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 父の体調はその後一進一退で、抗癌剤の副作用により体毛も抜け落ち、食欲不振も続きあっという間にやせ細った。それでも、癌に効く食物を積極的に食卓に並べると

「これが効くんだよ」

と箸をつけるのだった。


 GWの頃、久しぶりに父が私達兄弟姉妹に全員集合をかけた。とてもよく晴れた日だったのを覚えている。

「みんなで写真とるべ」

と、庭先に父と母、その周りを子供達と孫二人。

出来上がった写真は、まるでどこかの保険会社のCMみたいな、幸せな家族の一ページの様だった。

 


 春が過ぎ、夏を迎える頃、体調が良くなったように見えた父が隣県の魚市場に行きたいと言うので、みんなで出かけることにした。

観光客で賑わう市場の店先を冷やかして歩きながら、好物のスルメや魚介を箱詰してもらった後、ふと父が

「疲れたな…」

と足を止める。母の手を引いていた私が振り返ると何だか顔色が青白い。

「帰ろうか?家でイカ刺しにしよ」

と離れて歩いていた妹達を呼ぶ私の横で

「これが最後なんだかな」

と寂しそうな声がした。



 父は五人兄弟の末っ子で、この時までに他の兄弟全員を看取り、ただ独りになっていた。兄弟間でも色々あり、絶縁していた頃もあったのだけど、晩年、お互いに歩み寄る事ができ、姉と兄の最期を取り仕切っている。

この頃から、今で言うエンディングノートの様な覚書をするようになり、同時に念願の墓所の改築を終えた。家の墓所は土葬もあって広さだけはあり、黒々と光る石に思わず

「迫力あるね〜」

と褒めながらも内心、今度は拭き上げるのに苦労しそうだよ…と溜息の私。

お盆に新しくなった墓石を前に

「ここさ一番に入るんだな」

と満足気に父が笑っているのを見て

「洒落になんないから!」

とみんなで笑った。


 立派になった墓所に満足してしまったのだろうか。

父の体調は急激に悪くなっていった。

片肺だけで維持している身体。夜中にトイレに起きると、リビングのソファに座っている父をよく見かけるようになる。大丈夫かと問う私に

「息、苦しくてよ…」

と眠れない夜をつまらなそうに過ごす父。

 ある時、私は時代劇のDVDを借りられるだけ借りてきた。昼間でも夜中でも眠れないのなら

「鬼平観る?」

と。

アナログな父はテレビのリモコンしか使えないから、いつも一緒に鬼平を観るようにして。母も時代劇が好きだから、時々、暴れん坊も。


 一見穏やかに過ごしていても、癌の進行は止まることなく父の身体を蝕み、秋の風が吹く頃、とうとう脳に転移した事を知らされる。脳に転移したら、もういつ意識がなくなるかわからないからと、そのまま入院することになる。



 秋は私達家族全員が、来るであろうその日に向かって覚悟をし始めた季節で、それまで父を中心に一つだった家族が、分裂してバラバラになりはじめた季節でもある。



メインの和ちゃん編まで辿り着けるのか…

どんどんダークになってくよ〜


ここまで読んで下さりありがとうございます。

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