみれになっていた。
「くっ!」
「どうした? もう終わりなのか?」
パルメーナの圧倒的な猛攻の前にあのガルートがなす術がなかった。
腕はもう使い物にならない。
ガルートは膝をついた。
俺はなんとも複雑な気分でそれを眺めていた。
こんなにあっけないものなのか。
もはや傷だらけのガルートには逃げる力も残ってはいないだろう。
終わる。
やつの命が。
そう思うと俺はたまらずに飛び出していた。
パルメーナがガルートにとどめの一撃を加える。
その瞬間に。
俺は二人の間に割って入った。




