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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
1章/とびきり不幸なラッキーガール
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6.ラッキーガール(下)

「次は、・・・・・・」


何度か声の指示を受け、狭い路地を駆け抜けた。

きっとこのときのタイムを計測したら、県内トップレベルのタイムが出ていたに違いない。

数十分くらい走った気がしたが、実際のところは数分だっただろう。

ほとんど体力を使いきり、息も絶え絶えになり、肩が大きく揺れて、足が動かなくなった頃に

笑い声と拍手が聞こえた。


「おめでとう、次がゴールよ。良かったわねぇ、左の小道に入って」


その言葉を最後にふと通話が途切れた。

さよならも何も言わなかった、・・・・・・。

助かった。その思いでいっぱいだった。


小道に入って安堵した私は、実に馬鹿だった。

疲れた足に鞭打って進んで、恐ろしい事実に気がついた。

私は、目に見えているものが幻覚では無いかと、確かめるために手で触る。

そして、絶望的な真実に気がつく。


「なによこれ、袋小路じゃないの、・・・・・・」


左右にはビルの壁、真正面には数メートルはある、塀が行く手をふさぐように立ちすくんでいる。

電灯もまったく無く、わずかな光も無い暗闇の袋小路だ。見える世界はほの暗い闇だけ。

力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

騙されたと怒る暇も無く、後ろから声が聞こえる。


「ざーんねん、追いかけっこはここまでだね。」


奴は楽しそうな声で、包丁を肩に掲げながらゆっくりと近づいてくる。


「来るな!」


震える声で必死に叫ぶが、もう立つことさえできない。


「いいよ、いいよ、その声。もう最高」


へらへらと笑いながら、さらに近づいてくる。

奴の一歩一歩が、死へのカウントダウンにしか見えなかった。。

包丁を振りかぶる奴のシルエットが見える、雲の隙間から一瞬のぞいた月光が刃に映りこみ、

私の顔に光を注ぐ。


「い、いやぁーーーーーー」


体を守るように腕を掲げ、恐怖から目をつぶり、反射的に下を向く。

これまで、15年しか生きていないのに、こんなところで死ぬなんて。

神様はなんて残酷なんだろう。

走馬灯のように、思い出が蘇る。

ごめん、父さん、母さん、千夏、姫野、みんな、・・・・・・。


「あれ?」


そんなことを考えていても、さっぱり奴は刃を振り下ろさない。

いや、もしかして、既に振り下ろしていて、既に私は死んでしまっているのか。

今の私は、幽霊みたいな何かが、体から抜け出て思考しているのか。

頭の中が真っ白になった私は、涙を流す目を恐怖に押し殺されながら、上を向いた。


目に入ってきたのは信じられない光景だった。

包丁を振り下ろした奴と私の間に、黒いマントを羽織った人影が

私を守るかのように立ちふさがり、Jキラーの大きな包丁に小さなナイフを交差させていた。


*******************************************


「グッドタイミングゥ!」


イヤホンから再び、声が聞こえ始める。

どこがグッドタイミングなのか、小一時間問い詰めたいと思ったが、

今は目の前の任務に集中しよう。


男の出刃包丁を力任せに弾く。

突然の乱入に驚いた奴は、目を丸くさせながら距離を取る。


「何だお前は、どっから現れた。」


そんなことに答えると思っているのか、素人が。

俺は両手にナイフを構え、ゆっくりと体勢を低くし、構える。

こんなド素人に、何百回やっても負けることなどないが、任務には全力を尽くす。


「貴様に教えることは無い」


「へへへ、つれねーこというなよ。」


包丁を無様に振り乱し、突進してくる。まさに素人の動き。

俺は、体を横に傾け、伸びた奴の右手の甲にナイフを突き刺す。

男の断末魔が、路地に木霊する。


「な、なにすんだ、このクソやろうが」


「ふんだ、あんたにクソやろうなんて言われたくないわよぉ」


奴の台詞を返す声が、なぜかイヤホンから聞こえる。

まあいい。

後ろには標的にされた女子生徒が、魂を抜かれたかのように座り込んでいる。

こんなところに長居してもしょうがない。


「死ね」


たじろぐ男目掛け、全力で走り出す。

何か訳のわからないことを男は口走ったが、そんなことは気にしない。

振り向き逃げようとする、男の首を後ろから一突きにした。


鮮血が勢いよく飛び散った。

糸の切れた人形のようにばたりと奴は冷たいコンクリートの上に倒れこむ。

俺はいつもどおり、返り血を浴びないように、体を交わしたが、

思いのほか飛び散った、鮮血は後ろの女にも掛かってしまったようだ。

髪の毛や制服に鮮血が飛び散る。

良く見ると、汗や土ぼこりも手足や制服に着いている。


甲高い悲鳴をあげ、俺から逃げるように袋小路の奥へ逃げる。

追い詰められた子ヤギのように、俺を見る。

やはり、・・・・・・、コイツも殺しておくべくか。


「ストーップ、ストップ。何する気よ、そんないたいけな少女にぃ」


ナイフを構え、悩むがイヤホンから、それを静止する声が聞こえる。

その一瞬の隙を突いて、彼女が俺を思いっきり突き飛ばした。


「あらあら、あなたに一撃入れるなんて、彼女やるわねぇ。才能あるわ。」


くすくす笑う声が聞こえる。何を楽しんでいるのか。

もちろん、俺はその程度で転ぶことなど無かったが、

勢いを消そうと体を反転させた拍子に、ポケットから何かが落ちた。


一瞬、俺達の目線が落ちた何かに移動する。

同時に背後から大きく撃ちあがった花火が、俺の背で煌き、彼女の瞳に映りこむ。

その隙を突いて、近づき、ナイフの柄で女の首筋を穿つ。

気絶し、重力に引かれた体を抱きとめ、ゆっくりと地面に置いた。


「任務完了、ターゲットと女子生徒の回収を頼む」


「オッケー、お疲れ様、後は任せてちょうだぁい」


相変わらずの口調で、返事をする。

落ちたハンカチを拾いポケットに入れ、俺はその場を後にした。

頭上には、花火の最後を締めくくる、大きな花火が打ち上がった。

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