集落の中は、すごいアウェーでした。
――集落の中はすごいアウェーでした。
そりゃ、そうだろうけどもさ。この、針のむしろな感じ。ツラい。
顔に傷のあるおっさんに連れられて到着した集落(村?)は、おっさんと出会った場所から、そこそこに離れてました。
そんでもって、このおっさん歩くの早いよ。
「ほら、もう少しシャキシャキ歩けんのか?このペースじゃあ日が暮れちまうぞ?」
そんなこと云われてもね。
現代のメタボ舐めんな!いや、メタボじゃないけども。
どう考えても、おっさんの歩く早さが尋常じゃないよ?しかも俺、素足よ?
慣れない森の中を歩き続けるとか、どう考えてもおかしいよ。こんなの絶対おかしいよ。
そうブツクサ云いながらも一生懸命歩いて着いて行きました。
今の状況じゃあ、このおっさんが唯一の光明だしねー。
そうこうしていて、数時間?歩いた先に森が開けて、いかにも~なファンタジーの村が見えてきました。
森の直ぐ近くにある村っぽくて、少しの畑と主な産業は林業かな?
ファンタジーだと、狩りとかもしてそうだけど。でも森の中では殺生出来ないって云ってたし。
まあ、今の俺にはあんまり関係ないか。先ずは、自分とこの世界?の状況把握を優先しよう、そうしよう。
「よし、先ずは村長たちを呼んでこよう。話はそれからだ。お前はここにいろ。座っていてかまわん」
村の中心部にある開けた場所。広場とか集会所かな?みたいなところに通され、そこで待つように云われた訳ですが。
……そして、針のむしろなんですが。
俺が歩くのが遅かったからか、ちょうど夕方くらいだからか、ゾロゾロと人が集まってきます。
手に鍬持ってたりするから、農作業からの帰りかな?そんな感じの風貌の人たちが沢山。
は、はは……。にっこりと微笑んでみるけども、ぶっちゃけあんまり良い顔されてないっぽい?
これはあれだ。いぶかしんでるってやつだ。
そりゃそうだ。いきなり、裸同然の男が後ろ手に縛られて座ってたら、そこに友好的な視線向けるなんてどう考えても無理ですね。俺でも無理です。
仕方がないので、視線に気付かない振りをしながら、おっさんが村長を連れてくるのを待つこと数分。
なんだか、村長来る前に、ここの村に住んでる人たちみんな集まったんじゃない?って位に人が集まったくらいに村長らしき人たちが数人出てきました。
おっさんはその後ろについて来てます。
「お前が、ダニロが見つけた怪しいヤツか……ふむ」
あのおっさん、ダニロって名前なのか。そういえば、名乗ってないし名乗られてもいなかったな。
このおっさんその2が村長?なんか思いっきり、値踏みされてるような……。
「あの、俺は怪しい事なんか無くて……。ただ、ここがどこか、なんでこんな所に俺がいるのかがわからなくて……」
「お前の姿が怪しくないと思う者はこの村にはおらんだろう……。少なくともこの辺りでは見ない顔だ。その特徴の無い平べったい顔に黒髪、黒い瞳。わしの記憶が正しければ、東の彼方の人族がそのような風貌だと聞いたことがあるが……」
東の彼方?平べったい?ああ、俺の顔か…確かにこの村の人たちって、濃い顔だわ。なんていうか、西洋人顔っていうのかな。
って事は、ここはヨーロッパ的な場所か?いやいやいや、過去にタイムスリップしてるわけじゃないだろうし。
正確な世界地図もないんだから、ファンタジー要素も含めて考えておこう。
「……で、お前の目的は何だ?見た所、その風体以外はなにも出来なさそうだが……」
「あの、繰り返しになりますが、ここがどこかを先ずは教えて欲しいのですが」
「ここは、マルガの村じゃ。水と森の精霊様を崇めておる。街道出て南に行けば水の都オリストラ、北に行けば森の都エルウェン。北に行けば王国が見えてくるだろう。この村は、精霊都市群に所属しておる。見た所、お主は精霊様にに好かれとる様じゃがこの辺りの者ではあるまい」
……精霊様?ファンタジーか。ファンタジーだな。やっぱこれ異世界に召喚とかたまたま落っこちたとかそういうのだわ。精霊様に好かれてる俺。キタコレ。精霊王とかそんなのと図らずも契約なんかしちゃって、俺TUEEEEEが始まるわ。本当にあ(ry
「まあ、その程度では、なにも出来んじゃろう。風の精霊様の気まぐれに合うといきなり見知らぬ土地に飛ばされることもあると聞く。お前もそんなところだろう。それでお前はどうしたい?このままこの村を出て何処へ行くというのなら我々は止めん。別段村や森に被害が出たわけではないようだし。迷い込んだ者をいちいち手酷く扱う必要もなかろうて」
「え!? あ、あの、出来ればこの村に、……その、置いてもらう訳には、いかない……ですかね?」
自分で云っておきながらも、語尾がドンドン小さくなる。
いや、そりゃあ、遠まわしに出てけって云われてるのは分かるんだけどさ。
この状況で再び、一人になるのは正直キツい。
裸同然、お金もないし、謎の異世界ファンタジー。生きていく術がそもそも無いんですけど。
精霊王様とかそういう希望はたぶん、ほぼ無いんだろうし。てかさっきその程度って云った時の村長さんの見下した目。あれは絶対、俺一人じゃどうこうしようがないって確信した目だったし。
どうする……どうすれば……この状況を打開できる何かを考えないと……。
「村長、このまま追い出しても仕方ないだろう。森の中で拾ったのも何かの縁だ。俺が預かろうと思うんだが、どうだろうか?」
それまで、村長の後ろでジッとしていた俺を拾ってくれたおっさん事、ダニロさんがそう云って手を上げた。
神や!このおっさん……いやダニロさん。顔は傷があるからものっそい怖いけど。心は優しい仏様のようなおっさんだ。ありがとうおっさん、俺、おっさんに着いて行くよ!
「ふむ、ダニロ。お前が面倒を見るというのなら構わんが。いいのか?コイツの身元が完全に証明されたわけではないぞ?」
「ああ。まあ、怪しいっちゃあ怪しいが。俺に対して何か出来るとは思えんしな。それにちょうど一ヶ月先までクルトのヤツが行商でオリストラに行ってるからな。その間だけでも荷物持ちとして使えるだろう。その間だけでもうちに置いてやろう。お前もそれでどうだ?」
ダニロさん……やべぇ、優しすぎる。田舎にはあったい人がいる。捨てる神あれば拾う神あり。このチャンス、逃すわけにはいかねぇ……。
「それで!それでお願いします。荷物持ちでもなんでもしますんで、当面の間、置いてください!」
「お、おう。宜しくな。ってそんな顔すんなや。お前の面倒は見てやるって、道すがら話してたろうに」
「両者がそれでよいなら、ワシからは特にない。ただし、小僧。お前の行動はこの村の者皆が見ておる。よからぬ行動は起こさんようにな。お前の行動如何によってこの村で受け入れられるか否かは決まるだろう。いついかなるときも精霊様はお前を見ていると覚えておけ」
なんかこう、釘を何本も何本も刺されてるけども。これでとりあえず。最低限は確保できたと思う。
俺を遠巻きに見ていた村人たちも、その村長の言葉を聴いて、不承不承だろうけどもバラけていく。
「ほら、じゃあ行くぞ。ええと、そういえばお前の名前を聞いてなかったな。お前、名前は?」
「あ、マサトっス。ハチヤ・マサト。マサト・ハチヤ?とりあえず、マサトって呼んでもらえれば」
「マサト・ハチヤ?名前もなんか変わってるな。ここらじゃあ聞かない名前だ。……まあいいマサト。それじゃあ、俺の家に案内しよう。とりあえず詳しい話は家に着いてからにしようや」
「了解っス。よろしくお願いします!ダニロさん!」
これでなんとか最低限の命は繋いだと思っていいだろう。
なんか、全然状況が変化してない気がするけども。今は気にしない方向でいこう。
まずは、村に馴染む。おっさんにもっと認めてもらう。そんでもって現状をなんとか鑑みる。
当面は、これが最重要課題だな……。