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大怪獣 V ガイグ  作者: 維己起邦
8/18

堆星研究室


 東京。

 南北大学。

 堆星ついぼし研究室。

 そこにリョオたちはいた。

 「まずこれを見てください」

 堆星教授は本沢に言った。

 「蛍光けいこうX線スペクトル検査の結果です。

 先生が調査中の化石の-----

血液のようなものと細胞の」

 そういうとデーターを。

 パソコンの画面にデーターが。

 見せられても本沢も弥生も専門外。

 何が何かよくわからない。

 「通常の蛍光X線スペクトル検査では

若い原子番号の原子は

一次X線で励起れいきさせても

波長の長い光しか出て来ませんので。

 それでは外までその光が出て来ず

測定できません。

 ご存知のように蛍光X線スペクトル検査というのは。

 物質にX線を照てると

物質内の原子内の軌道を回る電子が

そのX線により励起され外側の軌道に移ります。

 その電子が元の軌道に戻る時に

原子の種類の違いによって

特有の光が出て来ます。

 その出てくる光の波長が

原子の種類によって違うため-----

それを測ることにより

原子の種類を特定しようというものですが。

 これは分子でも可能です。

 原子同士が結合している場合。

 結合している原子の違いにより

軌道に差が出て来ますので。

 照てるX線を一時X線。

 そこから出て来る光を二次X線といいます。

 この装置では照てる一次X線のエネルギーを

高エネルギーのモノにしてあります。

 つまり一次X線の波長を短くしてある-----という事です。

 そうすると若い原子番号の原子であっても

さらに高い準位じゅんいに励起されるため

そこから出て来る二次放射も

X線レベルのモノが放射されますので

充分外まで出て来れます。

 もちろん原子番号の大きな

原子から出て来るX線も

波長は短くなります。

 というか短いモノも出て来ます。

 それで。

 画面のグラフのこの位置が水素。

 ここが炭素、窒素、酸素です」堆星。

 空口がカメラでそれを。

 「先生。これは」弥生。

 「どういう事だね。

 何もない」本沢。

 堆星が指したグラフのその箇所には

当然あってしかるべきピークがなかった。

 生物の身体を構成するアミノ酸が

水素、炭素、酸素、窒素で構成されている以上。

 一次X線を照てれば

当然そこからは水素等に該当する波長の

二次X線が出てくるはずなのに

それが観測されないのだ。

 アミノ酸分子特有の二次X線も

出て来てはいない。

 「生物の身体は通常

水素、炭素、酸素、窒素が主成分でできている。

 それがないとは。

 何かの間違いでは。

 確かあの恐竜の化石から

御口君が細胞を採って渡したはずなのに」

 本沢はリョオを。

 「はい。確かに受け取りました。

 間違いありません。

 何度実験してもこのように」

 数枚のデーターを。

 皆同じだ。

 「何人かの他の先生方にも

追試していただいたのですが。

 それもこのように」

 「なるほど」本沢。

 しかしデーター上には

水素や酸素、窒素、炭素がほとんどない。

 「という事は

あの恐竜の化石も

他の化石と同じで

完全に化石化しているという事かね。

 しかしあの恐竜は

化石化しているようには。

 シベリアのマンモスのようなモノを

期待していたんだが。

 しかしこのデーター。

 化石のモノとも違うようだが」本沢。

 堆星はデーターの後ろの方を。

 「ここをご覧ください」

 「このピークは。

 スズにアンチモンにテルル。

 どういう事だ。

 こんなものがこんなに大量に含まれているとは。

 この前、御口君に見せてもらった

普通の恐竜の化石や、

今生きている生物のモノには

こんなものなかっただろう。

 それが」本沢。

 まあ化石の場合は

土の中の物質と置き換わっているため

やはり生物のモノとは違うのだが。

 あの恐竜の場合は。

 シベリアのマンモスと同じで。

 堆星は別のデーターを。

 「あの化石と一緒に出土した

 化石にもこのようなピークはありませんでした。

 それと-----これが通常の生物のモノです。

 主にやはり炭素、窒素、酸素にピークが。

 それと微量元素が多数。

 それが。

 こちらではこうなっています」

 比較しても全く。

 一緒に出土した化石と

比較しても-----やはり全く違う。

 つまり土の成分のせいではないという事だ。

 「どういう-----ことかね」本沢。

 「それで-----もしやと思いまして。

 細胞液を採り、質量分析器で。

 細胞液にはブドウ糖やアミノ酸等が

多数含まれていますので。

 その質量を調べれば」

 本沢も何の事かわからない。

 「これが結果です」

 分子量が異常に大きい。

 「普通の生物の細胞液ではこうなります。

 それがこの化石ではこうです」堆星。

 「ブドウ糖は炭素が6、水素12、酸素6個だから」本沢。

 「このピークです。

 それが化石のモノにはない。

 各種アミノ酸や酵素の分子量に

相当するピークもない。

 酵素は生物の種類によって違いますが。

 なにぶん数が多いのでなかなか。

 冷血、温血。

 アッ!いえ、これは失礼。

 それがと言いますか。

 それと思しきモノが

データーの後ろの方に大量に」

 「確かに」本沢。

 「本来あるべきところにはなくて。

 こんなところに」弥生も。

 「先生。これはどういう事ですか」助手の身月。

 「それは-----。

 御口君にはこの結果が出た時に

話したんだが-----」

 全員リョオの方を。

 「ですから-----。

 先の蛍光X線スペクトル検査と併せて考えますと。

 この生物は」言いにくそうにリョオが。

 堆星はどうしたものか。

 「身体を構成する元素が

我々のモノとは違うらしいのです。

 炭素や窒素、酸素とは」リョオ。

 「それではスズにアンチモン、テルルで

できているとでも-----言うのかね」本沢。

 「残念ながら」リョオ。

 「そんな馬鹿な」

 「はい。我々もそう考えまして。

 本沢先生には-----お知らせしなかったわけです。

 もう少しはっきりするまではと。

 それが。

 今回持ち込まれたあの怪獣。

 ガイグにザイドですか。

 あの怪獣の細胞を分析した結果」堆星教授。

 「一致したと」本沢。

 「はい。

 ブドウ糖などの検査結果も。

 これらは完全には一致しませんでしたが

非常に近いところに。

 もちろん通常のモノより

はるかに大きい分子量で。

 体液を遠心分離器にかけて

それを蛍光X線スペクトルと質量分析器を

併用して調べましても。

 やはりスズ、アンチモン、テルルが

出て来ますので」

 「もう間違いないと」弥生。

 「それは。

 まだ-----わかりませんが」慎重に。

 「こんな話。

 軽々しく結論は出せないよ。

 もっと多方面の学者にも

意見を求めて」リョオは弥生に向かって。

 「それで大砲の弾丸タマが当たっても

何ともなかったのか」助手の身月。

 「何と怪獣映画向きの生き物なんだ。

 アッ!イヤ。

 何でも」本沢が。

 「第五周期生物と言いましょうか」

 リョオはメンデレーエフの元素の周期表を。

 持ち出した。

 「我々の身体を構成する元素。

 炭素、窒素、酸素は

このメンデレーエフの元素の周期表の

第二周期にあります。

 しかしこの生物を構成する元素である

スズ、アンチモン、テルルは

第五周期に」

 リョオはその箇所を指差した。

 「深海の熱水鉱床の中で生きている生物は

-----あれは硫化水素か-----

いわば第三周期か

第二周期との中間か。

 調べてみないと分からないか。

 いえ-----何でも」助手の身月。

 「第五周期生物か。

 信じられん」本沢。

 「同じぞくに属する元素は

化学的性質も似ていますので。

 置き換わっていても生物としては。

 できないことはないでしょうが。

 我々も信じられなくて。

 どうしましょう」堆星も。

 「どうしようって。

 マサカ公表する気かね」本沢。

 「いえ。それは-----。

 まさか」堆星。

 その表情からは

相当迷っているのがうかがえる。

 「先生は-----公表なさらないと」弥生。

 「もちろん-----。

 こんな話。

 いや、失敬」本沢も口が重い。

 天才と何とやらは紙一重か。

 本当ならば。

 しかしもし間違っていれば-----

どうなるか。

 この手の話はよくあることだ。

 そしてたいていは-----

何らかのミスで-----と決まっている。

 「今、心当たりの先生方何人かに

データーを送って意見を聞いているところだよ。

 インターネットで。

 どう思うかってね。

 その結果を見てから考えるつもりだ。

 それまでは」

 まあ一人に送ると盗用される恐れもあるが

複数に送れば。

 それでも危ないか。

 「君も-----ニュース配信サイトだったか。

 そこの記者さんだったね。

 記事にするのはしばらく控えてくれよ」堆星。

 こういうモノは。

 何人かの学者先生に意見を求めたうえで。

 「はい。-----もちろん」

 どうしていいのかわからない。

 「編集長と相談して」弥生。

 「頼んだよ」本沢。

 「はい。もちろん」

 「ですがどうして-----。

 こんな生き物が」身月。

 「例えば-----。

 今はやりの遺伝子工学で

誰かが造ったとか」弥生が遠慮がちに。

 「それは」言いにくそうに。

 「誰か思い当たる人物とかは。

 いませんか」弥生。がぜん記者魂が。

 堆星もリョオも口が重い。

 「誰かいるんですか。

 いるのなら教えてください」弥生も食い下がる。

 「いや、虹起さん。

 そんな人物はいないよ」リョオ。

 「本当に」

 「本当だ。

 現在のわれわれの科学力では。

 残念ながらそのような。

 DNAを使って恐竜を復活させることも。

 ましてやそれを第五周期に置き換えることなど

とてもできないよ」堆星も。

 「では、どうして」弥生。

 「虹起さん。

 もし人が。

 恐竜のDNAをもとに

このようなモノを造ったとしたら

もとになった恐竜のDNAを

そのまま継承しているだろう。

 まあ口からレーザーのようなモノを吐くんだから

相当改良は加えているだろうが

それでも何らかの痕跡は残るモノだろう」リョオ。

 「痕跡?

 どういう」弥生。

 「これを見て」

 リョオは先に出した質量分析のデーターを。

 「これが何か」

 「我々はこの酵素のデーターに注目したんだよ。

 アミノ酸等も含めてね。

 どの程度の共通点があるかとね。

 恐竜のDNAをもとに人が造ったのならば

当然アミノ酸や酵素は

第五周期に置き換えられていても共通なはずだ。

 いや、共通な部分も多いはずと

言った方がいいか。

 それが-----違いすぎるんだ。

 全く別の進化を経て来たとしか

考えられないほどに」リョオ。

 「人が造ったとすれば

いくらなんでも

そこまでは変えられないだろうし。

 そんな天才は-----いないだろうしね。

 もっとも恐竜の酵素と言っても

 全てわかっているわけではないしね。

 何せ化石だから

微生物によって分解されているしね。

 その微生物によって分解された後の

痕跡からのモノだし。

 現在いる生物のモノを参考にね。

 だから-----。

 類推も多分にあるし」堆星が付け加えた。

 もっと詳しく調べるには

 分子構造を特定しなければならないのだが。

 それには時間がかかるか。

 「では、どこかで私たちとは

全く別の進化の道をたどったと」本沢。

 「そうとしか。考えられません」リョオ。

 「そういえば。

 あの化石の怪獣。

 数百万年前の地層から」弥生が気付いた。

 「ガイグは何百年も前にも

出現していましたか」リョオ。

 今まで気づかなかった。

 「まさか江戸時代に。

 いや、何百万年も前に

遺伝子工学もないですか」

 堆星も納得するように。

 その手のキワモノ映画を見ている世代には

-----それでも一抹の不安はあるらしい。

 こういう考え方はどうだ。

 ああいう考え方ならなどと

いろいろ言ってくる者もいるが。

 それはないか。

 「そうなるのか。

 全く別の進化か」本沢。

 「進化の系統樹ですか。

 それのどこで分岐したのでしょうか」弥生。

 「いや-----そうではなくて。

 我々、現存する生物の進化の系統樹ではなく、

全く別の進化の系統樹-----

という意味だよ」堆星。

 「原初の生命発生段階からということですか。

 枝分かれではなく」

 「そう、第五周期のね」

 熱水鉱床の硫化水素生物は

どうなのだろうか。

 我々の進化の系統樹から

枝分かれしたのだろうか。

 それとも。

 今のところあちらが先で-----熱水鉱床のだ-----

そこから我々の方が分岐したと

考えられているらしいが。

 「ですが-----水にしろ成分は水素と酸素ですし。

 大気も窒素が主成分ですし。

 そのような環境の中で

スズやアンチモンやテルルですか。

 そんな生物が誕生するなどとは」身月。

 「そうです。

 生物は海で誕生したのでは。

 海の中で二酸化炭素やいろいろなものが

複雑に絡み合って」弥生。

 「原始生命の誕生までには数億年、数十億年は

かかると言われているしね。

 水や二酸化炭素、窒素が主成分の大気。

 それらが大量に存在していた原始地球上でも。

 それがスズやアンチモンやテルルとは。

 海水中にもそんなモノは

ほとんどないしね。

 それが複雑にからみ合い

DNAをつくるとなると。

 第二周期かね。

 それの何十倍。

 いや何千倍の時間を必要とするか。

 不可能に近いのじゃないのかね」本沢も。

 原始地球の海に近い状態を

フラスコ内で再現し放電することで

アンモニアの合成に成功したという

話は聞いたが-----。

 しかしある一定の分子量以上の分子になれば

結合させられるより

分解される数の方が多くなるのでは。

 濃度にもよるだろうが。

 そのあたりはどうなっているのか。

 「それは」リョオ。

 何か言いたそう。

 堆星の方を。

 「私が話そう」堆星。

 「先生。しかし-----。

 それは-----」リョオ。

 「仕方ないだろう」

 「それは-----そうですか」

 「これはあくまでも

仮説なのですが」

 と前置きして。

 「それは太陽系が。

 いえ、惑星ができる過程に

その答えがあるかと思われます」堆星。

 「太陽系。

 宇宙のチリが集まって太陽が。

 惑星ができたというやつかね」本沢。

 「はい。そうです。

 惑星ができるには。

 宇宙の星間物質が集まり

それがだんだん大きな塊に成長し

地球になったと考えられていますが。

 その過程において。

 これはあくまで仮説ですが-----。

 原始地球は非常に高温だったのではないかと

考えられます。

 いえ、我々が考えているよりもはるかに。

 星間物質中のウランなどの核分裂物質が

地球内部に現在よりはるかに多量に存在し。

 その核分裂によるエネルギーにより。

 メルトダウン状態で-----

核爆発も頻発したでしょう。

 それにより。

 今の大地の主成分である

二酸化ケイ素も気体のような形でしか

存在しえなかった時期があったのではないかと」堆星。

 “ワイズとクレバーの仮説だ。

 知る人はあまりいないが。

 しかしこの仮説にも欠点はあるが。

 まあいいか。

 例えば銀河内の他の恒星系において

そのような高温の惑星が

確認されていないという事だ。

 最近は宇宙望遠鏡とやらで。

 近くの恒星系の惑星ならば

見えるらしいが。

 しかしこの際-----まあいいか。

 それを使えば。

 そういうつもりで望遠鏡をのぞかないから

見えないのかもしれないし。

 しかし妙だな。

 現在の仮説でも

原始地球は溶岩の塊のようなもの。

 そのような状態の惑星が

宇宙にあれば見えるだろう。

 それらをスペクトル分析できれば。

 第二周期、第三周期と

どういう物質が-----

例えば第二周期の場合は二酸化ケイ素か-----

発光しているかもわかるだろうに。

 それに星間物質中のウラン等の

核物質の量が分かれば。

 それから惑星の温度を推定し

第五周期のような状態が可能かどうか

わからないものか。

 「台地が。

 いや岩石も溶けて気体の状態か。

 高温で。

 そんな事。

 じゃあ、ガスのような状態で」本沢。

 「いえ。全てがガスではありません。

 固体の状態のままのモノも。

 液体のモノももちろんあります。

 地球が冷えるにしたがって。 

 凝固温度の高いモノから

順に固まって大地を形成したと。

 例えばスズ、アンチモン、テルルの化合物。

 あるいはそのメンデレーエフの元素の周期表でいう

第六周期の物質が」

 「それじゃあ。

 大地は第六周期。

 海水は第五周期かね。

 そんな事。

 あり得るのかね」本沢。

 信じられない。

 「現在の大地は第三周期。

 酸素も混じっていますが。

 海水は第二周期ですか」弥生も。

 「それじゃあ、あの化石がシベリアのマンモスのように

腐敗もせずに残っていたのは」

 そうなります。

 彼ら第五周期生物にとり

我々の常温は凍っているのと同じ。

 いやそれ以下の温度でしょう。

 こちらをご覧ください」

 堆星は実験装置を。

 「これは模擬実験装置ですが。

 あくまでも。

 実験室ではとても原始地球のような

高温は造れないためですか。

 容器も何ももちませんので。

 そのような高温では。

 ここに物質を入れます。

 何十種類もです。

 もちろん第五、第六周期の物質ではありません。

 手ごろに手に入るモノです。

 これを高温にして全て溶かします。

 そして徐々に冷やしていく。

 そうしますと徐々に固まっていく。

 凝固温度の高いモノから。

 先に固体になったモノでも

比重の差によって液体より軽ければ

液体の上に浮きますが。

 マントルの上に大地が浮いているように。

 ああ-----マントルは-----固体ですか」

 「なるほど。

 しかし現実にそうなるかどうかは。

 実際のモノを使って

実験しなければ」本沢。

 「もちろんそれはそうです。

 圧力、温度などを考えて。

 しかし可能性としては」

 「地球上に。

 かつて第六周期の大地の上に

第五周期の水や大気があふれていた時期が

存在していたという事か。

 それも数億年もの間」

 「はい。数十億年かもしれません。

 地球の年齢は四十五億年と言われていますが

それはあくまで今ある岩石の中で

もっとも古いモノの年齢ですので。

 実際はもっと古いかもしれません。

 もちろん可能性ですが」

 「ですが。

 宇宙の年齢にしろ百五十億年ですか。

 それを-----。

 その中で第五周期から第四、第三、第二と-----

なるといったいどのくらいの

年月が必要となってくるのですか」弥生。

 「宇宙の年齢は百五十億年ですか。

 あれはあくまで

地球から百五十億光年離れてところに恒星を-----

銀河ですか-----

発見したという事でしょう。

 光の速度で-----いえ、光の速度の半分でですか。

お互いに-----

恒星同士が遠ざかっていない限り

百五十億光年恒星同士が離れるには-----

銀河がですか-----

その何倍もの年月がかかるのではないですか。

 赤方偏移の度合いから考えましても

その速度は光速よりもはるかに。

 それから考えて。

 速度変化はあるのかな」堆星。

 「それは-----。

 では宇宙の年齢はもっと古いと」弥生。

 「ビックバン仮説が正しければ」堆星。

 「とにかく-----。

 その時に生まれた生物がこれか。

 信じられん」

 “これが映画か何かなら-----。

 一発でみんなそれが正しいと言って

飛びついてくるんだが。

 現実には。

 みんな腰が引けてしまって。

 もちろん本人も。

 まあそんなものか。

 言っている本人も

半信半疑なのだから仕方ないか”

 「宇宙にそのような第五周期の惑星があって

そこから隕石か何かで

飛んできた可能性は」弥生。

 「卵か何かがかね。

 それは。

 ガイグにザイドと二頭もいるしね。

 しかも-----。

 DNAが運ばれてきたにしても環境がねえ。

 とても考えられないよ。

 まあ怪獣だから-----そのような彼らにとっての

劣悪な環境下でも-----成長できるかも

-----しれないか。

 可能性としてはあるかも知れないが。

 それに何万年も前から

たびたび出現しているとなると

やはり-----」堆星。

 “まあ怪獣とはそんなものか。

 可能性はある”

 「それで、奴らは今までどこに」本沢。

 「ですから地下のマグマの中に。

 そこが原始の彼らの生活環境と

よく似ているとすれば」

 「それで火山が噴火するたびに地上へ」弥生。

 “第五周期の時代か。

 でもそんな熱い惑星が

もし宇宙にあれば

太陽と同じで地球から

望遠鏡で見えそうなものだけど。

 今は宇宙望遠鏡があるのか。

 あれなら”

 弥生は先ほどの堆星と同じような事を

考えていた。

 「信じられん。

 溶岩の中に生物がいるなんて。

 そんな調査結果は見たことがないし。

 まあそんなモノ調べる者も

いないだろうが」本沢。

 「はい、もちろん。

 私も-----。

 あくまでも仮説です。

 ですからこの事は

ここだけの話にしておいていただきたい」

 「もちろんそうだろう」本沢。

 「ですが先生。

 地球内部は。

 地震波を使った測定によりますと

地下数千キロのマントルまでは

固体なのでは」弥生。

 堆星は地殻の構造図を取り出してきた。

 「地下二千九百キロまではかね」

 「はい。地震波の中のP波とS波によりますと。

 P波は縦波たてなみですので

固体であろうと液体であろうと伝わりますが。

 S波は横波なので固体しか伝わりません。

 それでその地震波による調査結果から考えて

 地下二千九百キロですか。

 そこまでは-----固体だとされているのでは」弥生。

 「地震波のS波の伝わり方か。

 -----。

 しかしそれはあくまで地表での。

 常温常圧下でも場合だろう。

 地球内部のような高温高圧状態においても

そうなるのかね。

 高温高圧状態では液状であろうが

横波が伝わるかもしれんだろう。

 だいたい地球の内部のマントルの

構成元素の比率等を考えてみたまえ。

 そこに含まれる全ての物質が

固体だとは考えにくいだろう。

 液体の層もあってしかるべきと

考えた方が自然じゃないのかね。

 しかしもちろん-----そのような層があれば

その層は君の言う地震波によっても

発見されてしかるべきだが

見つかっていない。

 これをどう考えるかだが-----まあいいか。

 とにかく-----。

 それは。 

 横波が伝わるかどうかは。

 要するにそれは分子同士の

結合力の問題でしょう。

 S波は横波だし、

それが伝わっていくには

固体のように分子同士がある程度の力で

結びついていなければならない。

 それらの層から反射してくる

地震波の強度の変化によって

類推できないものかね。

 高温高圧状態で

もし液体でもその条件が

満足されればどうなるか。

 もしそうなら。

 実験室で徐々に高温高圧にして

横波や縦波の伝わり方を

反射も含めて様々な物質で

調べていかなければならない。

 特に横波の伝わる境界が-----温度と圧力の関係でだよ

-----どこにあるのかをね。

 その境界は物質の状態によって

 一か所だけとは限らんしね。

 もっともそうなれば

それを液体と呼んでいいのかどうか

わからんがね。

 気体でもひょっとして。

 比重は固体より大きいだろうし。

 高温高圧状態で固体にも液体にもなれずに。

 地球内部に漂っているかもしれんし。

 いや、これは-----。

 やってみなければわからんか。

 もし-----が多いか。

 学者としては

証拠もないのにこんな事言っては

いかんか」堆星。ブツブツと。

 「でもそんな事。

 信じられませんし」弥生。

 「それに相手は第五周期生物だ。

 たとえ固体であっても」

 弥生も黙ってしまった。






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