対策
本沢たちが帰った後。
防衛省内では。
他の専門家の先生方にも話を伺ったのだが
どれもこれも。
そしてメインの議題は。
どういうわけか。
「信じられん話だが」陸堀首相。
はっきり言わせていただいて
今の我々には。
こう言っては失礼ですが」
前置きして。
「絵空事のような話ですし」
「それを信じろという方が」
「無理があるか」
「あのような-----失礼だが。
訳のわからない方々に。
あのガイグですか。
その化石をまかせておいてもいいのかと」
「確かに」
“まともだ”
「第五周期に
核物質云々ですから」
「すべて推測ですし」
「それはそうだ」
全員どう判断していいのか。
「あの本沢-----先生かね。
それに堆星とかいう先生。
大丈夫なのかね」
「学会での評価は。
マサカ学会から追放されたような
〇〇サイエンティストでは」
その手のキワモノ映画では-----。
この手の怪獣について
あれやこれやと自衛隊相手に
解説する科学者は必ずそうなっている。
いや-----解説する方はマトモで
倒す方が○○サイエンティストか。
まあいいか。
パターンはいろいろある。
しかし今回のあの先生方を見る限り。
解説する方も〇〇サイエンティストだろう。
「もっと-----。
その筋の一流の
専門の先生にお願いしては」
「それはいい。
遺伝子工学か。
いや、物理分析ですか。
その筋の」
「ですがその筋の専門家の誰に聞きましても。
古生物学では本沢先生が。
物理分析では堆星先生が第一人者だと。
遺伝子工学でも
あの先生がおっしゃられていた方々が。
第一人者と言われる先生方には
我々も連絡を取ったのですが。
すでに本沢先生からの依頼を受けた後でして。
何か月も前に
分析済みだと。
例の化石の細胞を使ってです。
それで。
その結果を送ってくれるように依頼を。
それと新しく手に入れました
-----ガイグですか。
それとザイド-----の細胞を使って
分析していただけるように
お願いしたのですが。
その結果はまだ」統幕の幕僚。
「第一人者か」
「よく捜し出してきましたね。
その第一人者とやらを」官僚。
「はい。
本沢先生に-----
教えていただきました」
陸幕が引いた。
全員タメ息が。
「大丈夫なんですか。
その第一人者」官僚。
「-----」
どう判断していいのか。
全員-----頭を------。
「やはりテレビに出ている先生を」
「しかしスズもアンチモンもテルルも」
「出て来ないか」
「スズもアンチモンもテルルも
出て来ないような
先生をお呼びしても」
「しかし出てきたら出て来たで」
「どうしよう」官僚。
「あの先生方と同じでは。
もっと違う。
常識的な考えを持っておられる先生は」
「-----」
「しかしあの本沢先生。
本当に第一人者なのですか」
「さあ。
我々には」陸幕。
「昨日までは第一人者でも。
今日からは〇〇サイエンティストの
仲間入りという方もいるのでは。
アッ、イエ」
「あのような事をこのような席で」
「それはあるか」
“よく言えたものだ。
しかし-----それは我々の所為かな。
嫌がる先生方に
無理やり言わせた感もあるし-----。
しかしこんな話。
いくら無理矢理でも”
「とにかく相手が第五周期生物だろうが
何だろうが。
そのような事はどうでもいい事ですし。
要はあの怪物二匹を
倒すなり何なり出来ればいい事ですし」雪川統幕議長。
「あの怪獣の正体云々は
そのあとでゆっくりと
学者先生方に論じていただけば
いいのでは」
「それはそうだが。
できるのかね。
正体もわからずに」首相。
「それは-----」雪川。
「情報によるとあのガイグにザイドかね。
二頭ともこの東京に近づいてきている
そうじゃないのかね」閣僚に一人。
怪獣の名はすでに
マスコミがそう報じている。
例に祠の絵をもとに。
まあかまわないだろう。
「そうだ。
今日、明日にも奴らの上陸は迫っている。
その現状で。
何か有効な対策でもあるのかね。
このままでは名古屋の二の舞だよ」
「名古屋では何ら有効な対策も
打てなかったじゃないか。
何か奴らに対して効果のある
攻撃方法はないのかね」
雪川たちも無言。
「奴らには。
最新鋭の超音速対艦ミサイルも
全く効果が-----。
後は-----120ミリの戦車砲くらいしか-----
ありませんか」陸幕長。
「そんなもので大丈夫なのかね」
「あの戦艦大和の主砲の1・5倍の威力という
ミサイルでもダメだったんだ」
「それは-----」
「それより例の化石の怪物かね。
あれのレントゲン写真。
いや、CTか。
それを手に入れたんだろう。
それを分析して何か弱点でも」
「我々の持つ兵器でも
倒せるような弱いところでも
見つけられないのかね」口々に。
「それを見つけられれば
あの先生方も役に立ったわけか」
「それはそうだ」
その手のモノの定番では必ず。
そういう弱点の一つや二つ
あることになっている。
どうしてかって。
そうしておかなければ
やっつけられないじゃないか。
「これですか」
スライドを。
そこにはガイグの身体の
X線断層写真が。
「そう、それだ」
期待を込めて。
「ミサイルなり何なりで
撃ち抜けそうなところは」
「このようなモノ。
いくら見ても。
奴は腹の中で爆弾を爆発させても。
腹の中以上に弱いところなど-----
ないかと」空幕長。ポツリと。
「それは-----そうか」
「確かに-----そうだ」
「そういう事か」
「目に爆弾が命中しても
何ともなかったか-----確か」口々に。
「それ以上に弱いところが
あるわけないか」力なく。
「はい。ですから-----。
弱点と言っても。
我々の持つ現有兵器では」
「君。君たちがそんな事では」
「どうやって自衛隊の持つ
現有兵器で倒せない
あの怪獣を倒すか。
それが一番重要なのだろう。
それを-----そんな事でどうするね」
「それが出来てはじめてその手のモノは
成り立つんだし。
アッ、イヤ-----。
何でも-----。いや。
自衛隊の存在意義があるのではないのかね」
あわててゴマ化す。
“いや待てよ。
学者の先生の存在意義か。
自衛隊ではなく。
映画の中の自衛隊は-----常に。
まあいいか、この際。
そうしておこう”
「いえ、もちろん。
我々としても」月空空幕長。
「どうするね」
「奴が東京へ来るのならば。
まだそうと決まったわけではありませんが。
東京に全航空戦力を集中して」月空。
「撃って撃って撃ちまくるわけか」
「はい」月空。
「そのためにわが陸自でも。
北海道や東北からも
戦力を引き抜いて。
部隊を東京へ移動させております」陸原陸幕長。
「海自におきましても
新型の超音速対艦ミサイル搭載の護衛艦を」海月海幕長。
“またあの戦艦大和の1・5倍か”
「北海道からは戦車連隊。
地対艦ミサイル連隊等を。
新型自走砲を含めて。
空自、海自とも合同で
集中攻撃を加えれば-----
いかに-----。
第五周期生物ですか。
奴でも」議長。
「追い返すくらいはできるか」
「うまくいけば倒せるか」
「なるほど」
「それで。
そんなに北海道や東北から戦力を引き抜いて
-----我が国の防衛は大丈夫かね」閣僚。
「それは-----充分に配慮はしていますが」議長。
歯切れが悪い。
「今それを言っても。
とにかくあの二頭を
どうにかしないと」枠未。
全員。
「しかし-----あの本沢先生たち」官僚。
「何か」
「いや。なんでもない」
マサカ対抗策などあるわけも。
マンガじゃあるまいし。
「本沢先生には
これからもご協力いただく事が
あるかも知れませんし。
陸川君はじめ
何人かをつけてあります。
何か奴を倒すヒントでもあれば
すぐに連絡が」陸幕長。
期待はできないが。
「それと-----他の専門家の先生方にも
様々なご意見をいただきましたが。
そちらの方は」
「あの先生方か。
テレビに出ていた」
「マトモな事を言われた
先生方もいましたか」
防衛省にご足労いただいた先生方は
本沢たちだけではない。
「そちらの方々から
何か対抗策でも」
その言に全員顔を顰めながらも。
「それはあるか」
あまり期待しているようには見えない。
「それはそうか。
あのもっともらしい意見を
言われた先生方か」
「なるほど。
それなら」
しかし何か的外れなような。
「ご心配なく。
そちらの先生方にも
それぞれ何人か張り付かせておりますので」
「しかし相手は怪獣だよ。
マトモじゃないんだろう」
「それはそうか。
それをマトモな意見で-----倒せるとは。
とても。
奴は大砲の弾丸を受けても。
マトモじゃないんだよ。
マトモならとっくに死んでる」
「なるほど」
「しかし限度もあるだろう。
あの本沢先生ほど
マトモでなくなれば-----」
“納得”
「どの程度マトモでない考え方を
述べられた先生のご意見を聞くべきか。
そういう事になるのか」官僚。
「本気か」
「まさか」
エライ事になって来た。
「そうすればあの怪獣を倒せるのかね」大臣。
「それは-----」
「ないか」
どうしようもない。
“これが映画なら。
まともな意見を述べる学者の
考えてくるようなモノは
現有兵器と変わらんだろう。
そんなもので倒せるわけもないし。
それではファンが許さない。
マトモとマトモでない意見の
中間か。
それはあくまで現有兵器に
毛の生えた程度のSF兵器だし。
そんなもので怪獣を倒せば
何を言われるか。
やはりまともでない。
“間に合わせ兵器”
に頼るしかないのか。
何か考えなければ。
これではこの映画-----大変なことになる。
しかし下手にそのようなモノに乗って
勇み足ではもっと大変なことに。
しかしそれを怖れていては。
何とかうまく-----だ。
エッ?
これは現実か。
連日の徹夜で。
その手のキワモノ映画を
子供に連れられて-----昔は親にだったが-----
見るたびに思っていたことが。
現実と混同して。
しかし現実には-----。
やはりマトモな意見の
兵器がほしい。
マトモは意見で奴を倒せないものか。
現実に出て来たものならば
怪獣であろうが何であろうが、
マトモな兵器で倒せてしかるべき
ではないのか。
しかしそれではあの怪獣。
怪獣ではなく
ただの“巨大生物”になってしまうのでは。
まあいいか。
とにかく我々としては
あの怪獣を-----倒せばすむ事だ。
倒した後で
あれは怪獣だったのか。
巨大生物だったのかを考えればいい。
何を基準に考えるかって。
もちろん現有兵器で倒せたか。
マトモでない意見の
学者の先生の考えた
“間に合わせ兵器”で倒せたか。
に決まっている。
しかしその中間の。
現有兵器に毛の生えた程度の
SF兵器で倒せたとすれば
あの生物-----。
どうなるのだろう。
怪獣か。
巨大生物か。
問題だ。
しかし-----戦艦大和の主砲の1・5倍は。
現実にあるのだから
現有兵器なのだろう。
まあ映画なら
あれが現有兵器に毛の生えた程度の
SF兵器となるのか。
「しかし-----あのガイグの細胞から出て来た。
スズにアンチモンにテルルかね。
奴のアミノ酸も
それでできているんだろう。
それを説明できる
先生もいないんだろう」
「はい-----そうですが」
「夢を見ているようです」
「堆星先生に指摘されて
はじめて-----。
他の先生方も気づいたくらいですから」
「それでは期待できるわけも」
「ないか」
「まあ-----あのようなモノ。
急に持ち込んでもすぐには。
そこまで調べられるかどうかという
問題もありますか」
「なるほど」
「しかし。
堆星先生の説も
説明になっているとは-----とても」
「まあそれは-----そうだが」
どうしようもない。
自衛隊の部隊の移動は
既に始まっていた。