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恋のトラウマは始まりを告げる  作者: 栢瀬 柚花


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街の探索


 部屋を出る前、あたし達は連絡先を交換した。

 

 高校当時とは番号もメルアドも変わっていた。

「基本的に部屋に来てくれればいいけど、何かあれば連絡して」

「それって逆じゃない?」

「隣だからいいの」

 

 憲彦はスマホの画面を見るとじっと見ると、

「依織の連絡先があるの、久々……。凄く嬉しい……」

 満面に笑って言われると、流石に照れた。

「いや……そこまでじゃないでしょ………」

「そこまでのことなんだよ、俺にとってはね」


  

 自分の部屋に帰るため玄関前に立つと、

「早速なんだけど、明日この周辺の道案内してくれない?」

 そう頼まれた。

「道案内……?」

「スーパーとか商店街とか、周辺探索できてないんだよ。先住人の依織なら詳しく知ってるだろ?」

「そこまで詳しくはないよ……。あたしも半年しか住んでないし」

「それでも俺よりはマシだろ?頼むよ。他にも頼める人いないし……」

「分かった…。明日も暑いから帽子と水分補給になる物は持ってきてね」

「お母さんみたいだな……」



 

 翌日も晴天だった。

 汗をかいてもいいように、通気性のいいスポーツウェアで部屋を出たら、

「これから俺たち、街探索に行くだよな?テニスするんじゃなくて…」

 憲彦から少し引かれた。

「何言ってんの?これくらい通気性良くないと倒れるよ?」

 真剣に言うあたしに「えっ…俺も着替えたほうがいい?」と自身のジーパンとTシャツを見た。

「少なくともジーパンはやめたほうがいい。外勤あるあたしの意見を受け入れたほうがいいよ」

 憲彦は素直に部屋に戻った。


 

 数分後、先ほどよりはマシな格好になった憲彦とともに街に繰り出す。連休最終日とあって人が多かった。

「取りあえず周囲5キロくらいを見て回る?」

 憲彦の提案で、マンションを中心として散策を始めた。

 本来なら手を繋ぐんだろうけど、約束通り憲彦はあたしに触れてこない。隣には立つけど、並んで歩くだけ。

 

 

 割高のスーパーからドラッグストア、ランチが安いレストランなど、あたしが知っている店を回ったあとは、知らない路地に入って新しい店の発見の旅に出た。

「いつもチャリだから、こういう細道には入らないな」

 あたしが言うと、

「徒歩の方が発見って多いよな。依織も知らない店、沢山見つかるといいな」

 楽しそうに笑った。


 

 よく晴れていて、午前中なのに直射日光が辛く、持ってきた水筒の水分はすぐに底をついた。

「スーパーかコンビニで補給しよう」

 近くにコンビニを見つけて入ると、涼しさにホッとした。

 

 2人で会計に並んでいると、数人の女性が振り返って憲彦を見ていてる。

 

 歩きながらも思ったけど、やはり憲彦は人目を引く。中学時代から声をかけられていたというのは本当なんだろう。

 憲彦は慣れたものなのか、全然気にしていなかった。


 コンビニの女子店員から、

「暑いので気をつけてくださいね」

 と塩飴を貰っていた。

「ありがとうございます」

 さらりと礼を言って笑顔を向けるのは流石で、なんの嫌味もなかった。


 

 コンビニを出ると「あの店員さん、私物あげてよかったのかな?」と思わずあたしは呟いた。

「え?私物?」

「気がついてないの?アレ、店員さんのポケットから出てきたんだよ」

「うそ?見てなかった。コンビニのサービスかと思った……」

「そんなわけないじゃん。そんなコンビニないって。もしかして、今までも気が付かずに色々貰ってるんじゃない?」

 こういう時、イケメンは得だ。

「うわ……マジかぁ…………。今から行って返してこようかな……」

「それは逆に嫌な奴だよ……。好意でくれたんだから、貰ってあげなって」

 憲彦はしげしげと飴を見ると、

「うーん……。まぁ飴だから平気かな……」

 と呟いた。

「平気って何が?」

「いや……昔、手作りのお菓子貰って食べた時、気分悪くなったことがあって………。出来るだけ手作りって分かるやつは受け取らないようにしてる」

「何それ……。何か入れられてたって事?」

「調べてないし、俺しか食べてないからなんとも言えない……。疑うくらいなら貰わない方がいいだろ?市販の物も基本的に受け取らないようにしてる。あからさまに手作りだけ避けるのも悪いし……。この飴は大丈夫だと思うから、貰っておくよ」

 

 イケメンは大変だな……。

 

そう思っていると、

「あっ、依織は別だから。手作りお菓子も弁当も貰うよ」

「…………ああ、うん。信用してくれてありがと」

「どういたしまして」

 憲彦は飴をパクっと口に投げ入れた。

 

 昔もお弁当はなんの疑いもなく食べてくれていた。なら付き合ったあとのエピソードなのかな……。


 

 散策は5キロ圏内といっても、ただ歩くだけではないのでかなりの時間を要した。

 昼ごはんはビル街の隅にポツンとあった中華料理屋に入り、安くてボリュームあるメニューに感動した。

「マンション近くにこんな場所あったんだ。知らなかった」

「ここ美味いな。また来よう」


 

 他にも少し値段設定が安い自販機、品揃えがあるドラッグストア、地元の調味料を売ってる半地下のお店などを発見した。

 

 休憩がてら寄った喫茶店では週末限定でスイーツ食べ放題をやっているのを見つけ、今度由美と来ようかと考えた。

「コーヒー美味しいね、この喫茶店」

「ちゃんと豆を挽いてるんだな。店内もいい匂いする」

 個人経営らしい喫茶店は常連が多いのか、落ち着いた雰囲気だった。スポーツウェアでくる店ではない気がして、少し居心地が悪くなる。

「依織、モンブランあるよ?食べないの?」

 あたしが昔言った好物を覚えてくれていた。

「うん……。注文する」

 そう言うと店員を呼んで頼んでくれた。

 

「憲彦はよく覚えてるよね、あたしの好きな物」

 たった数カ月しか付き合っていなかったあの時期の事を、こんなにも長く記憶してくれるなんて。

「当たり前じゃん。忘れたことないからね」

 当然のように言われ、少し照れくさくなった。

「憲彦はなんで建築家になったの?」

「急に何?」

「いや、将来の夢とか聞いたことなかったから……」

「もともと図面見るのが好きでさ。暇な時、不動産のサイトばっかり見てたんだ。マンションとか一軒家とか。それが高じてこうなった」

 

 そうなんだ……。

 まだ高校2年だったあの時は、進路なんて真剣に考えていなかったから、話題にも出なかった。あのまま付き合っていれば分かった事なのかもしれない。

 

「依織は?大学どこ行ったの?」

「隣の県の経済学部」

「へー。頭いいな」

「そんなわけないじゃん」

「少しずつ教えて、依織のこれまで。大学が県外ってことは、一人暮らし歴も長いんだし、先輩としての知識も授かりたいな」

「大層な知識はないけどね」

「それでもいいの。依織の事が知れれば」


 喫茶店ではのんびり話をした。

 埋まらない過去の時間を紐解くように、お互いの高校卒業後のエピソードを一つずつ話していった。


 少しずつあたし達の時間は動き出した。

 時計の秒針よりも遅く、焦れったいほどにゆっくりと。

 

 でもこれでいい。

 焦らず時間をかけて埋めなくちゃいけない。


 まずは友人として知っていこう。

 

読んでいただきありがとうございます!とても励みになっています。

誤字・脱字報告もありがとうございます。助かっております。

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