第六話
追放した日 夕方
俺たちは予定通り中央軍の拠点へ森の中を歩いてた。
予定と違うのはパーティの人数が減っていることだ。
道中、ミリアムは一人で盛り上がっていた。
「邪魔なやつが消えてよかったわね。
大体5人もいらないのよ、昔から勇者パーティは4人が相場ってね」
みんな黙って聞いている。
俺も特に止めようと思わない。
あいつが邪魔だったのは間違いないからだ。
俺はあの日から魔王を倒すために生きている。
その目的の邪魔になりそうな人間。
それは最も罪深い存在だ。
幼馴染だろうが、役に立とうが関係ない。
戦闘を早く終わらせるため?
確かラルスは最後にそんなことを言ってた。
そんな理屈は通らない。
このパーティのリーダーは俺だ。
周りの人間は俺の言うことを聞いておけばいいのだ。
俺を立てるために存在するべきなのだ。
パーティを見渡す。
ミリアは相変わらず一人で喋っている。
アルガスは先頭をノソノソと歩いている。
様子が変だったのはクレアだ。
ビクビクと周りを見回している。
昨日まではこんな風に歩いていなかった。
何を怖がっているんだ。
俺がいれば何も問題はない。
お前はいつものように安心して歩いていればいいんだ。
その時。
戦闘を歩いていた戦士アルガスに突然矢が射掛けられた。
不意に受けた攻撃にアルガスは全く反応することができなかった。
何本かの矢が体に突き立つ。
片膝をついてうめくアルガス。
矢を合図に木の陰からゴブリンがワラワラと出てきた。
10体ほどか……
おかしい。
今までこんな風に先手をとられることはなかった。
困惑がよぎるが、すぐに頭を切り替える。
戦闘はもう始まっている。
「クレア!アルガスの回復だ!ミリアムは後ろから俺を援護しろ!」
いつものように指示を出す。
以前は続いてラルスが何か口をはさむことがあった。
それは俺の邪魔になることもなかったので、否定もしなかった。
しかし気持ちのいいものではなかった。
今はラルスの声はない。
むしろ俺の思う通りに戦闘は進むはずだ。
ゴブリンなんて軽く一蹴してやろう。
「待って!後ろにもいるわ!」
クレアの声に振り返る。
見ると背後の木からも10体ほどのゴブリンが出てきた。
囲まれている。
何だこれは。
相手はゴブリンだぞ。
何でピンチになる。
軽い憤りを覚えて俺は剣を握り締める。
王からもらった聖剣。
勇者である俺が持つのにふさわしい武器。
俺は聖剣を横薙ぎに振る。
衝撃波が巻き起こり、4体のゴブリンが吹き飛んだ。
そうだ。
ゴブリンなんかに負けるわけがない。
俺は全力で聖剣を振り続ける。
またたく間に前に立ちふさがったゴブリンは全て倒れた。
後ろを睨みつける。
今にもミリアムに襲いかかろうとしていたゴブリン達。
俺の殺気に気づいて、後ずさりを始める。
ゴブリン達を威嚇するように俺は近づく。
1匹が背を向けて走り出した。
それを合図に他のゴブリンも逃げ出した。
ーーー
追放から2日目 夜
あれから魔物達の奇襲は続いた。
計5回。
その全てを俺が力任せに撃退していった。
所詮は下っ端の魔物達。
俺にかなうわけない。
しかし
俺たちは焚き火のまわりで食事をとっていた。
重い空気が漂っている。
俺はパーティのメンバーを見回す。
戦士アルガス、魔術師ミリアム、僧侶クレア。
…… なんでこいつ等は役に立たないんだ。
魔物を倒せ、とまでは言わない。
せめて俺のサポートくらいはできないのだろうか。
俺のイライラを察したのだろうか。
アルガスとミリアムは下を向いたまま目を合わせようとしない。
そのまま黙々と食事を口に運んでいた。
東軍を攻めていた時もこんな空気はたまにあった。
そんな時に口を開いていたのはラルスかクレアだ。
案の定、クレアが口を開く。
「あ、あの。やっぱりラルス君がいないからじゃ。」
こめかみがピクッとなる。
そして反射的に怒鳴りつけてやった。
「うるさい!いない奴のことを言っても仕方がないだろう。」
もっとまともな意見は言えないのか。
今しなければいけないのはそんな話じゃないだろう。
かと言って話すべきことも見つからないんだが…
ーーー
追放から5日目 夜
森の中に現れた小高い山。
そのふもとで俺たちは野営をしていた。
俺は寝っ転がりながら山を見つめていた。
見張りのアルガスを残して、他の二人も寝ているはずだ。
ここには今日の昼には着いていた。
予定ではそのまま頂上にある山砦を落とすつもりだった。
しかしそれはできなかった。
度重なる魔物の奇襲によって俺たちはボロボロだったからだ。
クレアが山砦を攻めるのは明日にしようと提案した。
俺の体力も大分削られていたので許可した。
奇襲を受けるたびに全力で戦っていたのだ。
役立たずどものせいで……
明日、出発前にもう一度分からせてやる必要があるな。
そう決意をして俺は目を閉じた。
ーーー
鈍い音がした。
夢?
近くでクレアとミリアムが体を起こす音がする。
夢ではない。
俺はかたわらに置いた聖剣に手を伸ばし、体を起こす。
眼の前に巨体が見えた。
「グハハハハハ!お前らか!間抜けな勇者達は!」
俺の二倍はあるだろうか。
見上げるほどの巨体には獅子の頭が乗っかっていた。
「何者だ!?」
「俺は中央軍の軍団長、獣王サブナックだ!」
軍団長?こいつが中央軍のボスか?
ミリアムとクレアはまだ混乱しているようだ。
アルガスはどこに行った?
「軍団長がなぜここにいる?」
「なーに、わざわざ山を登らせるのもかわいそうだと思ってな。
俺の方から降りてきたやったんだよ。」
こいつバカか。
ここで倒してしまえば中央軍は壊滅だ。
俺は聖剣を握りしめる。
サブナックはニヤリと笑う。
「フフフ。無理するなよ。連日の奇襲でお疲れなんだろ?」
クレアが倒れているアルガスに回復魔法をかけている。
すでにやられていたのか…
「お前らの位置は少し前から筒抜けだったよ。
奇襲も実に簡単だった。
それまではどこにいるか全く分からなかったのにな。」
俺は相手にせず、聖剣を振る
光の衝撃波が巻き起こる。
…… がその大きさはいつもの半分もなかった。
サブナックは衝撃波を真正面から受け止めた。
「フー。これが東軍を壊滅させたという聖剣の力か。
武人として興味があったんだが…」
ダメージはほとんど無いようだ。
「大したことはないな。
お前ら本当に東軍を落としたのか?」
サブナックの顔はあきれたようになっている。
「逃げましょう!」
クレアが叫び、俺の手を引っ張る。
気弱なクレアにしては珍しい行動だ。
「間抜けな勇者どもめ。お前らなど相手にならんわ!」
後ろでサブナックの高笑いが聞こえた。