間にあわせ兵器
東京は。
都内数百か所から火災が発生。
延焼中。
ライフラインはいたるところで切断され
ガイグのレーザーによって無数にできた
溶岩の帯は今も白く赤く
高熱を発している。
地下数メートル程度に埋設されていた
水道管もガス管も全て-----。
消防も手が出ない。
自衛隊はビルに埋まった生存者を
救い出そうとするが。
隊員の大半をガイグとザイドとの戦闘で失い、
救助は遅々として進まない。
他方面からの増援待ちか。
陸堀首相たちは都内へ。
なんとか被害を免れた
ホテルの一室にいた。
そこへ電話、インターネット、無線機を引き込み
臨時の対策本部を設置していた。
リョオたちもそこにいる。
二頭の怪獣による
被害の現状が報告される。
あくまで現段階において
判明した範囲内のモノだ。
さらに被害が広がる事は必至。
「ガイグはザイドを倒した後。
地下を太平洋へ。
現在は日本より三百五十キロ東方の
海底に潜んでいます」海幕の幕僚の海来二佐。
「また来ますか」閣僚の一人。
「おそらく」本沢。
「自衛隊ではもう」枠未。
どうしようもない。
「それで----陸川君たちから報告のあった
例の-----。
堆星先生はまことに残念な事に-----」陸堀首相。
「はい。
どうしようもありませんでした」本沢。
「だが-----堆星教授も-----。
研究資料にさえ。
こだわらなければ-----」閣僚。残念そうに。
「そうだ。
死なずに-----」別の閣僚。
「君たち」陸堀が。
「失礼-----しました。
我々はそんなつもりでは」
「先生の死をおしんで」
「-----」本沢。
「先生は。
あれには。
先生の研究資料の中には。
人類にとっても
ガイグ撃滅にとっても
失うわけにはいかない貴重な-----。
資料があったのでしょう。
一度失われると
二度と得られないようなモノも。
それにまた一からやり直すとなると-----
何年かかるか。
その間に日本はどうなるか。
だから-----こだわられたのだと
思います」リョオ。
堆星教授の死亡に
無念そうに。
指導教授がいなくなった場合。
准教授や助手たちはどうなるのか。
飛ばされるのが落ちだ。
元大学教授の閣僚の一人は
ふとそう思った。
しかし今は。
「そういう事か」全員。
「しかし-----先生は。
その何だね」枠未。
「ガイグ撃滅のための兵器を
我々に残してくださいました」陸川。
「ガンマー線を使ったもののようですが。
詳しい内容は我々には」空幕の幕僚の空戸二佐。
「その説明は。
御口准教授に」海幕の幕僚の海来二佐。
リョオは前へ。
「まずこれをご覧ください」
用意した資料をDVDで。
モニターの映し出される。
「これはその武器の原理図です」
中央に小さな箱が。
そこには金属のターゲットと電極が。
その周囲を金属が覆っている。
「これが」
期待が大きかっただけに-----。
「こんなもので本当に」落胆の色が。
「中央のこの小さな箱が
X線発生装置です。
このターゲットに高電圧をかけて
電子を衝突させるとX線が」
“電子をあてるターゲットには-----
何を使っているのだろうか。
放射性物質を-----か。
するとどうなるか”リョオ。
「こんな事を言うと失礼だが。
私も少し調べさせてもらったんだが。
この話があってから。
これは-----。
このような装置は昔からあるのじゃないかね。
X線を発生させるなどというモノは。
X線管とかいう。
学校の授業で出て来る程度のモノだろう。
専門家の先生に訊いても
みんな首をかしげているし-----。
そのようなモノで」閣僚の一人。
「海のモノとも山のモノとも
わからないようなモノで
本当に大丈夫なのかね」別の閣僚。
「それは。
堆星先生のモノは。
ターゲットに高電圧をかけて
電子を衝突させるというのは
あくまできっかけにしかすぎませんし。
ターゲットにしても複数
使用しています。
もちろん電圧も変えて。
それをきっかけに一次X線として利用し
別の合金なり単体なりの元素へあて、
二次、三次X線を大量に
発生させようというモノです。
核物質も少量ですが使っているようです。
ターゲットに中性子をあててどうするのかは
わかりませんが。
X線のスペクトルを合成し
それのよってガイグの細胞を
破壊するのが目的ですし。
核物質が崩壊する時に発生するX線にしろ。
それらから出て来るX線は-----どのようなモノか。
それが金属にあたって出て来る二次X線も-----」
「X線を発生させ
それを何種類も組み合わせることにより-----か」
「しかしそのようなモノで
本当に奴を倒せるのかね。
専門の先生方も頭を抱えて-----。
それに奴自身
放射能の塊みたいなものだし」
「そうだ。
奴自身ガンマー線の塊なのに。
それのそのようなモノをあてても
意味などあるのかね」
官僚たちも。
「これは堆星先生から聞いた話です。
もっとも私は堆星先生とは
研究室は別でしたので-----。
いえ、なんでも。
それはガイグにとり
都合の良い波長のガンマー線の事を
言っておられるのかと。
しかし中にはガイグにとり
都合の悪いガンマー線も存在すると
お考えいただければいいかと」リョオ。
「そんな-----事が」
「ガイグにとり都合が悪いか。
どういう風に」
「細胞を破壊するような-----です」
「そのようなモノ-----あれば」誰かが。
「波長を短くすれば
いいという事かね」
「いえ、それは-----。
第二周期の人間に対する
紫外線のようなモノの事を
おっしゃられているのでしょうが-----。
とてもガイグを倒せるような
高い周波数のX線は
我々にも作れません。
奴は地球創世時の
環境の中で生まれた生命体ですし。
それで-----うまく-----。
我々でも作り出せる波長のX線を
組み合わせて-----やるしか-----」リョオ。
「なるほど」
「ことは急を要するし、先生。
進めてくれたまえ」枠未大臣。
あまり期待しているようには-----。
早く帰ってくれと言わんばかり。
「はい。
そして-----それによって。
何種類もの金属のターゲットから
発生したX線を。
ある規則に従い配置された
様々な別のターゲットにあてていく。
そのうえで様々な核物質へそれをあて。
それから出て来る様々なX線がガイグを」
“何種類かの核物質の
核分裂により発生するX線を利用しているのだろうが。
ここでそれを言うのは-----。
ガイグ自身。
ひょっとして核爆発の放射能にも
平然としているだろう。
それを-----どういう風に組み合わせれば
倒せるのか”
「これはダメだな」
「他の先生方のモノと-----変わらんか」
片隅でブツブツと小声で。
ささやき合う声が-----いやでも耳に入って来る。
「こんなもののために部隊を展開させた上で-----。
部下に-----生命がけで戦えとは-----
とてもいえません」
自衛隊の実戦部隊の指揮官たちも。
陸川たちをチラリ。
「規則?」
「どのような」
「それは分かりません。
そのデーターを守るために
堆星先生は」リョオ。
「そういう事か」
「それのよって生じた様々な波長のX線が
ガイグの細胞を破壊します」
「つまり何種類もの核物質に
X線をあてて核分裂させて
そこから出て来るX線をかね」
“核分裂は中性子をあてて-----。
しかしX線をあてただけで
核分裂するのだろうか。
まあいいか-----この際”
「本当かね」
「しかし-----それでは核物質を-----。
核分裂させるんだろう。
X線で。
X線で核分裂したかな。
まあいいか」
「量が少ないので爆発はしないですが」リョオ。
「周囲の被害は」
「核分裂か-----君。
それは」
「これは使うわけには」誰かが。
“マズイ”
核分裂と聞いて腰が引けたようだ。
「核分裂と言いましても
ホンの少量ですし
平和利用のモノと変わりません。
実験室で使う程度のモノでしょうし。
そこまで神経質になられることは-----
ないのでは-----。
それにガイグの被害を-----考えれば」
「なるほど-----しかし-----」
「爆発もしませんし。
ただ-----大量のガンマー線が
飛び散りますし。
それによる被害は予測できかねます」
「なるほど」閣僚。
「ガイグによる被害か」
「実験室ねえ」
「しかし、それで本当にあのガイグが」
「奴は大砲の弾丸が当たっても。
ミサイルも何も通用しないんだよ」
「君は知らないかも知れないが、
あのミサイル。
戦艦大和の主砲の1・5倍の威力があったんだ。
それをあれだけ受けても-----全く」
「まさしく怪獣だ」
「それはこのDVDをご覧ください」
DVDデッキにディスクを。
「御口先生でしたね。
あなたひょっとして。
“ああのガイグは怪獣だ。
自衛隊の持つ現有兵器などで倒せるものか。
-----まあこれは実際そうなのだがね-----。
だからこの“間に合わせ兵器”なら必ず倒せる。
怪獣とはそういうモノだ。
怪獣は間に合わせ兵器で倒すものだ。
怪獣ならどんな間に合わせのモノでも。
“間に合わせ兵器”
なら倒せるなどと思っているのか
どうかは知らんが。
そう主張している他の学者-----。
いや-----何と言うか-----。
オモチャのようなモノを
持ち出して来て-----。
大砲で撃たれても何ともないモノを
倒せると言っているような
訳の分からん連中と-----。
アッ、イヤ-----。
先を続けてくれたまえ。
そういう連中ばかり
相手にしているものだから」ブツブツと。
学者にも変わった人は多い。
この連中もそうに違いない-----
という表情がありありと。
それを無視してリョオは。
「これは堆星先生が。
手に入れたガイグとザイドの肉片を
使って実験し-----。
その様子を我々がスマフォを使って
撮影したものです」
DVDが始まった。
「ご覧のように。
装置は厳重な鉛製の実験ボックスの中に
入れてあります。
そしてその中のあの-----。
これも鉛製ですが-----。
あの小さな金属ケースの中に装置が」
「あの小さな穴の開いた」
「はい。
そこへガイグとザイドの肉片を入れます」
DVDの中の堆星が電源を入れる。
小さな鉛の箱の穴から。
周囲の空気が電離し
不気味な色に発光を。
ガイグの。
ザイドの。
肉片が。
見る間に崩壊し始めた。
「すごい」
「ンー。
今の説明通りというのは信じがたいが。
これは-----」
「これで日本は」
「さっそくこれを使って」
「これで〇〇サイエンティストはこの先生に。
いや堆星先生に決まりだな」
「やっと出て来てくれましたか。
いや、最初から登場してくれていましたか」
小声でひそひそと。
「その〇〇サイエンティストを
最初から押さえていた我々の勝利か」
場の空気がガラリと変わった-----ような-----。
「マスコミから隔離しておいて正解か」
「マスコミが出してくる先生方と
丁々発止という考えもあったが」
「我々の仕事は
結果しだいなんだが」
「まあそうだが」
「まあ、全部押さえていれば-----」
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる-----か」
「慧眼と言ってくれ」
「その先生方の
訳の分からんたわ言を
我慢して聞いてきたかいがあった
という事ですか」
「あの先生もこの先生も
〇〇サイエンティストではなかったわけか」
「堆星先生が-----」
「では学会追放は堆星先生だけで
他の先生は-----」
「安泰という事に」
“なるのかな。
よくは分からんが”
「それは学者さんたちの間での問題だろう。
我々には」官僚。
「なるほど」
「こう言ってはなんだが。
堆星先生もお亡くなりになられて-----」
片隅で-----口々に。
「いや-----だが-----。
実験室ではうまくいっても
大型化するとなると」誰かが。
「エッ!
実験室でうまくいけば
すぐにでも大型化、実用化できるのでは-----」
「それは-----。
その手のキワモノ映画の中だけだろう。
実際には」
相当エライ目にあってきているらしい。
「あの程度の大きさの肉片を
分解するのでさえ相当な電力が必要なのだろう。
それをあの巨大なガイグ相手に使うとなると-----。
いったいどのくらいの電力が必要となるのか」
「あの箱のデカいのを造って
そこに誘い込もうとでもいうのだろう。
ガイグを」
「いえ、そうでは」リョオ。
「違うのかね」
「ミサイルに組み込むつもりです」陸川。
「どうやって」
「ですから-----堆星先生も
相当ご苦労なされたようです」
「ミサイルにか-----」
「できるのかね」口々に。
「そちらで来たか」
「大量のX線を瞬間的に
放出させなければなりませんので」リョオ。
「どうやって」
「それで核物質か」
「高電圧が必要なのはX線管の部分ですし-----。
X線管はあくまできっかけですし」
本当にそうなのかどうか
堆星先生がいない今は-----。
「電力を少なくするために
何らかの方法がとられているらしいのですが
私にはわかりかねます。
それにミサイルに組み込むとなりますと
使える電力もごく限られたものになりますので-----。
事によると中性子を-----。
イエ、これは私自身聞いておりませんので。
ガイグの細胞から取り出した
ルシフェリンやATPを使った可能性もありますが。
私の推測です。
気にしないでください」
「ガイグの」
「そんなものを」
「いえ、はっきりとしたことは何も」
中性子やガイグの細胞と聞いて
乗ってきたようだ。
「分解して調べてみては」官僚。
「そのような暇はないでしょう。
それに元通り組み立てられるかどうか。
もし分解したせいで
作動しなければ大変な事に」リョオ。
「それはあるか」
「実験装置も先生とともに
失われてしまいましたので。
他にも問題が」リョオ。
「それで実際に使えるところまでには-----
完成したのかね」
「はい。そうなのですが」
「だったら」
「まだ何かあるのかね」
「そのくらいの困難は
この手のモノにはつきものだし」
「自衛隊の装備品にしろ。
それがこの手のモノなら-----」
どうなるのか。
「もちろんなんとかなるんだろう」別の官僚。
「はい、いえ。
ご覧のように装置自体が小さく」
装置を映したDVDモニターを指しながら。
装置の使用実験も
堆星の手でされている。
「これがそうかね」
「すごい」
作動と同時に不気味な色の光が-----。
ガイグの細胞が。
全員、無言。
うなった。
「これならば」
「他に何か問題でも」
「爆弾に組み込め-----
いやミサイルか-----
それに組み込めないとか」
「いえ、ミサイルにも爆弾にも
組み込むにはちょうどいいくらいの大きさです」陸川二佐。
「堆星先生はその点を考えて
この大きさにしたと
おっしゃられておりました」リョオ。
「それは」
「しかしそのために問題も。
装置自体の大きさが小さいため
一発ではあの巨大なガイグを倒せないと-----
言っておられました」
「一発では」
「じゃあどうするのかね。
一発しかないのかね。
その装置は」
「いえ、十発あります」陸川。
「それは-----よかった」
「それで、その十発でならば-----
大丈夫なのかね」
「はい、四五発あれば十分かと」リョオ。
「それならば」
「しかし-----。
それはあくまで命中した時の話です。
何らかの理由で命中しなかったり、
装置が作動しなければ」それと。
「とすると」
「十発という数字はギリギリかと」
「途中でミサイルの場合。
撃ち落とされることもあるか」
「ミサイル本体が故障するかも」
「はい、爆弾でも。
それを積んだ母機が墜とされる事も」
「しかし今、それを言っても」
「もちろんそうです」海来。
「一発残しておいて
後で調べるという事も-----
出来んわけか」官僚。
「はい、ギリギリですから」
「我々もそうしたいのはやまやまなのですが」
「もしそうしたために
ガイグを撃ち漏らすという事にでもなれば-----」
「もちろんそうだろう」
「それでその。
ミサイルや爆弾には
いつまでに組み込めるのかね」陸堀首相。
「それは今。全力を挙げて。
ですが-----爆発させるわけではありませんので-----。
信管は使えませんし。
着弾と同時に電源スイッチが入り
その状態が最低数分の一秒間
続かなければなりませんし。
それに相当な電力を要しますので
それをどう供給するかも。
まあ堆星先生が我々でも
何とかなるようにしてくれていますが。
先ほども言いましたが。
それでも相当な電力ですし-----。
それで今どうするか。
メーカーとも相談しています」陸川。
「そういう事か」
「はい。
命中のショックで装置が壊れても
電源や配線が切れてもおしまいですし」海来。
「そのためにメーカーの方で
命中時のショックに耐えられるように研究中です。
ゴムで覆うなり何なりすればいいそうですので」海来。
「電力にしても
何とかなりそうでと」
「しかしそんな事で間に合うのかね」
「そうだ。
奴にまた上陸されては。
太平洋にいる今、使わなくては」
「それは-----」陸川。
「海中で使えるかどうか」リョオ。
「どういう事かね」
「海中で使えるのじゃないのかね」
「いえ、海中と大気中では。
海中での使用を想定しては
造っていませんので-----。
どうなりますか。
わかりません。
海中で使ってもし海水が
装置の発生させるX線スペクトルの
一部でも吸収してしまうという事にでもなれば-----」
「原発でも水で
中性子その他を遮断しているか」
「ガイグに対して効果がなくなるわけか」
「はい。その可能性も-----。
あの実験装置が残っていれば
それも検証できたのですが。
今となっては」
無念そうに。
堆星先生が生きておられれば。
「そういう事か」
「じゃあ、上陸してから」
「そうなります」
「街中で使って大丈夫なのかね」
「いえ、それは-----。
ガンマー線が出ますので。
放射性物質も飛散し-----。
ガイグの細胞に対しては-----
奴はガンマー線にも非常な耐性があります。
そのためガンマー線のスペクトルを使って
破壊しますので、
近くで使用しなければ効果がありませんが。
人に対しては-----。
人は放射線に対して
非常に弱いですし。
どうなりますか。
とにかく非常に危険です。
紫外線など比較になりませんし」リョオ。
「そんなものとても街中では使えないじゃないか」
「じゃあどうやって」
「人のいないところへ
おびきだすしか」陸川。
「どうやって」
「それは」陸川。
「名古屋や東京での
ガイグの動きを分析した結果。
どうも奴は
我々の攻撃に対して向かって来る
傾向にありますので。
いえ-----いつもではありませんが」それと。
「それを利用して」海来。
「そういう事か」
“うるさがってか”
「あれだけ撃てばな。
アッ、イヤ」
“人間でも-----。
あれだけうるさくされれば-----。
そうなるわな”
作戦は始まった。