攻撃
ガイグは中部地方の山脈沿いに
名古屋方面へゆっくりと進んでいた。
もう一頭の怪獣ザイドは見失っていた。
よほど地下深くへもぐったのだろう。
途中に人口数万の都市があった。
都市にはすでに避難勧告が出ている。
逃げ惑う人々。
ガイグは。
全身が。
口から光の帯が。
ビルがなぎ倒される。
ビルのガレキが逃げ惑う人々の頭上を襲う。
その様子はテレビ局のヘリが。
「あの光はなんだ」枠未防衛大臣。
「わかりません。
しかし-----炎では-----ないようです。
レーザー?-----のようなものかと考えておりますが。
結論はまだ」雪川統幕議長。
「口からレーザーか。
いったいどういう生き物なんだ」大臣。
「まさしく怪獣ですか」誰かが。
「そうだな。
巨大生物なら口からレーザーなど
吐けるわけがないしな」
だから怪獣だと言わんばかり。
「それで自衛隊は」大臣。
「今津からは戦車隊が。
豊川からは特科部隊が
既に出動しましたが。
何分-----展開までには
まだ数時間は必要かと」陸原陸幕長。
滋賀県の今津からは
トレーラーに積まれた戦車が、
愛知県の豊川からは
大型トラックに牽引された
155ミリ砲が。
名古屋方面へ向けすでに出発していた。
「間に合うのかね」大臣。
「それがどうも-----。
なにぶん、目標の移動速度が速すぎますので。
しかし普通科と明野の対戦車ヘリは十分に」
「そうか、それなら。
あの程度の生物。
普通科の個人用の対戦車砲で十分だろう」
「まあそうでしょうが」
ガイグはその間も都市を破壊しつつ南西へ。
地上のテレビ中継車が
自衛隊の車両の到着を告げている。
指揮通信車、高機動車。
隊員たちが110ミリの対戦車砲を手に
展開を始めた。
重MATも見える。
「テッ!」
対戦車砲が火を噴いた。
110ミリの対戦車ロケットがガイグへ。
厚さ数十センチのぶ厚い鋼板を
数千度の高熱ジェットガスで撃ち抜くそれは。
胸のあたりに命中。
それも数発同時に。
その様子はテレビが。
自衛隊の中継器からも。
「やったか」陸原陸幕長が防衛省内で。
しかし-----。
ガイグの全身が。
口からレーザーが。
ビルが、家が。
レーザーを受けた跡は溶け、崩れ、
溶岩のよう。
「そんな」陸幕長。
「数千度の高熱で溶けないものなど-----」
テレビの画面が命中箇所を大写しに。
しかしまったく。
「やっぱりか。
アッ、イエ」幕僚の陸川二佐。
「やはり奴は怪獣か-----。
巨大生物ではなく」誰かがポツリと。
怪獣と巨大生物の決定的な差は-----。
大砲で撃たれても死なないかどうかにある。
もちろん単なる思い込みだ。
他にも口から火を吐くかどうか-----
というものもあるが。
もちろんこれも単なる思い込みだ。
まあ大砲で撃たれても-----さえクリアーしていれば
怪獣とは認めてもらえるのだろうが。
しかし-----口から火も吐けない怪獣は-----
弱いに決まっている-----かな。
マイナーな存在となるのかどうだか-----。
よくわからないが。
もちろんこれも単なる思い込みだ。
空を飛べるかどうかは
あまり気にならないらしい。
どうしてだろう。
まあいいか。
重MATが。十数発。
それも全く。
対戦車ヘリ数機がビルの陰から現れた。
二十ミリ機関砲が火を噴く。
ガイグは逃げるどころか
全く動じない。
対戦車ヘリに積まれた70ミリロケット弾が、
対戦車ミサイルが。
全くこたえない。
ガイグが口からレーザーを。
対戦車ヘリが一瞬にして消し飛ぶ。
対戦車ヘリがビルの間を逃げ惑う。
しかし地方都市。
ビルは低い。
ガイグのレーザーはそれを追って。
数機の対戦車ヘリは
ビルごと全て撃墜されていた。
地上からは偵察警戒車が
その持つ25ミリ機関砲で。
しかしガイグの放つレーザーにより消滅。
一瞬にして消え去った。
道路は溶岩の海。
多目的誘導弾が発射されたが
光ファイバーケーブル誘導のミサイルも全く。
アッという間にその発射機ごと高機動車が。
それをテレビ画面で見守る防衛省内の幹部たちは。
「信じられん」
「どうしよう」幕僚が思わず。
「もっと威力のある兵器を使うしか」
「空自ではレーザー誘導爆弾を積んだ
攻撃機がすでに発進していますが」空自の幕僚の空戸二佐。
「あんなもの、街中で使うのか」陸自の幕僚陸川二佐。
「仕方ないだろう。
それに精密誘導爆弾だから
被害は局限できる」
「海自では対艦ミサイルを使って。
ちょうど名古屋沖を航行中の
護衛艦が一隻いましたので
そこから」海自の幕僚海来二佐。
「対艦ミサイル?」大臣。
「はい、新型の。
弾頭は従来通り500ポンド(約225Kg )ですが。
徹甲弾になっております。
ミサイル本体の直径は34センチですが
その中に-----戦艦の主砲弾を小型化したような形の
直径25センチほどの徹甲弾が入っております」
戦艦大和-----正式には軍艦大和というらしいが-----
の主砲弾は直径46センチで1・46トン-----。
これから逆算して225Kgならば
直径25センチほどになるらしい。
「巡航はジェットエンジンで。
目標の手前でジェットエンジン部分を分離。
ロケットを噴かしてマッハ5まで加速。
目標に命中します。
命中時の運動エネルギーは-----
弾頭部分のみの重量を考慮しましても-----
戦艦大和の主砲弾の約1・5倍。
貫通力は2・5倍以上。
もちろんこれは戦艦大和が
主砲を目標に対し
2万メートルの距離から射撃した時の
存速をもとに計算したものですが。
1メートル50センチ以上の厚さの
垂直に立てられた鉄板を撃ち抜きます。
その対艦ミサイルを使用したいと思いますが」
「ああ、あの-----」
「何のためにそんなモノ必要なのか。
今更戦艦でも撃沈しようというのか。
そんなモノどこにあるんだ。
と言われた、アノ」大臣。
その際、地下深くにある敵の地下壕を狙う
と言って押し切ったあのミサイルか。
しかし本当にあんなモノ。
地下攻撃に使えるのかな。
「まさにこの時のために
造ったようなものかな」独り言のように。
実際には敵艦の近接防御システムを
超音速で突破するためだが。
従来のミサイルの燃料スペースに
ロケットモーターを置き、
それでも足らずに全長を伸ばしている。
ジェット燃料は胴体側面に
張り付くような形で設けられた
外部燃料タンクに入っている。
「大丈夫なのか。
あの巨大生物の身体を貫いて
民家の上ででも炸裂すればどうする」
「それはあるか。
いや、そのために
通常の対艦ミサイルも積んである。
しかし陸自も空自も
同じものを持っているだろう。
使わないのか」
通常の対艦ミサイルでも
怪獣の身体くらい貫くか。
「それは-----」陸自の陸川。
「一応、うちは用意はしているが。
もちろん念のために」空自の空戸二佐。
「うちは配備順からいって-----
中部方面にはまだ-----」陸自。残念そうに。
「富士から撃てば届くが
目標の移動速度が速いので。
なにぶんビルか何かにでも当たりでもすれば。
中間誘導装置もないし-----
画像認識もできるんだが-----
今から入力するとなると」ブツブツと。
まあ届かなければ外部に落下タンクを
取り付ければいいんだろうが
あまり射程が長いと問題が。
つけれるようにはなっていない。
「画像認識は実際当たるかどうか
実験してからでないと」
「まあそうだな」
陸自の155ミリ砲の一部が
名古屋郊外に到着しだしたようだ。
ガイグはその間にも名古屋方向へ。
途中の民家やビルを破壊しながら。
テレビが地下へもぐった
もう一頭の怪獣についてスーパーを流した。
気象庁の地震計の観測によると
地下数十キロをやはり名古屋へ向け
移動しているらしい。
「どうします」幕僚の陸川二佐。
「どうすると言っても」陸幕長。
「相手は地下だし。
どうしようもないだろう」
ガイグへ向け空自の対地支援戦闘機が
レーザー誘導爆弾を投下した。
一万メートル以上の高空から。
ガイグの頭部へ命中。
「そんな」
「続けて攻撃します」
しかし-----。まったく。
全員顔色が青い。
ガイグがうるさげに上空を。
口からレーザーが。
戦闘機が一瞬にして消滅。
「くそー。
口の中を狙わせろ」空幕の幕僚。
さらにレーザー誘導爆弾が。
ガイグの口へ。
腹の中で炸裂。
しかし。
「護衛艦より。
対艦ミサイルを撃ちます」海自の幕僚が報告する。
命中までには数分は必要だ。
その間も空自の航空機がガイグへ向け。
爆弾を。
しかしガイグの放つレーザーにより
次々と消滅していく。
「悪夢を見ているようだよ」雪川統幕議長。
子供に連れられて
その手のキワモノ映画を見た後は
いつもそんな夢を。
夢の中の怪獣は撃っても撃っても。
同僚に聞くと-----多いらしい。
夢の中でも
怪獣を退治したという話は聞いたことがない。
ガイグの周囲で爆炎が上がり始めた。
155ミリ砲が射撃を開始したのだ。
ガイグの通った跡は
ビルも民家も道路も火の海。
ガイグの移動速度があまりに速いため
逃げ遅れた人々や自動車がレーザーにより。
「クソ。155ミリでもダメか」陸幕の陸川。
「1000ポンド(約450Kg)爆弾でも
無理なんだからな」空自の空戸。
「対艦ミサイルが間もなく着弾します」
ストップウォッチ片手に海幕の幕僚が。
空自の早期警戒機も
ミサイルの動きをモニターしている。
「空自におきましても
すでに対艦ミサイルを積んだ
対地支援戦闘機が発進していますが-----。
海自に取られてしまいましたか」最後は小声で。
民家を誤爆してはという懸念から
使用をためらった結果だ。
まあ仕方がないか。
「いえ。なんでも」
対艦ミサイルが。
後部を分離。
ジェットエンジン部分と
側部の燃料タンクが切り離される。
ロケットモーターに点火した。
亜音速から急激に加速。
秒速1700メートル以上の速度でガイグへ。
胸部を直撃。
炸裂。
しかし。
「そんな」
「戦艦大和の大砲の
1・5倍の威力があるんだろう」
「厚さ1・5メートルの
鉄板を撃ち抜くんじゃなかったのか」
「何ともないのか」
「まあ-----大砲の弾丸が当たったくらいで
死ぬようなモノは
怪獣ではないわな」
誰かがポツリと感想を述べた。
「まあ-----そうだが-----。
他の国ではどうだか知らんが。
日本ではそうなっている。
通常兵器に毛の生えた程度の
SF兵器で倒せるようなモノは
怪獣ではないか。
エッ?イヤ。
こんな時に不謹慎だよ」
テレビが命中箇所を大写しに。
レポーターが。
「マサに怪獣です」と連呼したいる。
「かすり傷ひとつついておらん」枠未大臣。
子供の頃よく思ったものだ。
映画の中の自衛隊も
戦艦大和の大砲で怪獣を撃てば
倒せるかも知れないのに-----。
どうして撃たないのかと。
そしてその結果が今出たわけか。
ため息が。
映画会社にもわかっていたのだろうか。
戦艦大和の大砲で撃っても
怪獣を倒せないことを。
それで撃たなかったのか。
子供の頃からの胸のつかえが-----
おりた思いが-----。
ガイグが口からレーザーを。
名古屋市郊外に布陣した
155ミリ榴弾砲が消し飛ぶ。
空自の戦闘機が対艦ミサイルを。
しかし-----やはり結果は同じ。
軍事評論家がテレビの中で
「どうして徹甲弾付の
対艦ミサイルを使わないんだ。
あれなら倒せるだろう。
何せ戦艦大和の主砲の
1・5倍の威力があるんだから」
と連呼している。
それを横目で見ながら幕僚の誰かが。
「今、使っているんだよ」と独り言のように。
テレビでミサイルの命中シーンが
再度放送された。
「あれがそうか-----」
ロケットモーターの噴射炎を見て
気づいたのだろう。
「しかしあの-----怪獣-----。
どういう-----。
戦艦大和の1・5倍の威力だろう」
それっきり黙ってしまった。
戦闘機がガイグのレーザーにより。
ガイグは名古屋市内へ。
守山区へ。
守山町を火の海に。
ビルに足をかけ、空へ陸へレーザーを。
戦闘機が自衛隊の車両が溶け崩れる。
ガイグはこれ見よがしに。
野球グランドをレーザーで。
レーザーの跡は。
その高熱により大地は、ビルはアスファルトは溶け、
溶岩の帯が無数に広がっていく。
千種区で方向を西に変え
出来町通りを東区へ。
野球グランドを踏み潰して。
第十戦車大隊の戦車数両が通りを。
105ミリ砲が装弾筒付徹甲弾
《そうだんとうつきてっこうだん》を。
タングステン合金製の弾体が-----。
ガイグを直撃-----火花を散らす。
ガイグがレーザーを。
数両の戦車が一瞬にして蒸発。
「戦車でもダメか」
「どれほどの威力があれば
戦車をあんなふうに。
しかも一瞬で」陸原陸幕長。
「あと自衛隊にはどんな武器が」枠未大臣。
「それは」答えられない。
ガイグのレーザーにより名古屋のビルは街は。
ビルが一瞬にしてなぎ倒され
溶け崩れる。
道路は溶岩の海。
逃げ惑う人々は。自動車は次々に。
「気象庁から連絡が」
「何だ」陸原陸幕長。
もう一頭の怪獣の動きをつかむため
連絡を取り合っていたのだ。
「それが微弱な振動が
地下数十キロから地上へ上昇中。
出て来ます。
位置はこの付近」幕僚。
地図に大きな円を。
全員顔を見合わせた。
「名古屋市内か」
名古屋城の地下から空へ向け
光の帯が噴き上がった。
「あそこか」枠未防衛大臣。
テレビがそれを。
名古屋城が高熱のため溶け崩れていく。
ガイグはそれを見るや
名古屋城の地下へ向け
口からレーザーを。
地下からもガイグへ向けレーザーが。
それを受けたガイグの胸がはじける。
そして地下からザイドが。
その姿を現した。
名古屋城の残骸が崩れ溶け墜ちる。
数両の戦車がザイドへ向け戦車砲を。
しかしザイドのレーザーにより
一瞬にして消滅。
「やはりダメか」
「あんな生き物が二頭も」
ガイグとザイドは向き合った。
「あんなところでケンカでもされたら」防衛大臣。
ガイグがザイドへ向け距離を詰める。
市役所がガイグにより踏み潰される。
ザイドがレーザーを。
ガイグへ伸びる。
ビルが道路が溶け崩れ、
煮えたぎる。
ガイグもレーザーを。
ザイドの顔面がはじける。
ザイドは名古屋城の二の丸を超え
石垣を崩しながらガイグへ。
ガイグの首へその巨大な口で牙をたてた。
ガイグは苦しまぎれに振りほどく。
ザイドが数百メートル。
振り飛ばされる。
ビルをなぎ倒し久屋大通りへ。
ガイグが倒れたザイドへレーザーを。
流れ弾を受けテレビ塔が崩れる。
ガイグも大通りへ。
ビルを踏み倒しながら。
レーザーがお互いを。
道路はビルはレーザーにより溶け崩れ
ガイグもザイドも膝まで溶岩の中へ。
しかし動きは全く変わらない。
ガイグがザイドの腕へ牙を立てる。
肉が千切れ骨が砕ける。
ザイドも牙を。
皮膚がはがれる。
その間も戦闘機が爆弾を。
対艦ミサイルを。
対艦ミサイルがザイドへ、ガイグへ。
数発ほぼ同時に着弾。
「もう一頭の方も-----ダメか」月空空幕長。
戦艦大和の主砲の1・5倍の威力のミサイルが
-----全く通用しない。
レーザーが。
その流れ弾により名古屋市内は火の海。
怪獣たちの争いは南へ。
名古屋駅はレーザーにより。
自衛隊はなすすべもない。
二頭は名古屋港へ。
ガイグがザイドの首を咥え
投げつけた。
ザイドは海へ。
ガイグもそれを追って。
二頭の怪獣は海中へと姿を消していった。