新学期
前作、風花~涼~を読んでからの方が、世界観が少し解るかと思います。が、読まなくてもきっと大丈夫!(ぉぃ
産まれた時から愛してる。
愛して止まない君をどうやって手に入れよう?
まだ何も思い出せない君を、俺と言う囲いの中に囲む為に───
*
春。
風花での騒動も落ち着き、ぎこちなくも関係が修復されていった頃。
高校生である俺達は進級した。3年、最上級生だ。
だからと言って、何かが変わる訳でもないのだが……。
始業式。
染井吉野は葉桜になり、八重桜が満開を迎えた。
新しいクラスを確認すべく、掲示板の前に俺達はいた。
貼りだされているクラス名簿に自分の名前より先に彼女の名前を探す。
「颯、Bクラスだってさ」
「蓬は?」
「まだ……あっ「Bだよ」」
「……見つけたなら聞かなくとも」
藍田颯一は大抵【あ】が一番最初だから見つけやすい。
彼女、北山蓬はそこからやや進んだところにあった。
少し呆れ顔を見せた彼女は肩を竦めて、宜しくと言った。
もう一度掲示板へと目を向け、クラス名簿を眺めた。
知人半分、その他顔見知りという感じか。
掲示板に視線を向けたままの彼女が首を傾げながら俺に問う。
「妙子とは別になっちゃったかぁ……」
「本当だ、残念だね」
「ね、颯?私のすぐ後ろの、久遠寺新って居たっけ?」
「ん~……俺の記憶ではいないね」
「だよね。転校生かな」
「この時期に珍しいね。ま、教室入れば解るでしょう」
なんとなく気になる名前。
少しでも彼女の気を反らそうと背を押し、教室へと促した。
周りが浮き足だってるように見えるのは、やはり春の所為だろうか。
強めの風に散りゆく、八重桜の花びらがそれを彩っている様に見えた。
「よぉ~~~もぉ~~~ぎぃぃぃぃっ!!」
突然の雄叫び。
蓬と苦笑いしながらその雄叫びを発生させている人物に視線を向けた。
「ちょっ、何もあんな遠くから叫ばなくても……」
「妙子ちゃんらしいと言えばらしいね」
思ったよりも遥か向こうから手を振りながらやってくる、小柄でツインテールの女の子。
白井妙子。もっか喫茶「風花」の常連で、蓬の一番の友達。
その突拍子もない大らかな性格で、色々飽きない高校生活を送らせてもらっている。
「蓬とクラス、離れちゃったよぉぉ~~!」
やってくるなり、蓬に抱きつく。抱きつくと言うより、しがみつくが正解か。
その力技は最早「鯖折り」と言っても過言ではないだろう。
「ぐっ!……ちょ……妙子、くるしいっ」
「あ、ごめんね?」
てへっと笑いながら蓬を離し、こちらに向かってにっこりと微笑んだ。
彼女からの挑戦状とも言える微笑。
そう、彼女は俺の一番の恋敵とも言う。
その微笑にこちらからも微笑んで返す。
「まだ、なんか肌寒いね」
春の穏やかな中庭で、腕を擦りながら蓬が呟いた。
俺はこれを好機と再び彼女の背を押し、教室へと促した。
「それじゃ、妙子ちゃん。俺達はBだからまた」
「むぅ……後でね」
「そんな顔しなさんなって。後で一緒にお昼しよう」
「うんっ!」
漸く教室に辿り着き、未だ決まっていない席順は自由。
何人かの友人と軽く立ち話をした後、僕達は空いている真ん中の席に横並んだ。
雑談をしながら、ホームルームが始まるのを待つ。程なくして担任が教室へ入ってきた。担任と一緒に見慣れない男子が入ってくる。
長身の細身。180cmは超えているだろう。さらっとしてそうな前髪、短めの後ろ髪。銀縁のフレーム眼鏡。
―――ぞわり
全身の緊張。見た事のないはずの彼に鳥肌が走った。
体中の毛が逆立った。
「席に着けぇ~!転入生を紹介するぞ」
担任の間の抜けたしゃべりで緊張が解ける。
軽く息を吐き出し、いつの間にか滲んでいた掌の汗を握り消した。
「じゃぁ、自己紹介をしてくれ」
「はい。久遠寺新です。この辺はまだ不慣れなので迷子になってたら助けてください」
くすくすっと笑いが走る。
周りの反応に不思議そうな顔をしている久遠寺。
無垢そうな雰囲気が好印象になるだろう。
ちらりと横目で蓬を盗み見た。
いつもと変わらない表情。可もなく不可もなく……といった感じか。
気づかれないように小さな安堵のため息を吐いた。
それにしても先ほど起こった鳥肌はなんだったのだろうか?
その意味に気づくのはもう少し先の話だった。
新シリーズスタートしました。少し長くなる気がしますが、最後までお付き合いいただけたらと思います。ネタバレしますのでタグはこれから増やしていく予定です。




