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光属性の魔王  作者: 八海クエ
第1章 越境
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第7話 異質であること

 王立アウレリウス魔術師範学院・中等部。


 ティアが廊下を歩いていると、周囲の会話が途切れる。

 視線が一瞬だけ彼女に集まり、すぐに逸らされる。


 ティアは、それに気づいていた。だが、

 気づいていないふりをする。それに慣れてしまった。


 最初は、善意の形をしていた。


「ねえ、あの子……すごく優秀なんでしょう?」

「第二王女殿下とも、親しいらしいわよ」


 評価と事実。どちらも、間違ってはいない。

 だが、言葉は少しずつ形を変える。


「でも、いつも一人だよね」

「近寄りがたいっていうか……」


 理由のない違和感が、共有される。

 やがて、理由が付け足されていく。


「魔王の娘なんでしょう? ちょっと怖いよね」

「魔族って、基本、闇属性じゃないの?」


 優秀だが、異質。正しいが、おかしい。怖い。

 それは昔、どこかで聞いたことのある構図だった。


 昼休み、図書館。


 ティアは、いつもの席で写本をしていた。

 光属性関連文献、やっと三冊目。


 文字を追い、術式を書き写し、余白に小さな注釈を加える。


 集中していると、周囲の音は遠ざかる。


「……ねえ」


 声をかけられて、顔を上げた。


 立っていたのは、以前お茶会で顔を合わせた女子生徒だった。

 表情は柔らかい。だが、どこか探るような目をしている。


「あなた最近、噂になってるの、知ってる?」


 ティアは首を振った。


「いいえ」


「そう……」


 少女は少し言い淀んでから、言った。


「その……第二王女殿下を利用してるって」


 一瞬、言葉の意味が分からなかった。


「どういう……?」


「立場とか。王女殿下と親しくしておけば」

「学院で有利になるでしょう?」


 ティアは、しばらく黙った。

 驚きはなかった。むしろ、腑に落ちる感覚があった。


——ああ、そう見えるのか。


「そう思う人がいるのは、仕方ありません」


 静かな返答だった。


 少女は、少しだけ困ったように笑う。


「……あなた、そういうところよ」


「?」


「正論すぎて、可愛げがない」


 それだけ言って、彼女は去っていった。

 ティアは、再びペンを取った。文字が、少しだけ滲んだ。


「光属性の研究、勝手にやってるらしいわよ」

「危険じゃない?」「未熟なのに、実験とかするの?」


 事実は、歪められる。


 写本が、研究が、

 いつの間にか「怪しいこと」に変わっていく。


 教員の一人が、ティアに注意を与えた。


「個人研究は構わないが、過度な深入りは控えなさい」


 声は穏やかだった。だが背後には、学院全体の空気があった。


「はい。学院の規則は、遵守いたします」


 それ以上は、言わなかった。


 放課後、廊下の角。ティアは、聞いてしまった。


「……あの子さ、優等生ぶってるけど」

「結局、魔族なんだよ」


「いつか、何かやらかすよ」


「だから、今のうちに距離取っといた方がいい」


 声は、抑えられている。だが、確かだった。


 ティアは、足を止めなかった。


 反論もしない。否定もしない。

 正しさを示すことが、学問ではない。


 それでも——胸の奥が、少しだけ冷える。


 その日の夕方。


 学院の裏庭で、ティアは空を見上げていた。

 人間の空は、広い。だが、どこか息苦しい。


「……同じ、だね」


 小さく、呟く。


 従者レイン=ノクスが、その呟きに反応する。


「何が、ですか? お嬢様」


「異質であることは……誰にとっても恐ろしい」


 レインは、否定しなかった。

 ただ、静かに言う。


「同じでありたい、同じであってほしい」


 ティアは、少しだけ考えてから、頷いた。


「……そうだね」


 そして——

 だからこそ、ティアは”知ること”を求めた。

 正しくあるとは、どういうことかを。



お読みいただき、ありがとうございます。


リアクション、☆評価などいただけると

とても嬉しいです。

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