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すごく……いたたまれません。

あれから2週間が経った。

ダニロさんのお弟子さん?のクルトさんたち村の若衆が帰ってきて1週間。


……すごく、いたたまれません。


だって、俺の仕事が微妙にないんだもの。

もともと小間使いっていうか、一時的に足りてなかった村の力仕事とか雑用を手伝ってただけですし。


まあ、要するに仕事がないのだ。

しかもしかも。考えてみて欲しい。


村長とか一部の人たちから許可を貰っていたとはいえ。

自分が出張に出てたりして、帰ってきたら知らないおっさんが居着いていたら。

親密さ加減は置いといてもさ、なんかこう雑用なんか手伝ってたりしちゃったらさ。


そりゃあ、いい気分にはならないよね。男なら……。


なので、村の男衆(主に嫁のいる若者)との距離が、埋まらない埋まらない。

正直、キツい。神様僕にコミュニケーション能力を! リアルが充実する位とまでは云いません。せめてもう少し上手く話が出来たり、切欠を逃さないくらいのコミュニケーション能力を下さい。


そんな訳で村での居場所がないのである。

どうしたもんかと思ってはいるんだけど、切欠が無いのでどうにもこうにもならない。仕方がないので最近はダニロさんについて回ってた森の見回りコースを率先して一人で回るようになった。


なんのための見回りなのか、むしろ何を見回る必要があるのかよく分かってないんだけども。

でもなんか、俺の唯一の仕事のような気がして、この森を見回る作業が俺は大好きだ。落ち着く。


森の見回りといえば、だが。

この森に初めて入ったときに出会ったウサギ。角ウサギと云うらしい……に再び出会った。俺の癒し再び。


このウサギ、ものすごく俺に懐いてくれているようで。

俺が森の見回りに出るたびに、俺を見つけて姿を見せるようだ。なにこれ可愛い。


俺のたったひとりの友達。ふふ、友達か……。わが事ながらなんて寂しいんだ。まあ、元々いた世界でもそんな親しいような友人なんていなかった訳だけどさ……。


まあでも、なんでこんな懐いてるんだろうと思う。

気になったので、ダニロさんに聞いてみた。


「うーん、もしかするとマサトは魔物使いに向いてるのかも知れないな」


「魔物使い? 魔物使いって云うと、モンスターを操ったりとかそういうアレですか?」


「操るというよりは、心を通わせ使役するスキルや職業の事だな。旅芸人や奴隷商なんかが使える筈だ。強いモンスターなんか使役出来ると戦闘なんかでも役に立つらしいが、その分モンスターの世話が大変らしいな……」


モンスターの世話でいっぱいいっぱいになるそうだ。確かに1匹使役するだけでも、世話やえさ代なんかも必要そうだ。

でも魔物使いか……なんか、光明が見えてきたかも知れない。


「あの、森の中で抱いてた角ウサギが凄く俺に懐いてて……これって使役?してる状態なんですかね?」


あんなに懐いてくれているんだ。これはもう早速モンスターゲットだな!


「さあ、どうだろうな……。実際、モンスターが使役出来てるかどうかなんて外からじゃ分からん。モンスターはどこまで行ってもモンスターだからな。魔物使いが使役してると云えば使役出来ているんだろう。ただし、そのモンスターが何か村や人に迷惑を掛ければ、それは全て主人の責任だ。そこのところは覚悟しておく必要があるな」


なるほど。そりゃそうだ。どうやら街中や騎士団等じゃあ、魔物使いはほとんど居ないらしい。魔物使いはマイナーな職業らしい。

でも、あの角ウサギは大丈夫、なはず。うん、大丈夫。


「じゃあ、あの角ウサギを俺のモンスターにしても良いっすかね?精霊様のモノだからダメって事になりますかね?」


「森の中の角ウサギか……難しいとは思うが、あくまでも森のモンスターの意思もあるだろうからな。密猟という訳でもないだろうし……ワシから絶対にダメだとは云えん。ただ、村の中を連れ歩くのは止めておいたほうがいいだろうな」


難しい顔をしながらも、片目を瞑って暗に許してくれるダニロさんマジイケメン!

確かに村の中で連れ歩くことは難しそうだ。ってことは現状特に変化は無いって事か。いやでも、あいつは俺のこっちでも友達第一号だ。もっと大切にしよう。



翌日。いつものようにする事もないので、ダニロさんに森を見回ってくると告げる。

森の中で何か異変、密猟とか動物やモンスター以外の形跡があれば知らせるようにと云われたので、任せてくださいと胸を叩き出掛ける。


なんか、こんな状態の俺でも置いてくれてるダニロさんに凄く申し訳ない気がするが、ひとまずは頭の片隅に追いやる事にする。

なにか有効な、村の人たちの役に立てることは出来ないものだろうかと思う。

現代の知識があるから俺TUEEEEEEEEEEってやりたい所だけど、グー○ル先生や某ウィキ○ディアに頼らないと、そんな知識がポンポンと出てくるはずもなく……。


……現状のまま、なのである。


「ホント、俺って情けない、かもな……」


いちいちグズグズと悩んでても始まらないのだけども、どうにも停滞気味の現状に気分がちょっとだけ落ち込む。

そのまま歩いていてもよかったんだけど、休憩にちょうどよさそうな場所を見つけたので腰を下ろし休憩することにする。

一緒にやってきていた角ウサギを膝の上に乗せ、頭を撫でる。


「……悩んでても仕方ない、か。よし、とりあえず今日はお前に名前をつけようと思うが、いいか?」


鼻をひくひくとしながら、気持ちよさそうにしている角ウサギに話しかける。

ウサギに話しかけるって、どうなのって少し思うけど動物は人間が思ってるより賢いから話しかけてるとなんとなく意思は疎通できるって聞いたことが歩きがする。なので、いいのだ。たぶん。


しかし名前か。なんにしよう。角・ウサギ・ラビット・ホーン。ウサきち・ピョン吉・モフモフ太郎・茶色……飴色……たまねぎ……カレー食べたいなぁ……。

いかん、自分のネーミングセンスと語彙のなさが露見してしまう。

しかし、コイツ茶色し、たまねぎ……チャツネとかどうだろうか……キツネみたいだけど。角ウサギのチャツネ、うん、これで行こう。


「よし、お前の名前は今日からチャツネだ。どうだ、気に入りそうか?」


頭から顎の辺りをグシグシとなで、癒しの角ウサギ事、チャツネを抱きかかえて見つめる。

チャツネもこちらを覗き込みように見つめ返してくる。


――その時だった。よくありそうなお約束現象とでも云えばいいだろうか。

なにかこう、頭の中にスッと入ってくる感じがする。ムードもへったくれもない言い方をすれば、おでこに熱さ○シートを貼ったときのような感覚だった。

でもそれだけで確信的にわかったのだ。ああこれが、モンスターと心を通わしたって事なんだろう、って。


「うおお、テンションが上がっていくのが抑えられないぜ……」


思わず立ち上がりチャツネを抱きかかえその場をぐるぐると回転する。

ついに、ついに俺にも確定的なつながりが出来た!! 俺は一人じゃない!! 俺は一人じゃないぞぉぉッッ!!


『高い……抱くな、座れ……そして撫でろ』


ん? これはチャツネの意思か? なにか凄くぶっきらぼうな感じだけど何か伝わってくるのだ。


『高い……怖い……不快だ』


大変だ、と思い。すぐにチャツネを地面に下ろす。そうか、コイツ抱き上げられるのは好きじゃなかったのか。ごめんな、チャツネ。


『…かまえ……撫でろ』


「お、おう、任せろ。ほら、これでいいか?」


『……好きだ』


……コイツ。なんか良いかも知れない。伝わってくる意思はこう、断片的なのかそもそもなのかは分からないけどストレートな感情表現と凄く俺に懐いてくれているのは分かる。いかん、嵌ってしまいそうだ。


「よし、今日はずっとこうしていような。いくらでも撫で回してやるからな、チャツネ~…」


『……好きだ……好きだ!!』



結局、その日はずっとチャツネを膝に乗せて撫で回してたら日が暮れてしまった。

流石に村に帰って少しでもなにかダニロさんの手伝いをしないといけないと思い帰ることにする。


「じゃあ、悪いけど俺は今日は帰るわ。またな、チャツネ」


『……』


分かってるのかどうかわかんないけど、チャツネはしばらく此方を見上げたあと、素直に森の中へ帰って行った。

でもたぶん、わかってるんだろうと思う。俺の友達兼、癒しだからな。明日も会いに来よう。まあ毎日来てるけど。





少し普段より遅くなったかな、と思いながら村に帰ってくると。なにやら村が騒がしい。なにかあったんだろうか。

村の集会場に人垣が出来ている。近づいてみるとなにやら話し声が聞こえてくる。


なにやら、旅芸人の一座がこの村に立ち寄るそうだ。

こんな小さな村で興行でもするのか? とも考えたんだけど違うそうだ。

この近くの街道で荷物を積んでた馬車が壊れてしまったらしく、その修繕をする間立ち往生するわけにもいかず近くのこの村に寄せて欲しいとの事らしい。

食料なんかは自前で持ってるから、出来れば馬車の修繕用の資材等だけ分けて欲しいんだそうだ。


その辺の話を晩飯中にダニロさんに教えて貰った。



旅芸人の一座か……そういえば、旅芸人には魔物使いもいるってダニロさんが云っていたしこれはチャンスかも知れない。


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