プロローグすらもない
「恋は一目で落ちるもの」と「運命の赤い糸でつながれた人が必ずいる」と先人は言う。
よく、ドラマや漫画でみる表現としては、雷に打たれたようにやら、その人の周りだけ何が雰囲気が違うとか、胸の鼓動が早まるだとか……
様々な恋の始まり方があるようだけれども、悲しいことに、この世に生まれ早27年。そんな便利な機能が働いたことなど一度もない。運命の赤い糸があるのなら見えたほうが社会的もいいだろう。
やれ晩婚化だの草食系だの最近の若者は恋愛に興味がないだの。赤い糸があれば即時解決しそうじゃないか。と現実逃避をしてしまいたい程度には恋愛ごとは苦手だ。
今まで俗にいう恋愛というものをしたことはもちろんある。恋に恋してるという言葉がぴったりな一方的な片思いもしたし、告白されるという大イベントも発生した。
バイト先の先輩で、男性として全く眼中になかったその人は、真っ直ぐに私の目を見て
「好きだから付き合って欲しい」
と恥ずかしさなんて感じさせず、堂々と自分の気持ちを伝えてくれた。
私なんかを好きになってくれたという事が正直すごく嬉しさと、同時にどうして私がいいんだろうという一抹の不安。言いたいことは色々とあったけど
「よろしくお願いします。」
としか言えなかったあの日。
バイト先の先輩が彼氏という存在に変わった日。
そして、彼が実は同じ大学の更には同じ学科の人だと知った日。
お陰様で、彼氏という存在がいたこともあった。付き合い始め、5年間。
付き合ってみたものの、これと言って思い出に残るようなこともなく、付き合う前とあまり変わらない距離感。
デートもキスもしたけれど、もう一段階進んだ関係にはなぜか踏み込めず。
緩やかに進む時間とは反対に縮まらない距離。「付き合う」ってなんだろうと思っていたら「好きな人ができたから別れよう」と愉快な通知音とは正反対の内容がスマホのディスプレイに表示されていた。
文字を打つのも面倒だなとスタンプで了解と返し5分後についた既読で終止符が打たれた。始まりもあっけないと終わりもあっけないものなのかなと、笑ってみたものの、心の片隅にすっと隙間が空いたような虚しさが「彼が好きだった」という自分も知らなかった事実を教えてくれた。
恋心というキラキラと眩しい思いを直視することができなかった自分の弱さ。
彼のように真っ直ぐ見ることができたなら、また違った道があったのかなと考えていた時もあったが、卒論や就活そして、社会人になっていくなかでそんな風に考えていたことすら忘れ去っていった。
気が付けば、仕事が恋人と誤魔化すのも限界な年頃に。
アラサーという言葉がチラチラとアピールし始めても、特に変わることなく始まった今日。
普通に何事もなく、定時からやや遅れた時間に仕事を終わらせ家で来るべき明日への準備を着々と済ませる。
後は寝るのみとパックを外して上げた目線の先にあるのは見慣れた顔の見慣れない姿。
「お疲れ様です。」
ほんとは叫び声の一つでも上げたいものだが、会社に勤めて4年目。
見上げた顔が職場の上司であると、出る言葉はいくら相手の姿が上半身裸であろうとも、習慣として染み込んでいる言葉。
互いにまじまじと呆けた顔を見合った結果
「伊吹。お前痴女だったのか。」
なんていわれたらたまったもんじゃなく。
「課長は随分と愉快な発想をなさるのですね。」
なんて憎まれ口を叩くので精一杯だった。




