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光属性の魔王  作者: 八海クエ
第2章 旅立ち
24/26

第24話 正しさの所在

 王宮の会議室は、いつもより静かだった。


 窓は閉じられ、外の音は遮断されている。

 書類の紙擦れだけが、淡々と時間を刻んでいた。


「以上が、現在までの報告です」


 記録官がそう締めくくると、室内に沈黙が落ちる。


 内容は簡潔だった。

 襲撃事件。死者なし。刺客は無力化。

 目撃証言は有効。事実として認識できる。

 治癒魔法による回復事例。司祭との取引。

 教会書庫への立ち入り。

 聖女に関する資料の閲覧。


 どれも、致命的ではない。

 どれも、無視できない。


「危険性は?」


 第一王子が問うた。


 声は低く、平坦だった。

 そこに感情は含まれていない。


「即時の危険はありません」


 補佐官が答える。


「被害は抑制されています」

「あくまでも、正当防衛の範囲です」


「では、なぜ議題に上がる」


 第一王子は、書類から目を離さなかった。

 補佐官は一拍置き、言葉を選ぶ。


「……管理できないからです」


 その一言で、意味は通じた。


 善か悪かではない。

 敵か味方かでもない。


 枠に収まらない。


「殺さない。だが、止める」

「救う。だが、例外を作る」

「制度を尊重する。だが、従属しない」


 それらは矛盾しているようで、

 一つの意思に貫かれている。


「理念がある」


 第一王子は言った。


「しかも、自覚的だ」


 記録官が小さく頷く。


「感情による暴走ではなく……選択」


 第一王子は、そこでようやく書類を閉じた。


「……厄介だな」


 吐息に近い言葉だった。

 怒りでも、嫌悪でもない。


「排除は不要かと」


 補佐官が言う。


「現時点では、むしろ逆効果になります」


「捕縛も不要。いや、おそらくは不可能」


 第一王子は続けた。


「彼女は、逃げない」

「逃げる者は、あんな偽悪的な請求はしない」


 それは断定だった。

 そして、室内の誰もそれに反論しなかった。


「では、どう扱うべきか」


 第一王子は、少しだけ考えた。


「……記録する」


 それが答えだった。


「裁かない。称えない。だが、見過ごしもしない」


 彼は、ゆっくりと言葉を積み上げる。


「正しさを”自称”する存在として扱え」


 記録官の手が止まる。


「自称……ですか」


「そうだ」


 第一王子は頷いた。


「正しさは、名乗った瞬間に疑われる」

「それでも、それを名乗るなら——」


 視線が、遠くを見る。


「耐えられるかどうかを、見極める必要がある」


 補佐官が、静かに言った。


「……王女殿下は」


 第二王女の名は出なかった。

 だが、誰もが理解している。


「関係ない」


 第一王子は即答した。


「彼女は、もはや王宮の外にいる。それでいい」


 それは切り捨てではなかった。

 守りだった。


 第一王子は立ち上がる。


「正しさは、個人のものではない。だが——」


 一瞬、言葉が止まる。


「個人が、正しさを引き受けようとすることまで……」

「否定する権利は、王にすらない」


 その言葉は、記録されなかった。

 記録官が、あえて書かなかったのだ。


 会議は、そこで終わった。


 同じころ。


 王都から離れた街道沿いの宿で、ティアは窓を開けていた。

 朝の空気が、冷たく頬を撫でる。


 机の上には、何もない。だが、彼女は知っている。

 自分が何を選び、何を差し出したのかを。


 シオンが、背後から声をかけた。


「……このまま進むと、城塞都市アベルです」


 ティアは頷いた。


「ええ」


 そこに向かう理由は言わない。

 ただ、城塞都市には傭兵が多くいる。


「面倒がなければ良いのだけど」


 誰に向けた言葉でもなく、ティアは呟いた。


 レインが、外套を整えながら言った。


「逃げ場は、ありませんね」


「最初から、逃げてないわ」


 ティアは静かに答えた。


 正しさを掲げた瞬間に、逃げ道は消える。


 それでも。

 ティアは歩き出す。


 正しさの所在を、

 まだ誰も決めていない世界へ。



第2章・了



これで、第2章も完結です。第3章に続きます。

お読みいただき、ありがとうございます。

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