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芸は身を助く

芸は身を助く

作者: 秋野空

「い、いやぁー」


逃げる!逃げる‼

人生の中でここまで必死に走ったことなんか無いんじゃなかろうかと思いながら、今にも挫けそうな足を体を叱咤しながら、瞳は無我夢中で追いかけてくる異形のモノから逃げていた。


異形のモノそれは多分、ゲームや小説等でお馴染みのモンスターと呼ばれるモノだろう。


体色は緑色、手には棍棒、身長は小学生の低学年ぐらい。

恐らくゴブリンとかいう種族だろうと少ない知識で判断を下す。


幸いそれほど足は早くないのか、なんとか追い付かれずにすんでいるが、後ろの気配は減るどころか増えていく一方。


瞳の叫び声がモンスター達を集めているのか?

それともゴブリン達が時おり何かを呼んでいるような声を出しているから、そのせいなのか。

もしかしたら両方かもしれない。


周りは何処まで行っても、代わり映えしない森の中。

木の根に足を取られそうになりながらも、とにかく必死に逃げる。


あと少し、もう少しいけば助かる。


なぜか漠然とそんな思いに駆られながら手足をこれでもかとばかりに動かし逃げていた瞳は突然広場のような開けた場所に出て助かったと安堵して足を止めた。


助かったとなぜ思ったのか分からないが、とにかくその時は心の底から助かったもう大丈夫と思ったのだ。


もっともすぐに周り中をゴブリンと狼に囲まれていると気付いて「あっ人生終わった」と感じ膝から力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。


「立て!」

そんなことを言われても、もう体は限界で指一本、動きそうにない。


「チッ!仕方ねぇな」

近くから聞こえた舌打ちに驚いて辺りを見回すも目に写るのはゴブリンと狼だけ。

絶望のあまりの幻聴かとボンヤリ考えていたら、ショルダーバックが動きだし中から

「開けろ!!」の声。


えっ?えっ?と戸惑っていると

「死にたくないなら鞄を開けろ!!」

と強い口調で言われ「はい!」っと、反射で返事をかえしながらあたふたと鞄を開けると中から光と共に剣を携えた金髪の青年と黒いフード付きのローブで頭をすっぽり隠した人物と対照的な白いローブを着た水色の髪の少年が現れた。


「はい~???」

これは夢だ!やっぱり夢だと現実逃避しかけた瞳に水色の髪の少年が近付いてきて

「マスター現実ですからしっかりしてくださいね。それと直ぐに治癒魔法かけますから」

とにこやかに言われた。


「マスター?」

それは私の事ですか?と副音声で問い掛けながら自身を指差す瞳に水色の髪の少年は「そうですよ」と軽く答えて手にした杖を瞳に向け「治癒」と一言呟くと杖の先から柔らかな光がほとばしり瞳の体を包み込んだ。


「あっ…」

とたんに身体中の脱力感が消え、先ほどまでズキズキと痛みを訴えていた足の痛みも消えた。

何が起こったのかと自身の体を訝しげに見る瞳の耳にギャーとかキャインとか言った悲鳴が聞こえ瞳はその場で硬直した。


「大丈夫ですよマスター。あなたのイメージ通りに具現化出来ましたから。ダイヤは最強の剣士でルビーは究極の黒魔法使い。かくいう僕アクアも至高の白魔法使いですからね」

語尾にハートマーク付きでフフフと、いかにも楽しげに水色の髪の少年アクアが言う。


「剣士のダイヤ、黒魔法使いのルビー、白魔法使いのアクア…」


アクアの言葉に心当たりのある瞳が、しげしげと彼の顔を見ればその額には見覚えのあるサークレットが…


サークレットの中心に嵌め込まれた宝石アクアマリン。

それは瞳が作った白魔法使いのマスコット人形アクアに付けた小道具だ。


「終わったぞ」

抜いてた剣を納めながら金髪の青年が近づき座り込む瞳に手を差し出した。


「無事で何よりだマスター。もっと早く動けるようになっていたら怖い思いをさせずにすんだのだが…」

悲しげに伏せられた目に瞳はうわ~凄い美形と的はずれな事を考えていた。


「仕方ない…マスター無事…OK」

ポツポツ呟く黒いローブの人物は男だと思われるが年齢はハッキリしない。

手にはルビーの嵌め込まれた杖。

これも瞳の作ったものだと一目でわかった。


「それ黒魔法使いのルビーに作った杖」

「そうルビー名前…女みたい…でもマスターつけてくれた…好き」

「俺にはこれを作ってくれた。お陰でマスターの危機を救えた」

そう言って金髪の青年は腰の剣をポンと叩いた。

柄には小さなダイヤモンドが嵌め込まれている。これも瞳の作ったものだ。


「嘘なんで?それは剣士人形のダイヤに作った…」

「だから俺がそのダイヤだよ。俺達は人形師のマスターが作った3体の人形だよ」

「人形師?なにそれ??」

「ステータス見る…分かる」

「は?ステータス??」

唱えたつもりはないが言葉に反応してゲームでよく見るステータス画面が現れた。

「うわっ!何よこれ!?」


名前 神澤 瞳 年齢 18才

種族 ヒューマン

HP 150/150 MP 70/370

人形師 LV8 服飾師 LV3

装飾魔具師 LV2 魔石製造師 LV1

スキル 素材検知 素材倉庫

称号 異世界からの来訪者


「ええー!!なにこれ!なにこれ!何よこれ!!称号、異世界からの来訪者って…異世界?」


「当然…ここマスターの生まれた世界と違う」

ルビーの淡々とした物言いにゴブリンがいた時点で気付いてんだろと言うダイヤの追い討ちに瞳はまたもやフリーズした。


「大丈夫ですよマスター。僕達が付いてますから」

ニコニコと微笑むアクアに夢なら今すぐ覚めてくれと願わずにはいられない瞳だった。




「お茶どうぞ」

瞳の鞄から勝手にペットボトルのお茶を取り出して差し出すアクアに、もうどうとでもなれとヤケクソ気味に奪い取ると半分近く残っていたお茶を瞳は一気に飲み干した。


「後先、考えないのはどうかと思うぞマスター」

「可愛いから許す」

ポツリと呟くルビーにそっぽをむきながら「そうだな」と返すダイヤ。


「それで一体、何がどうなってるの?ってか私の鞄!どうなってるのよ??君達は…あり得ないけど…認めたくないけど…私の鞄から出てきた…んだよね?…………何者?」

「先ほどダイヤが言ったの忘れましたか?」

「ダイヤ?」

「僕達はマスターが作った3体のマスコット人形ですよ」

「は?」

「異世界…マスター危機…目覚めた」

「ひ?」

「MP減ってたろ?マスターのくれた宝石にマスターのMP注ぎ込んで魔石にすることで、俺達はこうして自由に動けるようになったんだよ」

「ふ…ふ~ん…」

「分かってないでしょ?」

「へ~」

「現実逃避よくない」

「ほっほ~」

「マスター…ステータス欄の人形師の項目をよく見てください」

「よく見るって…」

言われるままに人形師の項目をじっと見つめているとポーンという音と共に人形師についての詳細が表示された。


※人形師 LV8

あらゆる素材から人形を作り出し魔石を人形に付けることで従者として使役できる

記憶を共有するが性格は人形ごとによって変わる

人形のスキルは人形師が決めた職業に対して魔石を取り込むことで修得する


「魔石…」

再びポーンという音がして魔石の詳細ヘルプ画面が表示された。


※魔石製造師 LV1

どんな物にも微量の魔力は存在する

その魔力に自分の魔力を注ぎ込むことにより魔石に変換する

最も魔力をもち最上級の魔石となるのは宝石だが、道端の石ころでも魔石にはなる

錆びた剣とか木の実なんか魔石にしたら何か面白いことが起きそうだ


「面白いって…何このヘルプ?誰が考えたのよ!ふざけんじゃないわよ」


ポーン

※ふざけてません

「わ~ヘルプ画面と意思疏通が出来るんだ!凄い凄い♪…ってなんで返事がくるのよ!?」

ポーン

※異世界特典?

「ってなんで?マークなのよ…」

ポーン

※気にしない、気にしない

それより服飾師と装飾魔具師の項目も見ることをオススメします

「…なんかどっと疲れが…」

「大丈夫ですかマスター?治癒魔法、もう一度かけますか?」

「ははは…ありがとうアクア大丈夫だよ…はぁ服飾師と装飾魔具師だっけ?詳細見せて」


ポーン

※服飾師 LV3

あらゆる素材から知識内にある衣装を作り出す事が可能

鎧もマスターが衣装と認識しているため作成が可能です


「鎧…防具じゃなくて衣装なんだ…」

チラッとダイヤを見れば確かに鎧を着込んでいるが、そういえば元はマスコット人形だから鎧のように見える衣装って思いながら作ったなぁ~とボンヤリ考えていたら再び


ポーン

※装飾魔具師 LV2

あらゆる素材から知識内にある装飾品を作り出す事が可能

作り出された装飾品は魔具となり魔石を嵌め込むことで製作者が意図した能力を顕現する

杖、剣、盾、籠手、具足等も装飾品と見なされる


「どんだけフリーダム?!」

まさかノリノリで作ったマスコット人形のおかげで、こんな能力を身に付けることになるとは思いもしなかった瞳が思わずorzの体勢になったとしても、誰も責めはしないだろう。


ポーン

※聞かれてないけど、ついでだから教えてあげます

LVにバラつきがあるのは作った数によって経験値が入るからです

特に服飾は着せ替え人形にしておくと経験値が入りやすいのでオススメです

着せ替えにしないと着たきり雀になります

楽しくないです

自分の服を作っても経験値になりますからお洒落しましょうね♪

杖とか剣も縫い付けずに着脱可能にしておくと色んな武器もとい装飾品に変えられます

TPOは大事です

MPに余力のあるときは魔石製造しておくといいですよ

素材によって付与される能力は異なりますから意外なものに意外な能力なんて発見も楽しめます♪

あとHPMPは減った分だけ上限増える方式です

ただしマスターだけ

人形達にはLVがありませんので魔石でデコってパワーアップです

減ったHPは治癒魔法でも完治しますがMP同様、一晩寝れば全回復します

チートですね

MP0枯渇すると意識を失います

死ぬことはありませんが全回復するまで起き上がることはできません

この場合はMP回復薬で全回復するか枯渇の場合のみ3晩寝ないと全回復しませんので最低でもMP1は残しましょう

HP0は当然死亡です復活はありません

蘇生魔法はありますが、あなたが死ねば人形達も元の人形に戻りますので、蘇生魔法を覚えても使えるかどうかは分かりません


「…長々と説明をありがとうございます…」

ポーン

※いえいえどういたしまして

私で教えられる事ならなんでも答えますから気軽に聞いてくださいね

脳内表示がウザッ!って思うならヘルプ人形作るといいですよ♪

女の子がいいな♪猫とか動物系もいいけど異世界だからといって動物が喋るって事はないので気を付けてくださいね

希望としてはエルフの賢者とかがかっこよくていいかも♪


「おい!」

ポーン

※気が向いたとき、または話し相手が欲しくなったら作ってくださいね?

お待ちしてます♪


「…どんなヘルプ機能なのよ…」

よもやヘルプ機能に自身の人形を作れと指示されるなどと思ってもいなかったと瞳はため息とともに遠い目をしてしまうのだった。


「マスターいつまでもこんなところにいては危険だ。町か村を目指して移動しよう」

「サーチずみ…案内する」

「その前にダイヤ。ゴブリンと狼から剥ぎ取りしてください。狼の毛皮は丁寧に剥いでくださいね。僕は食材になりそうなもの採取してきますからルビーはマスターの護衛を頼みます」

「頼まれた」

「剥ぎ取りか…まぁ適当にやるしかないか」


アクアの指示に動き出す二人?を見ながら瞳はパーティーリーダーはダイヤじゃないの?等と呑気に考えいた。

ポーン

「今度は何!?」


※スキルの素材検知を使うと今のLVで作成可能な品に必要な素材が見つかりますよ

沢山使ってLVを上げれば検知範囲が広がりますファイト!!


「ああ、はいはいどうも。素材検知って唱えればいいの?」

言葉にしたとたん色々な物に青い▼マークが付いて見え瞳は何度目か分からないため息をつくのだった。


「随分沢山ある…取り敢えず片っ端から集めて倉庫に入れとけばいいのかな?倉庫の使い方は?」


ポーン

※手にしたものを倉庫内へと考えるだけでOK

取り出すときは一覧からこれって選ぶだけで出てきます

かなり大きな物も収容出来るので、出すときは位置を指定してください

変なところに出すと大惨事になるかも…


「分かったわ気を付ける。大きな物をしまう場合は手が触れていればいいのかな?」


ポーン

※そうです。ただし現在収納出来るのは人形等の素材になるものだけです

素材にならない物…例えば既に加工されている物や生き物は素材になりません


「生き物なんか怖くて入れられるか!!」

親切なのかただのお喋りなのか分からない変なヘルプ機能にブツクサ文句を言いながらもマーカーの付いた素材を倉庫へ移していく。


「あ!それは毒キノコですマスター。触るな危険です」

「えっ!でも素材になるのに…」

「毒キノコが?」

「うん…」

だしかけた手を引っ込めアクアが毒キノコといった物を繁々と眺めていると


ポーン

※マヒドクタケ

魔力を注いで魔石にしてみましょう

レッツトライ!


「…魔石になるみたい…」

「毒キノコがですか?…練習台にはいいかもしれませんね。魔力の注ぎ方はですね」

アクアの指示にしたがって、体内の魔力とおぼしき物を毒キノコに移すように瞳はイメージしてみる。


漠然とした物ではあったがなんとか出来たらしく毒キノコはキラキラ輝きながらその姿を変えていった。


「おお!」

その時、脳内でファンファーレが

けたたましく鳴り響き魔石製造がLV2に上がった。

「脳内ファンファーレの音が大きい!ボリューム下げなさいよ!!」

「はは…えっとマスターこの魔石の能力はなんですか?」

「能力?」

出現した魔石を見つめるとフリップが現れ、魔石の詳細情報が表示された。


「えっと…武器に付ければ攻撃の際、敵を低確率で麻痺させる事がある…防具に付けると麻痺攻撃を、低確率で無効化する…低確率……人形にデコれば黒魔法使いなら麻痺攻撃呪文、白魔法使いなら麻痺回復呪文を修得する…だって」


「僕は全ステータス回復呪文もってますから必要ないですね。ルビーは?」

「地味…要らない」

「ダイヤは?」

「低確率ならぶん殴った方が早い」

「確かに!では装飾品につけてマスターが装備してください。低確率でも無いよりはマシですから」

「皆は?」

「僕達は人形ですから麻痺・毒・魅了は効きません。怖いのは石化ぐらいですね」

「なるほど」


喋ったり考えたり自ら行動する割には基本はゴーレムと変わらない。

ただ石で出来たゴーレムより元マスコット人形の彼等は打たれ弱いだろう。

彼等の為にも自分がこの世界で生き抜く為にも、沢山の人形とアイテムを作り出してやると一人静かに燃える瞳であった。




数年後、人形師マスターとして瞳の名は世界中に響きわたる。

彼女のそばには常に7体の人形が付き従っていたという。


剣士ダイヤ

暴竜を倒して手に入れた魔石で強化されたことによりドラゴンの攻撃力と防御力を持つにいたる


黒魔法使いルビー

精霊王から授かった魔石で強化された事により四代元素魔術を極める


白魔法使いアクア

世界樹の雫を魔石化して強化された事により即死攻撃及び即死呪文無効化と前もってかけておくことで死んだ直後にHP全快で蘇生する常識はずれの呪文をあみだす


鑑定・解説士オパール

どんなものも完璧に鑑定して解説してしまうヘルプ機能の人形

マスター瞳とは姉妹のように見える


料理長アメジスト

モンスターさえも美味しく調理してしまう

瞳の知識内にある料理ならなんでも再現可能


商売人タイガーアイ

瞳の作り出したものを必要としている人間を目敏く見つけて売りさばく

「マスターの為に金を稼ぐのが生き甲斐」が口癖


忍者コクヨウ

罠・鍵解錠の専門家

前衛・後衛どちらも可能

魔物を使役して情報を集めるのが趣味


人形師マスター瞳

あることがきっかけで邪神として討伐されそうになり引きこもる

生死不明


END

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