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大怪獣 V ガイグ  作者: 維己起邦
4/18

出現

 ひなびた山村。

 山神村とそこはいった。

 人家といっても数百メートルおきに

二軒三軒と点在しているのがやっと。

 その一軒。

 過疎化が進み、若者は皆都会へ出ていき

この家にも五十を超えた夫婦が残るのみ。

 家の主人は夕食後

テレビに見入っている。

 ケーブルテレビから流れるニュースは。

 炎龍山えんりゅうさんの噴火を告げている。

 「御山おやまが噴火したって」

 「ほんと、やっぱり。

 空が真っ赤だったから」

 「ここは大丈夫だろう。

 御山からはだいぶ離れているし」

 数キロはある。

 避難勧告もここには出ていない。

 防災無線によると

村の消防団が家々を一軒一軒巡回しているそうだ。

 その指示に従えと言っている。

 妙な-----背筋が凍るような。

 鳴き声のような音が響いた。

 家の主人が耳を澄ませた。 

 「何だ」

 「さあ」

 何が起こったのか、不安気に。

 さらに続いて地響きが

短い間隔で連続して。

 木がなぎ倒されるような音も。

 それは徐々に。

 いや、急激に大きくなっていく。

 二人は言い知れぬ恐怖に。

 いても立ってもいられず外へ飛び出す。

 巨大な黒い影が上から覆いかぶさるように。

 通り過ぎて行った。

 後には破壊された自宅いえ

 「カイジュウ」主人が。

 その視線の先には巨大な生物が。

 走り去っていく。

 さらにその巨大生物を追うように

巨大な足音が近ずいて来る。

 二人は振り返った。

 もう一頭の巨大な生物が。

 カイブツの全身が異様に。

 その口から目もくらむような強力な光の帯が。

 先へ行ったもう一頭へ向け放たれた。

 もう一頭の怪物を直撃。

 びっくりしたように振り返る。

 怒ったような眼でもう一頭を。

 その怪物も口から光を。

 二頭の怪物は。

 消防団員が数人駆け寄って来た。

 近くを巡回中だったらしい。

 皆年配だ。

 「何だ。あれは」

 「映画の撮影か何かだろう」

 「映画。〇〇言うな。

 あれは等身大の着ぐるみを使ってるんだ」

 「しかし-----あれは。

 本物のわけはないだろう」

 「それは-----そうか。

 あんなもの本当にいるわけが」

 「どうしよう」

 一方の怪獣がもう一頭の首へかみついた。

 もう一頭は力まかせに振りほどく。

 振りほどかれた一頭は大地へ倒れこむ。

 巨大な地鳴りがここまで伝わってくる。

 「とにかく警察だ。

 スマフォ、スマフォ」誰かが。

 村の駐在が自転車で駆け付けて来た。

 「駐在さん」

 「どうして------まだ電話も」

 「連絡を受けて来たんだが。

 向こうの家から」

 他にも見た者がいたらしい。

 当然か。

 あんな大きなもの。

 「何とかしろ。

 ワシの自宅いえをこんなに」

 「しかし」警察。

 「鉄砲持ってんだろう」

 「そうだ」

 「無茶言わないで。

 こんなもので。

 これはもう自衛隊の仕事だろう」

 無線で本部へ。

 「そう、怪獣だ。

 怪獣が二頭。

 ウソじゃない。

 この音が聞こえないのか」

 向こうも対応に困っている。

 方々からすでに連絡が入っていたらしい。

 空には自衛隊のカーキ色のヘリが。

 偵察ヘリだ。

 戸惑ったように怪獣の上空を飛んでいる。

 怪獣は争いながら南へ。

 ヘリはさらに数を増す。

 警察のヘリもいる。

 テレビ局のヘリも見え出した。

 二頭の怪獣はもつれ合うように山の尾根に。

 そこから山の斜面を数百メートルも-----

転がり落ちた。

 一頭は地下へ。

 もう一頭は-----相手を見失ったようだ。

 そのまま何かを捜すように南へと。





























 陸堀首相は公邸でテレビを見ていた。

 国会も会期を終えている。

 他愛もないバラエティー番組だった。

 そこへ突然。スーパーが入った。

 “怪獣出現”

 陸堀は思わず吹き出した。

 「どういう事だ-----」

 番組とは全く関係ないようだし。

 全くわからない。

 内閣官房へ電話しようとして-----

危うく思うとどまった。

 こんな事聞いていいのか。

 秘書を呼ぼうと-----それも思いとどまった。

 さらに十数分が。

 番組が特別報道番組に切り替わった。 

 いつもの見慣れたアナウンサーが

ひきつった表情で-----淡々と。

 テレビ局の都合で

その手のキワモノ映画に駆り出されたアナウンサーが

ぎこちなく演技をしている時と

同じようにも見える。

 そういえばこのアナウンサー。

 その手のキワモノ映画では常連だったような。

 怪獣の映像が流される。

 映画で見られるような-----

よくこんなアングルで撮れたものだ

-----というものはない。

 「本当なのか」

 “信じられない”

 とりあえず秘書を呼び、内閣官房へ。

 向こうも慌てているらしい。

 自衛隊は-----事実と確認したとのこと。

 「どうします」官房長官。

 「どうしますって。

 どうしよう。-----。

 まず関係閣僚を集めて-----情報を収集するしか」

 テレビは怪獣が名古屋方面に向かっていることを告げている。

 途中に点在する町や村を

口から吐く光の帯で火の海と化しながら。

 テレビは無残に破壊された町や村の姿を映し出している。

 「間に合わんか」首相。

 「はい。とても」

 「知事からの出動要請は」

 「それが災害ではないもので

 向こうも対応に苦慮しているらしく」官房長官。

 「それに災害派遣では-----鉄砲を持って出ていくわけにも

-----いきませんし」

 「-----。

 防衛大臣を呼んでくれ」

 「ここにいます。代わります」

 防衛大臣が出た。

 「出動するしか」枠未わくみ防衛大臣。

 「しかし-----怪獣は災害派遣になるのかな。

 防衛出動の対象となるのかね」

 「ですが-----名古屋が。

 今そんなことを言っている暇は」

 「それに相手は外国ではありませんし。

 別に問題ないのでは」

 「なし崩し論が」

 「日本の国土が攻撃されているわけですし。

 外国にではありませんが」

 「法制局は何と」

 「そんな暇は」

 「それに-----人や家畜、建物等に

危害を与える猛獣等は-----。

 一応保健所の管轄となっているようですが-----。

 どうしましょう」

 「保健所。

 しかし保健所では対応できんだろう。

 君のところが出ていくしかないだろう」首相。

 「しかし-----その場合、

保健所の指示を、いえ依頼ですか。

 受けなければならないのでしょうか。

 いやそれはないですか。

 この前クマが出て来た時は

確か警察が。猟友会もですか。

 ですがそれは好都合ですか。

 ヒグマやトラ、ライオンの場合。

 鉄砲を持って行けますし。

 それから考えまして

自衛隊が大砲を持ち出しても問題ないのでは。

 まあ災害派遣では

武器を持ってはいけませんし。

 怪獣ですか。

 通った後のガレキの下から

人を救出に行くのではないですし。

 もちろんそれも必要でしょうから

やらせていただきますが」

 何を言っているのかわからない。

 「しかし保健所かね。

 そんなあいまいなことで」首相。

 「それはそうですが。

 どちらにしても出動しないわけには」

 まあその手のキワモノ映画を見ても。

 『あれは我々の管轄だ。

 どうして我々が登場しないんだ』

 などと映画会社にクレームをつけた

保健所の関係各省庁のお役人はいない。

 だから知らん顔をしておけば大丈夫だろう。

 いや言ってそれを法的根拠にした方が。

 「仕方ないか」

 「はい」

 「-----。

 よし-----自衛隊に行動命令を。

 しかし怪獣は保健所の-----かな」首相はぽつりと言った。





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