第5話 新しい世界
中等部への進級と同時に、ティアは転校した。
王立アウレリウス魔術師範学院。
人類最高峰の魔法教育機関であり、世界各国の王侯貴族、
その子弟が集う場所。留学生も多い。
転校とはいえ、中等部の入学式に間に合っていた。
ティアも留学生として、自然に学院生活を開始できた。
アル=セリオン魔王国から、人間のアウレリウス王国へ。
ワイバーンを飛ばせば、4日ほどの距離であったが、
あえて、馬車で40日もの工程を旅した。
「ティアお嬢様、光属性を解放してください」
「それで、魔物を退けます」
「無益な殺生をせずに済みますゆえ」
ティアにとっては、初めての「旅行」である。
「ねえ、レイン! あれはなに?」
同行者は、ただ一人。ヴァンパイア・ロードの従者。
レイン=ノクス・アル=ヴァルディアである。
馬車の手綱を持ち、野営の切り盛りもした。
そうして、ついに王立魔術師範学院の正門前にいる。
二人は、馬車を降りる。寮に入るため、荷物も多い。
レインは、馬車から荷物を降ろしていた。
「レイン、早く行きましょう!」
「はい、ティアお嬢様」
用務員たちが集まってきて、荷降ろしを手伝う。
本人確認があって、寮の部屋の鍵を渡された。
「お嬢様、寮に着いたら、お召し物を替えさせてください」
「寮長様などへのご挨拶が控えております」
「もう、着替えとか、そういうのは……」
「できるだけ、自分でやる……」
レインは一瞬だけ瞬きをしてから、静かに頷いた。
「承知しました。必要な時だけ、お呼びください」
ティアは、魔王の長女である前に、十二歳の少女でもある。
最近は……その距離感を、レインは少し測りかねていた。
ティアは、噛み締めるようにして学院の門をくぐった。
その時、魔王国では聞いたことのない鐘の音が響いた。
「レイン! あの音はなに?」
そうしてティアは、寮の個室に落ち着いた。
レインには、従者専用の宿舎があてがわれた。
何もかもが目新しい。何もかもが違う。
それはなぜか、ティアの感情を大きく揺さぶった。
到着して5日後、入学式。
ティアは、注目を集めた。
講堂に新入生たちが集められている。
「誰? あの綺麗な……エルフ? エルフよね?」
「どこの貴族? 夜会でも会ったことないわ」
「まさか……例の、魔王の長女?」
ティアは、その整った外見のみならず、
所作、立ち振る舞いからも周囲の目線を集めてしまう。
ダークエルフなのだが、肌の色はむしろ白い。
時折、光の粉のようなものが周囲に舞い散る。
ここでは、光属性を制御する必要がない。
人間の世界においては、光属性も闇属性も、極端に少ない。
そもそも魔法を使える者は、ほとんど貴族に限定されていた。
ティアから漏れ出る光属性が、他人を傷つけることはない。
ティアは生まれて初めて、自分でいられるような気がした。
入学式の後、ティアは多くの生徒たちに話しかけられた。
「ティア様ってお呼びしてもいいかしら?」
「ねえ、あなた。その髪留め、どちらでお求めに?」
「今度、お茶会にお呼びしてもよろしいでしょうか?」
同年代の子どもたちに、好意的に接してもらえている。
これまで、そんな経験がなかったティアは、大いに狼狽した。
「お嬢様、よかったですね……」
従者レインの目に、涙が滲む。
レインは、自分にも涙があったことに驚いている。
そんなレインも、細身長身の若見えする紳士。
女生徒たちの、視線の的になっていく。
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