百里島
東京から数百キロにある無人島。
百里島。
過去において人の住んでいた証である
民家が点々と存在している。
家の造りから見て相当古いモノだろう。
しかし現在は度重なる
火山噴火のため無人島となっていた。
過疎化の影響も大きい。
そして今。
多数の自衛隊員たちが
輸送艦により上陸をはじめていた。
戦車が、装甲車が自走砲が、
地対艦ミサイルが。
全てでブ厚い鉛製の
あるいは中性子防護用の増加装甲を装着している。
それらがこの周囲数十キロの島へと
展開していく。
リョオも本沢も弥生もここにいた。
特別製の壕の中で
ガイグを待つつもりだ。
陸川たちもいる。
陸堀首相はじめ閣僚。
自衛隊の制服幹部の面々は東京のホテルで
衛星回線で送られてくる
その映像を見詰めていた。
「しかし本当にあんな無人島に
部隊を展開させても
大丈夫なのかね」官僚の一人が心配そうに。
「そうです。
もしガイグが来なければ。
本土の何処かへ上陸でもされれば
どうするつもりですか」別の官僚。
今まで何度も議論した事だ。
「ですが、本土に配備するとしてどこへ。
この前は-----不幸な事ですが。
たまたま我々が戦力を集めていた
東京へ来ましたが。
それはあくまでも偶然でした」陸原陸幕長。
「それはそうだが」官僚。
「それならば奴はきっと。
ガイグは生き物なのでしょう。
それなら例の炎龍山へ帰って来るのでは」
「ですからやはり-----炎龍山で迎え撃った方が
良かったのでは」
「我々も炎龍山へ帰るだろう。
そう考えています。もちろん。
しかし-----例のガンマー線発生装置の
人体に対する影響も未知数ですし。
それを炎龍山のような場所で
使うわけにはいかないのでは。
堆星先生のデーターによりますと
数百メートルも離れれば
大丈夫という事でしたか。
それでもやはり」
「多数の波長のガンマー線同士が干渉しあい
少し離れると影響を
打ち消し合うらしいのですが-----」
「そういう事か」
全くわからない。
「放射性物質の事もありますし」
「それはそうだが」
「それに百里島は奴の出て来た炎龍山と
奴が今潜んでいる海域の
中間付近にあります。
奴が海中を来るならば
必ず誘い込めると確信しています」海月海幕長。
「地下へもぐった場合は」
「それは」
「奴は地球内部に住んでいるのでしょう。
それならば何も炎龍山まで
戻らなくても-----」
「その場合は残念ながら」
「また出てくるまでは
手が出せないわけか」
「それも我々が忘れたころに。
どこかへ」
「十年先か、百年先か」
「明日かも知れん」
「-----」
「もう出て来ないかも」
「それは無責任すぎないか」
「それはもちろん」
「ですが山神村の伝説では
炎龍山に」
「それは-----あくまでも-----」
「だったら-----あのあたりに
奴の住んでいるという
地球内部と地上をつなぐ通路のようなモノが
あるんじゃないのか-----」
「それはあるか-----」
「しかし奴は第五周期生物だろう。
そんなものなくても。
いやそれでもそのような道のようなモノが
あった方がいいのか-----」
「君、今、それを言っても」枠未大臣。
「はい。それは-----」
「とにかく今は」陸堀首相。
陸堀たちはガイグの潜む海域を
テレビの画面越しにジッと見つめている。
「ガイグが動き始めました」
ガイグの監視にあたっていた哨戒機が。
「来たか」陸堀首相。
作戦は開始された。
対潜哨戒機が発進する。
ガイグは海中を。
「やはり炎龍山方向へ」
「そのようだ」
刻々と入る情報をもとに。
対潜哨戒機が魚雷を。
護衛艦がアスロックを。
ガイグへスクリュー音を残しながら直撃。
ガイグは少し怒ったように。
レーザーを。
魚雷がレーザーにより爆発。
しかしさらに魚雷が。
ガイグはうるさげに。
だがかまわず真っ直ぐ炎龍山方向へ。
「どういう事だ」
「もっと撃たせろ」海幕長。
百里島へは百キロない。
しかしこのままでは
数十キロの距離を置いてそれてしまう。
さらに多数の魚雷が。
ガイグへ直撃。
ガイグはレーザーを。
うるさげに。
一隻の護衛艦がガイグの眼に入った。
護衛艦が魚雷を。
ガイグはレーザーを。
護衛艦が吹き飛ぶ。
「ダメか」全員。
ガイグへさらに魚雷が。
ガイグの方向が変わった。
ガイグは百里島方向へ。
ガイグは浮上した。
それには対潜哨戒機が。
対艦ミサイルを。
ガイグがレーザーを。
対潜哨戒機が消滅する。
ガイグの眼に百里島が。
百里島方向からも対艦ミサイルが。
空自の戦闘機も爆弾を、ミサイルを。
ガイグがレーザーを。
海自のミサイル艇がミサイルを。
海中からは魚雷がガイグを襲う。
ガイグのレーザーにより
戦闘機が、ミサイル艇が消し飛ぶ。
百里島からは重砲による砲撃も。
多連装ロケットがガイグへ。
203ミリ榴弾がガイグを直撃しだした。
ガイグは百里島へすでに十数キロ。
速い。
距離を詰めていく。
ミサイルの来る方向へレーザーを。
百里島の海岸が、
断崖が溶け崩れる。
しかしミサイル発射機も砲も
内陸部にあるため何ら損害はない。
さらにミサイルが。
砲撃が。
ガイグは百里島に上陸した。
「うまくやれよ」陸川が。ブ厚い鉛と
鉛ガラスに囲まれた指揮所内で。
「もう少し島の内部へ入ってから
攻撃をはじめよう。
もし逃げられでもしたら」海来。
当初の図上演習では。
「すでに戦闘機も発進している」空戸。
「だが地下へ逃げられる可能性も」陸川。
「だから一気に」
砲撃はさらに激しさを増している。
ガイグは重砲を見つけたようだ。
レーザーを。
一瞬にして消え去る。
溶岩の海が-----。
「クソ!」
多連装ロケットがレーザーにより。
「はじめろ」青葉師団長が重い口を開いた。
陸自の地対艦ミサイルが撃ちだされた。
通常弾頭だ。
それが正面からガイグへ。
「後方から襲わせます」
ガンマー線発生装置を積んだ
地対艦ミサイルが発射された。
山肌を縫うように。
ガイグの眼を避け後方へ。
そこから方向を変えガイグへ。
ガイグは前方からのミサイルに気を取られ-----。
空には空自の戦闘機が。
海からは護衛艦もミサイルを。
ミサイル艇からも。
ガンマー線ミサイルがガイグへ。
効果は絶大だった。
命中した瞬間。
周囲の空気は電離し
不気味な色の光を放つ。
ガイグの背中付近が溶け崩れる。
ガイグの肉が大きくえぐられた。
ガイグは何が起こったのか。
苦しげに。
後ろを振り返った。
そこへ前方からのミサイルが。
背中へ。
しかしまったく。
あれほどの傷口を直撃しても
通常の新型ミサイルでは。
戦艦大和の1・5倍の威力のミサイルでは。
直径34センチのミサイルに収められた
直径25センチ余りの徹甲弾では。
「いけるぞ」師団長。
「すごい」
東京の陸堀首相たちも。
不安気な表情に生気が戻って来た。
護衛艦からもガンマー線ミサイルが。
ミサイル艇からも。
多数の通常ミサイルとともに発射された。
ガイグへ。
陸自もさらにガンマー線ミサイルを。
通常ミサイルを。
空自の戦闘機も。
ガイグはレーザーを。
数発のミサイルが消し飛ぶ。
ガンマー線ミサイルもガイグのレーザーにより
不気味な色の光を残しながら消滅した。
「あれが」師団長。
「ガンマー線ミサイルでしょう」リョオ。
「一発。無駄にしたか」
しかし。
別のミサイルが正面から命中。
不気味な色の光とともに
ガイグの腕付近へ。
ガイグの左腕が。
さらに後方から。
不気味な色の光とともに。
ガイグの巨大な尻尾が傷ついた。
ミサイルが命中するたびに
ガイグは苦しげに。
動きが急激に鈍くなる。
ガイグは怒り狂ったようにレーザーを。
ミサイルを。
片っ端から墜としにかかる。
ガンマー線の影響が内臓にも出ているのか。
ガイグの口からわずかに血が。
しかしまだ。
ダメージはそれほどでもないようだ。
戦闘機がレーザー誘導のガンマー線爆弾を投下した。
「あれがガイグの腹の中ででも」空幕の空戸。
「そんなにうまくはいかんだろう」陸川。
「それはそうだな」空戸も苦笑い。
ガイグのレーザーで。
戦闘機が、爆弾が。
ミサイルも命中するが通常弾頭だ。
ガイグの頭部に爆弾が。
不気味な色の光とともに。
ガイグの頭部が溶け崩れ、骨がのぞく。
ガイグは空へ、地上へ、レーザーを。
ガイグのレーザーにより
ガンマー線ミサイルが、爆弾が
不気味な光を放ちながら消え去っていく。
ミサイルがガイグの胸を直撃した。
不気味な色の光が。
ガイグの胸が大きく崩れる。
ガイグは崩れるように倒れた。
「やったか」本沢。
しかしガイグはレーザーを。
威力は-----もうほとんどない。
目はうつろ。
何も見えてはいないだろう。
そこへミサイルが。
「あれが最後のミサイルです」陸川。
ガイグはもう。
動けない。
ガイグへ直撃。
ガイグの首へ。
ガイグの首が。
ガイグは空へ向けレーザーを-----吐こうと。
しかし吐けない。
ガンマー線ミサイルの光とともに。
ガイグは、
こと切れた。
首の骨まで溶け崩れながら。
その様子に。
リョオたちは。
呆然と。
陸堀たちも。
ガイグの死骸をジッと見つめ続けていた。
大怪獣 Ⅴ
ガイグ
ー完ー