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第10話

 巻物をドラゴンの涙で濡らしてみたが、何も起きない。

 どのドラゴンの涙でもいいというわけではないということか。

 

「ダメでしたか」


 エスリーが巻物を覗きこんでくる。


「ああ、これじゃダメみたいだ。ところで、魔界の神はなぜ竜なんだ?」


「それは魔族に伝わる神話が元になっています。原初、人と魔族は同一の存在でした。それを竜の神、始祖竜の加護を与えられたのが魔族です。おかげで人より高い魔力を得るようになりました。そして、魔王様が始祖竜の子孫なのです。ですから、魔族にとって竜は神なのです」


「始祖竜の子孫が魔王様か、なるほど。じゃあ、神の涙というのは始祖竜の涙のことなんだろうか?」


「そうですね。ただ始祖竜は今はどこにいるか分かりませんので、始祖竜の涙そのものを手に入れるのはとてつもなく難しいのではないかと。伝説上の存在ですし」


「それじゃあ、謎は解けないな。始祖竜の涙そのものではないんだろうな」


「なるほど」


 そこでふと俺は気づいた。

 今のままじゃまずいのではないか。

 つまり、ここには今ミニレッドドラゴンがうようよしている。

 だが、本来パルメーナからもらったモンスタージェネレータはファイアーリザードを生み出すもの。どうやってそれがミニレッドドラゴンになったかの説明が求められる。

 エスリー曰く、俺とモンスタージェネレータがどういうわけか共鳴し、モンスタージェネレータが進化したということだ。

 だが、これは前例がないことらしいし、そもそもモンスタージェネレータを作るのは魔王の特権。それを勝手に進化させたとなれば俺は魔王の特権をおかしたことになるのではないか。

 だから、ここにいるミニレッドドラゴンはパルメーナが次に来るまでにファイアーリザードにしなくてはいけない。

 どうすればいい?


「少し聞くけど、ファイアーリザードの生息地ってこの近くにある?」


「この近くですと、北のデルビア火山でしょうか」


「ここにファイアーリザードじゃなくミニレッドドラゴンがうようよしているのはまずいよな? パルメーナになんて説明するんだ?」


「……確かにまずいですね」


「デルビア火山にあるファイアーリザードのモンスタージェネレータを回収できないか?」


「うーん、でも勝手にモンスタージェネレータを持ち出すのもまずいかと……」


「デルビア火山って広いだろ? モンスタージェネレータがたくさんあれば、一つくらいバレないんじゃないか?」


「それは……そうかもしれませんが、でもそれは泥棒では?」


 魔族のくせに泥棒はダメだというのか?

 どうも、エスリーは曲がったことが嫌いらしい。


「魔族だろ? 泥棒くらい気にするな」


「そういうわけには行きません! 魔族だから悪ではないです!」


 変に真面目だからほんと困る。


「じゃあどう言い訳するんだよ? まさか、ありのまま言ってしまうのか?」


「それは……。わたくしとしてはパルメーナ様に事実をお話したくはないと思っています。ご主人様のお立場が危うくなる可能性が高いので」


「なら、他からモンスタージェネレータを頂戴してくるしかないじゃないか」 


「分かりました」

 

 エスリーはしぶしぶ納得したらしい。

 


 俺とエスリーはドラゴンの背に乗り、今度は北にあるデルビア火山に向かった。

 


 そこはマグマが煮えたぎる洞窟だ。


「ここは暑いな、さすがに」


「ですね」


「ところでモンスタージェネレータはどのあたりにあるとか検討がつくのか?」


「はい、お任せください。魔力の集中具合を感知すれば分かります」


 なんだかんだエスリーは優秀だ。


「こっちです。ただ、なんのモンスタージェネレータかは分かりませんが。とりあえず行ってみましょう」


 やがて進んでいくとフレイムスライムの群れと遭遇した。こいつらもレベルは30くらいだ。俺とエスリーはなんなく切り抜けられた。


「どうやらこの奥にあるのはフレイムスライムのモンスタージェネレータのようです。他を探しましょう」


 この調子でしらみ潰しか。

 これはかなり大変な作業になりそうだ。

 

「なあ、ファイアーリザードをおびきだす方法とかないのか? トカゲだったら虫とか蜘蛛に反応するんじゃないか?」


「蜘蛛ですか、それならなんとかなるかもしれません」


 エスリーはなにやら呪文を唱え始める。

 すると、彼女の足元が光り始めた。

 そして、手のひらくらいの大きさの蜘蛛が現れる。


「蜘蛛を呼び出したのか?」


「はい、こいつにつられてやってくるかもしれません」


「じゃあここで待つか」


「はい……。それにしても暑いですね」


「仕方ない。ところでお前に訊きたいことがある」


「なんですか?」


「お前はパルメーナから俺を監視、報告するように言いつかっているんじゃないのか?」


「……はい、おっしゃるとおりです」


 やはりな。ここで重要なことは彼女が俺にそのことを素直に話したということだ。


「だが、お前は今、俺にとってまずい情報を話さずに済むように、こうして俺の手伝いをしてくれてる。なんでだ?」


「それは……わたくしはパルメーナ様よりディル様のほうをご主人様にしたいと思ったからです」


 そう言った彼女の顔は赤かった。


 その時、足元の蜘蛛がいなくなった。

 見ると、ファイアーリザードの群れが集まっていて、先頭の一匹が蜘蛛を食っていた。


「こんなに早くやってくるなんてな」


「このファイアーリザードたちの群れを遡れば、ジェネレータが手に入りますね!」


 こうして、俺たちはファイアーリザードのジェネレータを手に入れた。

 ドラゴンでフルスピードで炎の塔に向かった。


 だが。


 炎の塔の最上階でパルメーナが待ち構えていたのだった。


「お前たち、持ち場をほったらかして何をしていた!? そして、このミニレッドドラゴンはなんだ!?」




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