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光属性の魔王  作者: 八海クエ
第2章 旅立ち
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第21話 ならされた日常

 王都の裏通りは、昼でも静かだった。

 城壁の影が長く伸び、商人の声もここまでは届かない。


 シオンは、通りの向かいにある二階建ての家を見上げていた。


 石造りだが簡素で、王家の紋章も、警備兵の姿もない。

 洗濯物が風に揺れ、窓辺には鉢植えが並んでいる。


「……本当に、ここですか?」


 思わずシオンがそう呟いてしまうほど、拍子抜けする光景だった。

 隣で腕を組むレインが、気だるげに答える。


「そのようです」


 続けて、説明する。


「第二王女エミリア=ハイデルグ様。王位継承権は、実質的に剥奪」

「表向きは“静養”ってことになっているようですが」


 玄関の扉が開き、若い女性が顔を出した。


 淡い色のワンピースに身を包み、手には買い物袋。

 後ろから、侍女らしき女性が続く。


 レインが呟く。


「強力な監視……兼、護衛はついているようですね」


 シオンは、息を呑んだ。


「それ以外は……普通ですね」


 エミリアは、笑っていた。

 通りすがりの子どもに声をかけ、袋から果物を一つ渡している。


 王女というより、近所の優しい姉のよう。


「念のため、使い魔だけは残しておきましょう」


 レインの背後から、一匹のコウモリが現れ、飛んで行った。

 それからレインの口元が、わずかに歪む。


「想定外です。敵に関する考えを改めないとなりません」


 二人は、一定の距離を保ったまま、しばらく様子を見守った。

 やがてエミリアは侍女ともに家に戻り、通りは再び静寂を取り戻す。


 扉を閉める際、侍女は、一度だけ後ろを振り返った。


 その夜。  


 非合法の簡易宿、その一室で、ティアは地図を広げていた。

 王都から伸びる街道、教会の支部、冒険者ギルドの位置。


 そこに、シオンとレインが戻ってくる。

 シオンが、率直に告げる。


「第二王女は、無事でした」

「民に混じって、普通に暮らしていました」


 ティアは、ゆっくりと顔を上げた。


「そう」


 それだけ言って、地図に視線を戻す。


 レインが続けた。


「王宮の様子も、少しだけ掴めました」

「第一王子は、かなり実直なお方のようです」


「うん、そうだね」


 ティアは、少し考えていた。

 ややあってから、ティアは確信を口にする。


「刺客の甲冑についていた印、あれ、わざとだね」

「私に、エミリアが無事だと知らせるため」


 シオンは、言葉を探すように少し間を置いてから、尋ねた。


「……第一王子のこと、どう思う?」


 部屋の空気が、わずかに張り詰める。

 シオンもレインも、解釈を述べるようなことはしない。


 ティアは、地図を畳み、机の上に置いた。

 それから、おもむろに言った。


「彼は、正しい王子だよ」


 迷いのない声だった。


「民を守ろうとしているし、制度を重視している」

「感情で誰かを切り捨てたりもしない」


 シオンは、ほっとしたような、しかし複雑な表情を浮かべる。


「じゃあ……敵じゃないのですか?」


「敵ではありませんね、たぶん」


 ティアは、慎重に否定した。


「でも、味方でもない」


 レインが、薄く笑った。


「国同士、とても正常な関係ですね」


「うん、そう思うよ」

「ある意味、とても信頼できる」


 ティアは、窓の外を見る。

 夜の王都は、昼と同じように整っている。


「彼は、第二王女を守っている」

「制度の中で、最善を尽くしている」


 シオンが、思わず尋ねた。


「しかし……刺客を差し向けているのも、第一王子では?」


 ティアは笑って答える。


「国家反逆罪に問われている者に対し」

「第一王子として、刺客を向けないわけには行かないのよ」


 ティアは、はっきりと言った。


「あえて三流を差し向け、将来の魔王を推し量っています」


 レインが、楽しそうに肩をすくめる。


「あなたたち王族は、ほんとうに面倒ですね」


「知ってる」


 ティアは、わずかに微笑んだ。


「第一王子は、第一王子として正しい」


 その声は、確信に満ちていた。


 ならされた王都の夜に、静かな波紋が広がり始めている。


 それに気づいている者は、少なかった。



お読みいただき、ありがとうございます。

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