第1話
俺はディル。これでも勇者だ。魔王討伐のため旅をしている。
だが、俺には悩みがあった。それは……。
必殺の一撃が見事に決まり、クリスタルスライムは粉微塵に砕け散った。
俺がやったわけじゃない。
やったのは黒髪に黒い瞳、細マッチョの仲間のガルートだ。
奴は格闘家なのだが、2回に1回は必殺の一撃を繰り出せるというスキル、必殺の半撃というのを持っている。
クリスタルスライムは倒せば経験値ががっぽりのモンスターなのだが、通常魔法は効かないし、通常の攻撃も僅かなダメージしか与えられない。しかし、必殺の一撃を頻回に繰り出せるガルートにかかればイチコロである。
「やったあ! またレベル上がったぜ。疲れも吹っ飛ぶ」
さらにこいつにはレベルアップ回復というスキルもある。レベルアップすると、体力全回復の上にステータス異常まで全て回復するというものだ。
ガルートは戦い、経験値が入れば入るほど強くなり、さらに体力もどんどん回復していく。しかもだ。普通の人間より経験値が10倍入るというスキルまで持ち合わせている。
おかげで俺のレベルは42なのに、ガルートは120を越えている。
まさにガルートは最強だった。
それが俺の悩みだ。
俺は勇者なのに活躍するのはガルートばかり。
同じパーティーメンバーで俺が好きな賢者のメイフェリアもガルートのことが好きだ。
俺はメイフェリアに好かれるために勇者になろうとした。勇者の適性はなく、魔王適性Sであるにも関わらず。だが、いくら努力しても俺はガルートのせいで勇者として活躍できないでいた。
だから俺はガルートなしで手柄を立てようと決めた。
夜中、ガルートもメイフェリアも寝ているところ、俺は宿屋を抜け出した。
今いるレゲナ村の北の森に最近モンスターが出没するようになった。なんでも、巨大な竜のようなモンスターらしい。
それで村人たちは困っていたので、俺たちがモンスター退治を引き受けたわけだ。
俺は栗色の髪に青い瞳で、シルバーメイルに身を包んでいる。
さて、森の入り口までやって来た。
月明かりしかない中、俺一人でどんどん森の奥へと進んでいく。松明なんぞ使ったら目立ってしょうがないと考えた。森を燃やしてもまずいしな。
そうして歩き続けることしばし。
目の前に、巨木が現れた。
その幹に黒い宝玉が埋まっている。
モンスタージェネレータだ。
つまり、モンスターを生み出す宝玉だ。
恐らくこいつが巨大な竜のような魔物を生み出しているのだ。
これは実は簡単には破壊できない。
魔王が作っているらしいが特殊な魔力に守られている。
だが、ガルートの必殺の半撃なら破壊できてしまうのだ。
俺は剣を構えた。
俺にもできることを証明してやる。
モンスタージェネレータに斬りつける。
しかし、硬い。俺の剣は勢いよく弾かれ、手は痺れる。だが、諦めない。俺は剣に魔法を込める。刀身が光に包まれる。そのまま斬撃を繰り出し続ける。
けれど、どうあがいても破壊できないので、俺は疲れてしまった。
そのとき、モンスタージェネレータが一際まばゆく輝くと、巨大な竜が現れた。
こいつは全身黒い鱗に覆われている。間違いない。ブラックドラゴンだ。
正直俺一人では倒せるか分からないくらいの強さのモンスターだ。
ブラックドラゴンは俺の姿を確認すると炎を吐いた。
ここでその攻撃はないんじゃないか。
あっという間に周りに火が広がる。
俺は炎に包まれて身動きが取れなくなっていた。
そこにブラックドラゴンの腕が襲いかかる。
俺は後ろに吹き飛ばされて燃え盛る木に打ちつけられた。
「ぐっ……!」
これはかなり痛い。
さらにブラックドラゴンの腕が上から俺を押さえつける。
身動きがとれない。
竜は俺の目の前で口を開き、その口の奥には炎が煌めく。
こんなところで俺は終わるのか。
これでは勇ましい者ではなくて、ただの無謀なやつだ。
全てを諦めかけたその時。
ブラックドラゴンの口が閉じた。
そして。
「どうもお前を殺してはいけない気がする」
ブラックドラゴンがそう言った。
は? どういう意味だ?
「これから魔王様のところへ連れていこう」
ちょっと待ってくれ。魔王様のところへ連れていくだと。
そのまま腕で俺を掴むと、ブラックドラゴンは羽ばたいて飛んでいく。
そこで俺の意識は薄れた。