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短編小説

贈り物

 ついこの間、ようやくお嫁さんを貰ったと思ったのに、早いもので、もうすぐ子どもが生まれるんですって。

 全く。そう言う事は早く言うものよ。

 お兄ちゃん達は早々に結婚して、孫も一番上はもう高校生だと言うのに、やっぱり末っ子はマイペースなのかしら。

 でも、幾つになっても何人居ても、やっぱり孫は良いものね。


 それはそうと、ねぇお父さん。お祝いはどうしましょうか。

 私がお兄ちゃんを生んだ時、確かお義母さんはお弁当を持って来てくれたのよね。

 小さく俵型にしたお赤飯と、ちゃんと素材ごと別々で炊いて作った筑前煮。それと塩分控えめの体に優しい出汁巻き卵。

 あとは何だったかしら?

 あらあら駄目ね私。もう何十年も前の事だし、すっかり忘れちゃったわ。

 でも、全部丁寧に丁寧に作られたお弁当だったのは覚えてる。

 いつも通りのお義母さんの味だったけど、心の底からお祝いしてくれてるのが分かる、本当に暖かいお弁当だった。


 ねぇ、お兄ちゃん達の時は何を渡しましたっけ?

 確か……そうだ。お父さんの調子が悪い時で、買って来たオムツと薯蕷饅頭で済ませてしまったのよね。

 あぁ、思い出したわ。

 あれにはお父さん、安静にしてなきゃいけないって言われてたのに、声を張り上げて怒ったもの。

 初孫の誕生だって言うのに、あり合わせの物で済ませるとは何事だ! ってね。

 でもね、最近は可愛くラッピングされた贈り物用のオムツもあるし、私も三人育てたから分かりますけど、少し嵩張るけど、オムツは本当にいくらあっても困らない物なんですよ?

 確かに、お赤飯やあんこを炊いてあげられなかったのは未だに後悔してますけど、薯蕷饅頭も喜んでくれていたもの。

 いくら縁起が良いからって砂糖を贈るのもどうかと思うし、今回も甘い物を贈ろうかしら。

 本当はね、おんぶ紐をこさえてたんだけど、最近は何でも良い物があるのねぇ。

 私が作ったおんぶ紐じゃ、肩が痛くなっちゃうかも知れないわね。

 昔はおんぶ紐抱っこ紐何て、家にある物でちゃちゃっと作っていたんだけど、最近は本当に便利になったわ。

 

 そうそう。便利と言えば赤ちゃん用のお風呂にお布団よ。

 何でも、最近は買わないで借りてくるんですって。

 確かに買ってもすぐつかわなくなっちゃう物だけど、そんな物まで貸してくれるなんて驚いたわ。

 赤ちゃん用のお風呂なんて、少し大きめのタライか鍋があればそれで代用してたし、無ければ一緒にお風呂に入ってたわよね。

 うちではお父さんがお風呂に入れる担当だったから、私は随分楽をさせて貰いましたけどね。

 お布団も特別用意しなくても、とは思ったのだけど、最近はお布団じゃ無くてベッドだったりと、やっぱり私達の時とは勝手が違うらしいの。

 アパートやマンションでもペットを飼ってる家も増えたから、お布団じゃ無くてベッドに寝かせるのが安全なのかも知れないし、ただの流行の問題かも知れない。

 うちは猫を飼っていたけど、気にせずお布団に寝かせてたわね。

 むしろ、お兄ちゃんが泣き出すと猫がひょっこり帰って来てあやすもんだから、私としては助かってたんですけどね。


 あぁいけない。思い出話をしてちゃ駄目。

 教えてくれなかったけど、あの子、予定日はもうすぐだって言っていたもの。

 お饅頭を作ってあげたいけど、あの子の事だから生まれてから報告してくるに違いないわ。

 となると、いつになるか分からないし甘い物は難しいかも知れない。

 そうだわ。時期も良いし、あそこの桜餅なんてどうかしら?

 ほら、公園の所の坂道をのぼった所の神社さんに売ってる桜餅。

 あそこの桜餅、お父さんも好きでしょ?

 

 あともう一つ、やっぱり手作りの物も渡したいわよね。

 そうね……手袋にしようかしら。

 赤ちゃんは顔を引っ掻いちゃうから危ないのよね。

 うふふ……そう言えば、お父さんったら昔、引っ掻かない様にってずっと手を握ってた事があったわよね。

 貴方によく似たマイペースな末っ子坊主だし、放っておいたら同じ事をやりかねないわ。

 よし、裁縫仕事はお手の物。

 だてに四十年主婦をやってないわ。

 今からなら一個二個、三個は作れるかしら?

 うんうん。使わなくなった布ならいっぱいあるわ。

 いつ生まれても良い様に、せっせとこさえましょうか。


 そうだわ。ねぇお父さん、折角自由にあっちこっち行けるのなら、義娘が産気付いたらこっそり夢枕に立って教えてくれないかしら?

 私、貴方だったら絶対に気付くと思うの。

 私が起きてたら、そうね……鳥になって、床の間に活けてあるお花をつつきに来て。

 あら? お花は嫌?

 しょうが無いわね。じゃあ貴方の写真の前に、切った蜜柑でも置いておきますよ。

 居間で蜜柑でも食べながら、昔みたいに上機嫌に一つ歌でも歌って下さいな。

 うふふ……。孫にも会えるし貴方にも会える。

 出来れば顔が見たいから夢に出て欲しいけど、我が儘は言わないわ。

 これから生まれる孫の方が重要。

 早く可愛い顔を私とお父さんに見せてね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 贈り物読ませていただきました。とても心温まる良い作品でした。ラム男爵には感服させられるばかりです。 [気になる点] 無し。これまたお見事です。 [一言] 期待してます。と言ってもプレッシャ…
2018/08/07 22:09 退会済み
管理
[一言] とても愛情にあふれた、ほっこりできるお話でした。「お父さん」とのラストのやりとり(独り言ではありますが)が、本当にあたたかくて。 きっとお父さんはちゃんと知らせにきてくれますね(^^) 素…
[良い点] とても温かく、丹念に綴られた物語に、読んでいるこちらの胸まで温かくなりました。出産祝いに何を贈るか、悩みますよね。お母さんならそうでもないかと思いきや、母には母の悩みがあるようで。おんぶ紐…
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