非日常⑤
「ああそうだったかな?それよりこいつは病み上がりなんだ。無駄話はやめてさっさと本題に入ろう。」
「そうせかすな。あの男の息子なんだろ、彼は。だがこんな気が抜けた小僧だったとは………。」
こんな小僧扱いなわけだが、とりあえず老人を見つめる。
「それでは始めるとしようか。少年。こっちに来て水晶に触れてくれ。」
「え…………は、はい」とりあえず言われたように触れる。水晶はあるで生きているかのように温かく呼吸をしているかのように振動している。老人が真剣な顔つきで呪文を唱える。
「われはもう一つの世界を統べるものなり。何時われらが世界に足を踏み入れたばかりの新参者なり。我らが統べる青き輝きを受け取りたまえ。我らは迷えるものを見捨てはしない。汝が望むのならば認めよう。汝は我々とともに新たな住人となるのならば。」
呪文の途中から水晶が光りだす。光は徐々に大きくなり老人が呪文を紡ぎ終えるとあたりは光に包まれた。
ゴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
低いうなり声のような突風が吹く。風が強すぎて前が見えない。ただわかることは、ここがあの水晶のあった部屋ではないということだけ。上も下も右も左も………………………………わからない。
ゴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
また唸り声が聞こえた気がする。誰かに見られている気がする。もう一度注意深く前を見ようとすると、また突風が吹く。あたりの様子が巡り巡り巡り…………………最後の最後に光る2つの玉のようないや目のようなものを見たような気がした。もう眼を開けていられないほどの風が吹く。
左手に激しい痛みを感じた。まるで劇薬をかけられたかのような痛み。痛みが引いてきてようやく周りの状況を理解した。あの水晶の部屋にいた。周りには深刻な顔で俺を見つめる老人と希山さんがいた。
「どうしたんですか…?」
「ふ……ふふふふふははっははははは」
老人は俺の問いに答えることなく笑い出した。
「さすがだ。さすがだよ。さすがあの男の息子だ。まさか『特殊系』が『適正魔術』だとはな。いやはや……。おめでとう君は我らが主に認められた。これで君は『青』の人間だ。その証拠に君の左手の甲を見てみろ。」
俺は左手の甲を見る。そこには龍のような文様が浮かび上がっていた。
「おい新。そろそろ行くぞ。どうやらお前の面倒を見るということは一筋縄ではいかないらしい。まだまだ話さなければならないことがあるようだ。」
希山さんはそういってエレベーターに向かって歩き出す。俺はそのあとを追いかける。そんな俺たちの後ろ姿を老人はずっと見つめ続けていた。