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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
1章/とびきり不幸なラッキーガール
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4.ラッキーガール(上)

「あーあ、すっかり遅くなっちゃった」


二日後、例の事件のあおりを煽りをうけて、八雲高校含む市内の全高校の部活は

事件が解決するまで、休止となった。

調理実習でついた掌の傷も、ほとんど消えてて、包帯も取っていた。

暇をもてあました私は、千夏達とカラオケで歌って楽しんだ。


カラオケを出たのは8時過ぎ、これでは早く学校から帰った意味がないと三人で笑いながら、

伊達駅で千夏と別れ、姫野と一緒に電車に乗って、最寄の架城駅で一緒に降りた。


「そういえば、紗夜さん。今日からの桜花火に行きますの?」


桜花火とは、架城駅近くの北斗川の河川敷に咲く、千本桜をバックに花火を見ようという企画である。

春の肌寒い温度にも関わらず、日本で一番早い花火大会として有名であり、日本各地の花火ファンと桜ファンが集まる。

丁度、昨日から桜が満開になったということで、今日から一週間、一日15分だけだが、花火が寒空に打ちあがる。


「いかないわよ。もう何十回も見てるし、見飽きてるわよ」


「そうなの、残念ですわ。私は家族と見に行きますの」


嬉しそうに話す姫野。

家族と花火を見に行くというのに、ちょっとうらやましさを感じた。


「それでは、また明日。」


「姫野もまたね」


改札をでて、私は東口に姫野は西口に向かって分かれた。

東口は桜花火を見ようと、人が集まっていた。

駅前のロータリーには、警官が何人もたっていた。

例年はそんなにいないのに、Jキラーの影響かいつもより多く、逆に若いカップルは少なく感じる。

少なくとも、制服をきたカップルはいない。


「本当、ぶっそうな世の中になったものね。」


そうつぶやいて、歩き始めた。

桜花火初日だというのに、あいにくの曇り空で、風もほとんど無い。


歩き始めて数十分、私は変な視線に気がつく。

そんな馬鹿な、気にしすぎよ。

振り向くとサラリーマン風の男性と買い物袋を持ったおばさんがちょっと後ろを歩いているだけ。

そう、気にしすぎ、・・・・・・。


歩みを早めて、小道の角を曲がる。

私の歩く音にあわせて、もうひとつの歩く音が聞こえるような気がする。

しかし、振り向いても誰もいない。

まったく、いつから私はこんなに臆病になったのか。あきれるわ。

千代紗夜、何を怖がってるのよ。らしくも無い。


自分を奮い立たせてながら、人通りの少なくなる高架下に差し掛かる。


「うっ」


家に帰るにはこの高架下を通るのが最も近い。

遠回りすることも、もちろんできるが、10分は大回りになってしまう。

小学校の頃から、地元では「暗闇の高架下」なんて呼ばれ、暖かくなるとちらほら変質者が出る場所で地元では知られていた。

名前の通り、高架下についているはずの電灯はほとんど切れており、ほとんど明かりとして機能していない。

そこそこ長い一本道で、抜けると家のある住宅街と市の財政難で工事が中断している、再開発地区に分かれるT字路出る。


後ろをもう一度振り向くが、誰もいない。

ごくりと唾を飲み込み、頬を叩く。


「しかたない」


そう、言い聞かせ。

高架下に走りこんだ。薄暗い電灯がほのかにコンクリートを照らす。

わき目も振らず、ただただ、出口を目掛けて走る。

たった、数十メートル。


もうチョイ!

出口が近づくにつれて、安心感が増す。なんとなく子供の頃を思い出しながら、足を速める。


出た!!!


そう安堵して、高架下から駆け出ける。


「きゃ!」


「うおっっと」


出た瞬間に、何かぶつかってしまった。

何かというのは、言い方がおかしかったかもしれない。

普通に人にぶつかってしまった。

ぶつかった相手の人も驚きの声を上げ、手に持っていた

鞄を地面に落としてしまった。


私はお尻から地面に着いた。

調子に乗って、高架下を走り抜け、出たとたんに人にぶつかるなんて。

あー恥ずかしい。まるで小学生じゃない・・・・・・。

痛くて恥ずかしくて、顔が真っ赤になるのを感じながら、立ち上がる。


「すいません、急いでいたんです」


「いいよ、いいよ気にしないで」


暗がりで、男性の顔はあまり見えなかったが、マスクをかけているようだった。

この時期は花粉症の人が多いので、私は何にも思わなかった。

薄ら寒いからか、足まで隠すロングコートを着ている。


制服についたほこりを払い、男性の落とした鞄を拾おうと屈みこんだ。

鞄は投げ出された拍子にバックルが外れてしまったのだろう、中身が周囲に少し散乱してしまっている。


「いやー、今日はなんて日だ」


男性が場を和ませるような声で近づいてくる。


「本当にごめんなさい。」


そういいながら、散乱した中身を鞄に入れる。

筆箱、ノート、書類、いたって普通のサラリーマンの荷物を戻した。

その中に一際目立つ、長い棒のような柄が目に入った。

新聞紙に包まれ、乱雑に包装されている。それを取ろうと触れた瞬間、痛みが指先に走る。

同時に、爆音をかき鳴らし、空に花火が広がる。


桜花火が始まった。空をみると色とりどりの花火が雲に負けないように大きく広がっている。

しかし、残念ながら、今日はあまり風がないため、残った煙はその場に残っている。

そんなことを思いながら、再び荷物を拾おうとして気がつく。


「痛」


見ると、新聞紙の先端から中身が少し見える。

雲の隙間から漏れる淡い月の光と広がる花火の光がそれに反射し、私の顔と、後ろに立つ男性が移りこむ。

新聞紙はどす黒い赤色が滲んでいた。


振り向くと、表情の見えないおぞましい笑い声だけが暗闇に浮かんだ。

男性の両腕が鋭く、私を掴もうと伸びる。


「まさか、一日に二人をやることになるとは、なんてツイているんだ」


「かはぁ、あは」


首を両腕でがしりとつかまれ、息ができない。

酸素の足りない頭でも、わかる。こいつが、・・・・・・Jキラー!!!。

頭上で炸裂する花火の轟音が私の、声にならない声を闇の中にかき消す。


逃れようと必死に奴の両手を、手で引っ掻きつねり殴ったが、力は全然緩まない。

口から唾液が、奴の手にゆっくりと滴る。


「そんな、顔しないでくれよ。可愛い顔がだいなしだよ。八雲学園のかわいこちゃん」


「あぁぁあ、んん」


呼吸ができず、意識を失う前に、

最後の力を振り絞って、私は思いっきり蹴りを入れた。


「おっと」


予想外の反撃を食らい、男の力が緩む。

意識を失わないように、大きく声を出す。


「あーーーーー」


今しかチャンスは無い!!!

死にたくない一心で、爪を思い切りたてて、腕に突き刺す。

ネイルや爪が割れ、一瞬痛みが走り、地面に何かがぱらぱらと落ちた。

きっと、ネイルが落ちたのだろう。


「いてえ」


一瞬だけ緩んだ手を思いっきり引き離し、私は跳ねたスーパーボールのように距離を取った。

急に肺に空気が入ってむせる私を、男は余裕綽綽といった様子で眺めている。


「アンタ、何楽しそうに見てるのよ」


マスクで顔は見えないが、目元は笑っている。

落ちている鞄と刃物を拾い、こちらを見る。


「楽しいよ、君みたいな可愛い子が苦しむ姿を見ると、絶頂したいそうだよぉ」


震える声で、苦しむ私を映画でも見終わった後の感想を述べるかのように、小さく漏らす。


「この、変態野郎」


「元気がいいね、その姿勢。最後まで見せてよ。君みたいな元気な子が見せる、苦痛の顔を僕は見たいんだよ」


新聞紙から刃渡り2-30cmはある包丁を取り、マスクを下にずらす。

爬虫類のように舌を伸ばし、包丁についている血をなめ取る。

そして、私が抵抗して、痛んだ腕を犬のように嘗め回す。


「君の唾液、最高に甘いよぅ」


今までで一番の悪魔のような下卑た笑みを見せる。

人間恐怖すると足が動かなくなる。

そういわれているが、私はそうはならなかった。


「この屑野郎、地獄に落ちなさい」


私は無我夢中で男に向かって、体当たりして、すぐさま逃げるように走り出した。

一瞬体を崩した男は、ゆらりと立ち上がった。

私は恐怖よりも、怒りの感情のほうが強かったのだろう。

冷静に考えて、私は家の方、住宅街の方に逃げるべきだったのだ。

人通りも多いし、交番だってある。大声を出せば、誰かが助けてくれるだろう。

しかし、怒りで頭が沸騰していた私は、そんな判断ができなかった。

私が走り出した方向は、人通りの少ない、再開発地区。

人生を分ける判断で、あろうことか、最悪の選択をしてしまった。


「しまった」


選択のミスに気がついたのは、男が包丁を持って、追いかけてきた直後だった。

見覚えの無い路地を突き進む私は、混乱する頭を抱え、捕まったら最後の鬼ごっこに突入した。


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