表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光属性の魔王  作者: 八海クエ
第1章 越境
6/18

第6話 優等生

 王立アウレリウス魔術師範学院・中等部。

 ティア・アル=セリオンの名は、学院中に知られていた。


 掲示板に貼り出される成績表。

 最上段には、いつも彼女の名前があったから。


 筆記試験では失点がほとんどなく、

 魔術理論では設問の意図を正確に読み取り、

 実技では、最も効率的な術式を組み上げる。


 突出している。だが、誇示しない。

 年齢にそぐわない成熟が、ティアを目立たせた。


「……また、ティア様ね」

「親父から、求婚しろって言われたよ……」

「え、彼女、もうそこまで有名なの?」


 感嘆と、ため息の混じった声が聞こえる。

 それはすでに、学院の外にまで広がっていた。


 教員たちは、もはや隠さなかった。

 質問を投げるとき、自然とティアを見る。

 模範解答として、彼女のレポートが回覧される。


 ティアに関する情報は、価値が高い。


「今度、お茶会を開くの。よかったら来ない?」


 そう声をかけられたのは、ある昼休みだった。


 誘ってきたのは、数名の女子生徒。

 いずれも成績が良く、家柄も優れていた。

 その中には、第二王女の姿もあった。


「ぜひ、お話ししてみたかったの」


 王女は、穏やかに微笑む。敵意も、探るような視線もない。

 ティアは少し迷ってから、頷いた。


「……勉強の邪魔にならなければ」


 その返答に、何人かが小さく笑った。


 こうして、ティアには数名の“知り合い”ができた。

 お茶会で話すのは、授業のこと、本のこと、進路。


 そこには、悪意はなかった。

 だが同時に、深く踏み込まれることもなかった。


 尊敬。距離。そして、無意識の警戒。


 ティアの社交デビューも、そこそこ進んでいた。


 そんなティアでも、一つ問題を抱えていた。


 光属性に触れる授業が、ほとんどないのだ。


 光属性の使い手は、魔族界でも人間界でも、極端に希少だ。


 使い手が少なければ、研究も進まない。

 研究が進まなければ、文献も残らない。


 結果、光属性の教科書と呼べるものは、驚くほど薄い。

 結界、回復、浄化、そして最低限の攻撃。


 どれも、低級魔法ばかりで、中級以上の魔法が学べない。


 放課後、彼女は図書館に通い詰めるようになる。


 光属性に関する文献は、棚一列にも満たない。

 しかも、その多くは原本が傷んでおり、閲覧制限付きだった。


「持ち出さず、ここでの写本なら……許可は出ますか?」


 司書は少し驚いた顔で答えた。


「本当に、全部、書き写すおつもりですか?」


 ティアは頷いた。


 それからのティアの日課が、決まった。

 授業が終わる。軽く食事を取る。図書館に向かう。


 光属性に関する文献を一文字ずつ、写す。


 ただ写すのではない。術式の構造を理解しながら。

 余白に、自分なりの注釈を書き加えながら。


 なお、後の世に残る教科書『光属性魔法術式体系』は、

 このティアによる『アル=セリオン注』が入っている版か否かで、

 市場価値が全く異なる。


 ティアの作業は地味で、時間がかかった。

 だが、苦ではなかった。むしろ、楽しかった。


 既存の術式には、偏りがある。

 宗教的な解釈に引きずられすぎているもの。

 安全性を理由に、可能性を切り捨てているもの。


「……違う」


 光は、もっと柔らかく使える。

 回復だけではない。浄化だけでもない。

 世界を理解するための光が、あっていいはずだ。


 ティアは、独自の研究を始めていた。

 まだ実験には至らない。今は、整理と構築の段階だ。

 だが、それは確実に、学院の枠を超え始めていた。


 その姿は、周囲の目にどう映ったか。


「真面目すぎる」「付き合いにくい」「優等生ぶってる」


 囁きは、少しずつ形を持ち始めていた。


 お茶会に誘われても、長居はしない。

 放課後の誘いは、ほとんど断る。


「……やることがあるので」


 それは事実だった。だが、理解されることは少ない。


 評価されるために、学んでいるのではない。

 友好を得るために、首位に立っているのでもない。


 知りたい。理解したい。正しく使いたい。


 その純粋さが、

 次第に、周囲との距離を広げていくことを、

 彼女はまだ、深く考えていなかった。



お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ