僕にも新しい仕事ができました。
村に旅芸人の一座が逗留することになった翌日。僕に新しい仕事ができました。
村に来た、旅芸人の一座のお世話役です。
信用度は 村人 > 俺 > 旅芸人 のようで、村にいる滞在時間の長さもあるし当たり前なんだろうけど、ちょっぴり嬉しいのは仕方ないよね。だって人間だもの。
「じゃあ、マサトくんは魔物使いになりたいのかい?」
旅芸人の一座の座長さんこと、エドヴァルトさんに村を案内しつつ、魔物使いについて聞いてみる。
「なりたいっていうとちょっと違うかも知れないですけど、自分に適正があるのなら是非伸ばしたいなーと思いまして……」
なんとこの人、人間じゃないそうだ。ドワーフですよドワーフ。すごい。初めて挨拶した時は少し背の低い恰幅の良いおっさんだなって思ってたんだけど、種族:ドワーフって聞いてなるほど! って感じです。
よく見たら、腹は出てるけど、この人もダニロさんに負けず劣らず筋肉ムキムキだよ。
ダニロさんがマッチョなレスラーだとしたら、お相撲さんタイプといえば良いだろうか。まあ、ぶん殴られたら、俺は吹き飛びます。それはわかります……みたいな?
「魔物使いはなかなか世間の風当たりが強いからね余程じゃないとなりたがらない人が多いのに、キミは珍しいね。冒険者になりたいとかならよく相談されるけど、魔物使いについて、か……」
「冒険者にも興味はあるんですけどね。でも僕は戦うのとかって怖いですし。それにこの歳でいまさら冒険者を目指しますってのもどうかな、って思いまして」
「なるほどね。でも冒険者なんて自分で名乗ったらその日から誰でも冒険者だからね。そう自分を卑下する必要は無いんじゃないかな。私も昔は冒険者をメインで活動していたけどね、冒険者なんてそれこそピンきりだし色んなヤツらがいたよ。未踏の土地を探すことに全てをかけるものや、街での活躍をするもの。一攫千金を狙ってる者もいたし、やむを得ず、日銭を稼ぐために冒険者を名乗ってるものも居たなぁ……」
日銭を稼ぐためにやむを得ず……なるほど、やっぱりそういう人たちも居るのか。
俺は出来れば、安全かつ簡単に自分で生計を立てられるようになりたい。
自分の居場所を作って、安穏とした生活を送りたいもんだぜ。
「あ、あの。魔物使いってやっぱり街の中では生活できないとか、そういうのがあるんですかね?」
ぶっちゃけ現状、魔物使いとしてやっていくってのが、一番可能性があるんじゃないかと思う。
チャツネ以外のモンスターと仲良くなれるのかっていう疑問があるけど、そこはそれ。
魔物使い下請けの仕事?とかあれば、そっち方面で就職すれば、こっちでもしっかり仕事が出来るんじゃないだろうか? むしろ、それで手に職をつけるのがいい気がする。
この村だと、俺の仕事がないし、ゆくゆくはもう少し大きな街に出たい。
もう少しファンタジーを味わいたいな、ってのもある……たぶん。
「魔物使いでも、きちんとすれば街の中でも生活は出来るよ。ただし、どうしても外周部に拠点を持ってたりするってのが多いかな。何を隠そう、私も魔物使いの適正があってね。それで、興行をしていきたかったから、この一座を作ったんだよ。今も村の外にだけど、モンスターを連れてきているから時間があれば見に来るといい。この村を案内してくれているお礼に教えられうことがあれば教えよう。キミの相棒も連れて来るといい」
はい、この人も良い人です。村の案内って云っても全然小さい村なんで案内も糞も無い状況だってのに、お礼とか……良い人過ぎるだろ。
「ありがとうございます。是非お願いします。チャツネ――あ、俺の相棒なんですけど、一緒に連れて行きます!」
「ああ、待っているよ。よければその時に他の団員も紹介しよう。それじゃあ、私は村長ともう少し話たいことがあるからね。また後で来るといい」
結局、村の案内っていうよりは俺の話を聞いてもらいながら、村をぐるりと回っただけになってしまった気がするけど気にしない事にしよう。
魔物使いに関して教えてもらえるし、すごく有意義な時間だった。
なにか、団長さんにも返せるものがあれば返していきたいと思う。すごく難しい気がするけども。
団長さんと別れて、また森の中に行く事にする。
チャツネに報告しに行こう。この最高にハッピーな気持ちを共有せねば。
そう思って森の中に入っていった先で出会いました――ネコミミに。
チャツネを探して森の中を歩くこと数分。
人が倒れてるのか思って焦ったのはまあ、良いとして。この人よく見ると頭に耳ついてる! ネコミミっぽい!
……これが、ファンタジー。すごい。ドワーフなるほど、じゃねぇ! これだよこんなファンタジーを待ってたんだよ。可愛いよネコミミ。ネコミミ可愛いよネコミミ。
いつもの森の中にスヤスヤと眠るネコミミ。やべぇ、興奮してきた。こういう娘を使役したい。魔物使いって良い仕事じゃあ! 撫でたい! 撫でたい撫でたい撫でたい!!
ど、どうしよう? 触るか? いっちゃうか?
でも人間型だし。人権とかあるかもしれないし。いきなり触るは流石に失礼か?
いや、モンスター娘をゲットするんだ、ここは頑張らねば!
しかもネコミミだぞ、可愛いぞ。めっちゃ可愛いぞ。しかも寝てるし……ちょっとだけなら。
自分でも何云ってるのかよくわかんないけど、この魔性ともいえる誘惑には抗えない。
頭の中で言い訳しながらも、そろーっと近づく事にする。
一歩、二歩、三歩。気持ちよさそうに寝ているネコミミの横を覗き込むようにしゃがむ。
ダメだ! これは可愛い。気持ちよさそうに眠ってる顔。ネコミミ補正を除いたとしても相当可愛いんじゃないだろうか。俺の少ない語彙じゃあ表せないくらい可愛いのは確かだ。よ、よし行くぞ頭に行くぞ!
そーっと、寝ているネコミミさんの頭に触れる。ふわっふわだぁ……。
ちょっとウェーブがかってるさらさらの髪質。そしてネコミミの部分をそっと撫でる。堪らん!
「ふわぁ~…だれぇ……」
ピクッとネコミミが動き、気だるそうに少しだけ瞼を開け、こちらを見るネコミミさん。
ぐわあ、鼻血噴出しそうな感覚って、コレか! 手が止まらないわ。寝ぼけ気味に気持ちよさそうにしてる感じがまた、堪らん。
どれくらいの間だろう。たぶんそんな長い時間じゃないとは思うけど、体感時間ではすごい幸せな時間がゆっくりと流れた、と思う。
「……ふにゃぁ。って、えッ!? 誰!!」
幸せな時間は終わる。残念。
寝ぼけていた頭が覚醒したんだろう。ネコミミの名に恥じない俊敏さでネコミミさんは一瞬にして警戒心を露わに後ろに下がる。
「誰!? いきなり何するの!?」
……残念、じゃねぇ!! よくよく考えれば当たり前だ。寝てる所をいきなり見知らぬ男が頭撫でてたらパニックになるに決まってるじゃないか。大変だ、どうしよう。
でも、話が出来るなら先ずは仲良くならないと。チャツネとだって仲良くなれたんだ。俺は魔物使いの適正があるってことだし。ここは、踏ん張りどころだ。
「や、待って待って。俺はマサトって云うんだ。キミと仲良くなりたいんだ。キミの名前を教えてくれないか?」
「え? わたし? わたしは、プリシラ、だけど……って、そうじゃなくて。貴方は何者? なんでいきなり触ってくるの? おかしいよ、変態?」
警戒心剥き出しです。駄目か……いやここはもう一歩強気で行くか……。
いや、確か猫って目線を合わせたら駄目だったはず。先ずは、目線を逸らそう。あと名前を呼びつつ、こちらからは近づかずに向こうが来るのを待つ、だったか。
「……お、おいで、プリシラ……」
「は!? え?」
「…………」
「え? ……何なの、貴方?」
おかしい。凄く気まずい。すごい、不快感を示されてるよコレ。
なんだろう、途方もなくしかも途轍もない間違いをしている気がしてきた。
大胆すぎたか、とかそういうのじゃない。何かが根本的に間違ってる気がする。
「えっと、その……俺は、この近くの村に住んでる者で……怪しい者じゃなくて……キミと仲良くなりたくて……」
「……仲良くなりたいひとがいきなり頭を触ってくるっておかしくないですか?」
ジト目ありがとうございます! ではなく、先ずはちゃんと説明をしよう。
無害だって説明して、状況を改善しないと。
「いきなり触ったのは、ホントごめん。キミが気持ちよさそうに眠っててあまりに可愛かったから思わず気がついたら、撫でてたんだ。キミのことを何も考えずいきなりそんな事したらびっくりしたよね。でも、本当にキミに危害を加えようとかそういうのじゃないんだ。ただ、仲良くなりたかったんだ」
「え、可愛っ、可愛い、ですか……」
よしよし我ながらナイスである。ネコミミさんことプリシラも少し戸惑いつつもまんざらでもなさそうだ。
ここで畳み掛けよう。
「そうだ、まずは握手をしよう。ほら、俺はキミに危害を加える意思はないんだ」
そういって手を差し出す。外国じゃあ、敵意がない事の印にまずは握手するっていうし。異世界ファンタジーにも握手の文化くらいあるだろう。
「え、は、はぁ……」
困惑しながらも、おずおずと手を出してくる。その手をゆっくりと掴み、握る。気持ち優しく。
ふむ、肉球ではないようだ。というか、女の娘の手やわらかい。もう一度云う、柔らかい。
「俺と友達になってくれないかな?」
「え? えっと……はぁ、まあいいですけど……」
「ありがとう、嬉しいよ。さっきも云ったけど、俺の名前はマサトって云うんだ。これから宜しくね」
困惑気味のプリシラに対して、精一杯の笑顔と誠意を向ける。
すこし強引な気もするが、これで一歩踏み出した筈だ。
「プリシラもこの森に住んでるの? 毎日この森を歩いていたけど全然気付かなかったよ……」
「は? いえ、わたしはこの森に来るは初めてですけど……。旅芸人の一座で踊り子をしてまして。荷馬車が壊れてしまったので、昨日から村の近くに逗留させて貰ってて……」
ん?
「あなたって、マルガ村の人ですよね。いきなりでびっくりしたけど、すごく大胆なんですね。わたし、こんな形で友達作るのって初めてでびっくりしました」
んん?
「わたしの友達って、同じ踊り子のシャルちゃんくらいで……あとは、お客さんだからどうしても……それに旅芸人っていうだけで皆さん一歩ひいちゃって……」
あー、アレね。そういう事ね。わかったわかった。そういう事かぁ……なるほどなぁ……。
どういうことだよ! ファンタジー! おいファンタジー!! これアレだ。魔物使い関係ないわ。
女の子モンスターじゃなくて女の子だわ。恥ずかしい。
と、友達とか俺は何を云ってるんだ。この歳まで生きてきて、こんな感じで友達なんか作ったこと無いわ! しかも女の子とか!!
「いや、あの、さ……」
「ふふっ。じゃあ、短い間かも知れないですけど、よろしくお願いしますね。村の中とか案内してくれると、その、嬉しいです」
はにかみ笑顔ありがとうございます!!
なんか全然予期してなかった方向に進んでるけどもういいや。もうなんでもいいや。このまま行こう。ファンタジーありがとうございます。
――こうして、友達第2号が僕にも出来ました。