情報革命
超近未来のお話。そう遠くはない世界のお話…
「時代も変わっちまったよなあ…」
ため息をひとつふたつ吐いてから、公園のベンチに腰をかけた。
今現在、曙株式会社の社員として会社に通っている。
それも今日で7年目に突入。少しくらい祝ってやりたいところではあるのだが、
とてもそうできる状態ではないのだ。
給料のカットである。
いよいよ年収が300万円を切った。ボーナスもここ数回はもらえていない。
…それは大手企業だろうが中小企業だろうが変わらない風潮だ。
このお金で妻と2人の子供を養っていかなくてはならない。
一体なにがこんな状況を生み出したのか…?
スマートフォンから振動音。この振動パターンは仕事か。
「第一開発所に鉄鋼を納入せよ」
俺はサラリーマンという職種で、呼んでいいのかもわからない。
端的に言えば、俺は手足。走狗。労働力。
今の会社は、ほとんどがインターネット上で存在しているようなものだ。
事務職は消滅した。管理職も消滅した。人事もリアルで対面したことはない。
企画や立案はインターネット上で、製造はリアルワールドで機械が行っている。材料確保は完全外注。
これによりパートのおばちゃんも一人残らず消滅した。
機械より人間にやらせた方が都合がいい作業だけを社員にやらせる。
『都合がいい』からやらせているだけであって、作業そのものは単純な作業。
…故に年収はごらんの有様。
もうおわかりだろう。こんな時代になってしまった原因は…「情報革命」だ。
どっかの有名な人が『技術の進歩は、ヒトの価値を減らす』とか言っていたか。
農業革命で、安定した食料確保ができるようになれば、達人の狩猟者に用はない。
産業革命で、機械に作業を委ねれば、手織り物の需要は激減した。
情報革命で、ヒトはもうひとつの世界をつくった。その世界は物体は存在しないにしろ、
コストが安く、世界の隔たりもない。あいつらはその理想的な世界へ突っ込んだ。
今の俺は私服だ。スーツにネクタイという概念も消え失せた。
「相手先の企業に失礼ではないか」って?
第一開発所は全部機械だけども何か?
俺の仕事は、機械をだまくらかして、鉄鋼を高く売りつけることだ。
機械より人間のほうがまだ悪知恵は聞くからって…
今まで営業でそこそこの駆け引きをしてきた俺は辛うじて採用された。ほかの同期は全て切られた。
…ふざけるな。俺はそんなせせこましいことをするために営業課に所属したわけじゃないんだよ!!
…仮に高く売れたとして、それを喜ぶ上司はだれもいない。
…インターネット世界に居座る重役は、俺が必死にやろうがやらまいが関係ない。
給与はプログラムによって決定する。つまり高く売らなきゃ給料はもらえない。ただそれだけのこと。
「あっ、すいません。そのボール取ってもらってもいいですか」
気がつくと、目の前にサッカーボールが置いてあった。
その声の主は子供。一流ブランドの服で身を纏っていた。
…この革命が招いたもうひとつの影響に、二極化が存在する。
インターネットはもうひとつの世界になったと言っても過言ではない。
つまりそこには膨大なビジネスチャンスが眠っている。
億万長者は年々増加傾向にあるし、「社長」の数も加速度的に多くなっている。
あの子供も、おそらくは億万長者の子孫といったところだろうか…
「おじさん?」
目の前に子供がいた。
「寝ぼけてたらチャンスなんて遠のいちゃうよ?」
すこし生意気だな。
「そこにいらしていましたか」
長身のイケメンが走ってくる。召使だろうか?
「そろそろお時間ですよ」
「うん、じゃあねおじさん」
そう言うと、子供と召使(?)は高そうな車に乗って、去っていった。
「くそっ、どうしてこんな時代になったんだ!!」
車内。
「いかがでしたか。会社訪問のご感想は」
「うーん…いまいちだなあ、ちょっとシジマチっぽいね」
「残念ですね。これで曙株式会社の会社員はゼロですか」
「まあ、それは置いといて、社内会議を始めようか」
「そうですね、社長」
工具模型で世界的シェアを誇る大企業「ユウヤミ株式会社」は先日、
自身の下請け企業である「曙株式会社」を解体する意向を示しました。
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