非日常②
彼女が取り出したそれはひどくいびつな形だった。蜂の巣のように複雑に絡み合っている。
「これが世界を簡単に表したものだ。まず何の力も持たない人間がいるのが第1面。仮にここを『日常の世界』と呼ぶとすると、私たちがいるのはこの表面近くのココだ。」そういって彼女は手に持っていた立体を開ける。中には上と同じような立体がまるでロシアのマトリョーシカのようにだいたい15層くらいまである。彼女は俺の返事を待たずに話を続ける。
「このように世界は単純に見えて実は、かなり複雑にできている。それほどこの世界は謎に満ちていてなおかつ面白い。」一人で自己完結しているが聞きたいことがある。
「さっき俺の父親が最下層に最も近い男だといっていたがそれはどういうことなんだ。それにおれはこんな世界に来たいと望んだわけじゃない。なんだってこんな世界に。」
「口うるさい奴だなまったく。一つずつ質問してくれないか。えっと……君の父親の話か。彼がこっちの世界にやってきたのはいつごろかは知らんが少なくとも私が来る以前だったのだろう。彼には天災的な才能があった。彼は誰よりも早く最下層を目指していた。まるで何かに追われて逃げていくように。けれど2年ほど前に姿を消した。今では彼の上を行くただ一人の男………確か『赤』の所属の男が最下層『第16面』まで到達している。っとこんなもんか。」
まさか自分の父親がそんな風になっていたなんて知りもしなかった。父親のことはあまり覚えていない。なんせ職業が職業だけにあまり会える時間もなかった気がする………………?何かがおかしい。確かに父親は警察官だった。仕事が大変だからあまり会えないことはあるかもしれないがまったく父親との思い出がないというのはあり得ない。そもそも自分の父親の名前が思い出せないという名は絶対にいじょうである。母親の名前は?通っていた学校の名前は?そもそも俺自身の名前は?記憶を探るがまったくわからない。まるで深い霧がかかっているかのように記憶がぼんやりしている。
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「記憶がないんだな。」
希山さんは暗い表情で告げる。
「この世界に入る方法は2つある。まず1つはこちらの世界の住人に『力』をもらう方法。そして2つ目はこちらの世界の何らかの力に触れてしまうこと。君の場合はそちら。そしてそちらの場合は1種の本能的防衛として記憶の一部がなくなる。そうなってしまった人間を私はたくさんしっている。」
彼女は冷たい口調で告げた。いや、だからこそそれは覆しようのない事実なのだ。気休めなど今の俺には必要がなかった。そこに希望なんてもにはない。ただ暗いだけの闇が広がっていた。そんな俺に希望の光が差し込む。光を照らしたのはかの世の言葉だった。
「私のところに来ないか?高校生が一人増えるくらいならかまわん。どうせ行くあてなんてないんだろ。名無しの小僧」
迷う必要はどこにもない。選ぶべき道は開かれた。彼女の顔を見て首を縦に振る。
「そうか。なら名前がないとふべんだな………よし。君の名前は『服部 新』。それでどうだ。」
新しいおれの日常が幕を開けた